第776話 露天風呂 (叶・桜)
「ふむふむ、T字型に区切られてるのか」
二人はこの温泉の脱衣所前まで来た。案内板には、全体の二分の一を占める混浴と、四分の一ずつの広さを持つ男女別の場所が書かれていた。なお、どちらも露天風呂である。
「やっぱり混浴が一番広いのね」
「でもここはしっかり男女別があるから。入ろっか」
「うん、じゃあね」
「じゃあね」
二人は別れ、それぞれの性別にあった脱衣所に入って行く。
「おお、温泉の面積の四分の一しかないから狭いと思ってたけどそんなことないみたい」
服を脱ぎ、タオル一枚とバスセット一式を持ったサクラは想像より広い女風呂に満足していた。
ここの入浴時のルールは基本的に地球の日本と同じものである。
身体をさっさと洗ってしまい、すぐに温泉の中に入った。
「ふぁ~……」
露天風呂のため、目の前に広がる山々の景色。まず都会では味わえないようなものであった。
「そういえばまともに温泉入ったのはじめてかも。……おっ」
自分の半生を思い返して、サクラはそう、独り言をつぶやく。同時に木の板で簡単に作られた5メートルほどの高さがある壁の向こうから、水音が聞こえてきた。
サクラが現在座っている地点には、男風呂の方が近い。
「はーふー」
「おーい、叶っ!」
「ん、桜? 近くに居るんだね」
「うん! ……あ、そうだ」
サクラはあることを思いついた。
「え、どうかした?」
「ううん、何もない!」
カナタにはそう答えつつ、サクラは透視を発動させた。そして木の板を透かし、彼がどこに居るかを突き止める。カナタは壁の真近くに、それ背にして景色を楽しんで居るようだった。
場所がわかるなりサクラはその場所へと移動する。
「ん? もしかしてサクラ、こっちに来た? 壁挟んでそこに居るの?」
「え、あ、あああう、うん! そう、多分来たわよ!」
「よく俺の居る場所がわかったね」
「目の見えない時期が長かったから……その分音でわかるのよ」
「そういえばそうだったね」
自分に向けて(板の壁に向けて)ずっと背を向けているカナタ。いても覗いているようにカナタをまじまじと見たかったが、顔が見えないのでサクラは飽きて、風景の方を向いた。
「私ね、ちゃんと温泉入るの初めてかもしれないのよ」
「目だね」
「そう、何回か行った記憶はあるけど、お姉ちゃんに介護されながら入ったし……眼鏡は基本外さなきゃだし、つけて良かったとしても曇ってまともに風景とか見れたもんじゃなかったわ」
現に曲木一家が温泉に行くという際、サクラは残って成上家にお世話になるということがあった。
しみじみとしているサクラをカナタは励ます。
「まあ、ほら、まだ人生長いし、これからこれから」
「うん! たくさんいろんなところ連れて行ってくれるんでしょ? 期待してるからねっ」
「ふ……我についてくるなら、普通のことはできないと思うべきだな」
会話は途切れ、数分、二人共が入浴に集中する。しかし普段からずっと一緒にいるカナタとサクラの沈黙はあまり長く続かなかった。
「ね、どっちが長く入れるか競争でもしようか」
「いや、やめとくよ。そういえば昔はよく競争とかしてたなぁ。実際桜がガリガリ勉強してうちの学校で学年一位とったのも、俺と競争してるようなものだったじゃない」
「してたわね、競争。腕相撲とか駆けっことかもしたっけ。でも……成長するに従ってだんだんと敵わなくなって行くものなのよ、私は」
昔と言っているがまだ6、7年前、下手したら3、4年前の話である。カナタはサクラに答えた。
「まあ、性別上それは仕方ないよ。男女間で得意不得意はあるものだし。……お互いの良いところでも言い合って、多く言った方が勝ちとかやってみる?」
「やめとく。どうせ私の勝ちだし」
「え、そうなの? 俺だって桜の良いところたーっくさん言えるよ」
「え、えへへ、ありがと。でも私の方がかにゃたの良いところたくさん言えるかな!」
二人はそんな調子で思い出話を中心に話し合いながら、気がつけば五十分は温泉に浸かっていた。
もちろん、のぼせ始める。
「だいぶ長く入ってるよ、のぼせそうだ。ステータス的に大丈夫なんだけど」
「もうそろそろ出る? どうせここには何泊かするんだし、入れるのは今だけじゃないでしょ?」
「そうだね、じゃああがろっか」
二人は壁越しに、同時に立ち上がった。
その瞬間、ずっと忘れずに貼り続けたカナタの探知に1匹の高ランクの魔物の反応が映り込む。
「サクラ、気をつけて! たぶん、オーナーさんが言ってたやつがやって来た! ……ここめがけて来てるみたいだ」
「うん、ほんとだ……私も探知して見てるけど、本当に来てる……!」
「というかこの速度……ドラゴン種か!?」
その時、カナタの方の温泉で水しぶきが上がる。カナタの目の前には緑色で、背中に苔が生えたようなドラゴンが現れていた。
「来た! 倒すよ!」
「うん!」
「ぐおおおおおおおお!」
「気が早いな、いきなり魔法撃ってくるなんて」
咆哮とともに放たれたドラゴンの魔法。カナタは回避することもなくその場に立ち、ただ耐えた。
しかしその魔法は最上級魔法だったようで、範囲が凄まじく、立ち受けしようとしていたカナタを飛び越えて木の壁に当たった。大きく粉々に粉砕される。
「きゃっ」
サクラに木の破片が飛んで来た。つい反射でそう呟いただけだったが、カナタにとって十分に悲鳴に聞こえてしまった。カナタも反射でそちらを振り返る。
「桜! だいじょう……」
「え……?」
「ぶ…………あっ……」
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温泉回ですよ、Levelmakerの温泉回で何もないはずないですよ( ・∇・)
それはさておき、昨日は休載して申し訳ありませんでした。ちょっと体調がすぐれなくて(´・ω・`)
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