第773話 ダンジョン (親)
「この穴は何だろう」
「お、落ちないように気をつけてね」
父親はその穴をのぞいて見た。肉眼で確認できる穴の底は、まるでコンクリートで作ったような地面が広がっており、また、穴の底にしてはやけに明るかった。
さらには穴の側面は階段のようになっている。
「大きな穴なのに底が光っており、床はまるで人工物。間違いない、ダンジョンだ」
「こ、これがダンジョン……! どうするパパ?」
「ふふふ、はいってみるしかないだろう」
二人は手を繋ぎながら、ゆっくりと階段のような壁を降りて行く。やがて地面についた。
頭にメッセージが浮かんでくる。
【トリアエリアル山の「哀しみ」のダンジョン に 入りました】
その表示が出た途端、嬉しそうに父は母に語りかける。
「なあなあ、出てきたか今の! すごい……いかにもって感じで血がたぎってくる!」
「やっぱり有夢と叶はパパのそういうところが似たのね」
「そうだとも、是非とも攻略しないと」
そこは一つの大きなホールとも宮殿とも似ているようで似ていない雰囲気であった。
ここを中央として、部屋が6つ続いている。
そのうち一部屋は扉で固く閉ざされていた。
「ふぅむ……たぶん、この一部屋一部屋に魔物がいて、それら全てを倒したら中央の部屋が開くのかな」
「きっとそうだね。どうする? もう挑戦しちゃう?」
「ああ、一部屋だけ入ってみよう。Aランクの魔物とかが出てくるかもしれないから警戒を怠らないように」
二人は右側の、自分たちから一番近かった部屋に入る。目の前には実に巨大な化け物がいた。
「うわ、なにあれゴブリン?」
「んーと、トズマホによればオーガだそうだ。あれは普通のオーガよりさらに強いみたいだね。へぇ……オーガかぁ! しかしあんなでかい剣を持って襲ってくるのは怖いなぁ!」
「あ、まってやってきた!」
オーガは大剣を振り回し、二人に迫る。
だがあと2歩のところで、その動きは止まった。
「うへ、なかなか力が強いよこいつ。止めんのムズイ」
「まあ、怖い顔」
「とりあえず10歩くらい離れて」
オーガは反発するように筋肉を動かしながら、一歩、また一歩と二人から離れて行く。そして十分な距離開けられたところで、腕が動いた。
片手で握っていた大剣にもう片方の手が添えられる。
オーガは必死に抵抗をしているが、なぜかそれも意味はなく、やがてオーガは自分の心臓に自分の刃を刺してしまう。
Cランクの魔核が8個、体から溢れ落ちた。
「ふむ、こんなものか」
「おおっ!」
「えーっと……あのオーガはグランオーガっていうBランクの魔物みたい」
「え、でも魔核はCランクだよ?」
「複数個出てきているし、恐らく劣化種ってやつだろう。とりあえずお金になるし全部回収させてもらおうか」
二人は剣以外を全て袋の中にしまった。
「この剣はどうするの?」
「次の部屋で使う。このまま念術で浮かせてもっていくよ」
その宣言通り、彼は大剣を宙に浮かせたまま部屋を後にした。中央の扉が一つ光っているのが目に入る。
「ふむ、あと4部屋か。じゃあサクッとやっちゃおう、サクッと」
今度は前に入った部屋の隣へと移動する。
その部屋の中には鳥のような顔に牛のような身体がついた謎の生物が。
「ああいう地球では考えられない生き物がいるのもこの世界の楽しいところだよね」
「……魔法撃ってくるみたいだけど大丈夫?」
「ああ、うん大丈夫」
牛鳥は口から水の砲弾を放つ。
上級魔法であるウォーターキャノン。しかし父はその一発を念術で逸らし、移動することなく回避した。
「いやぁ、できるかもって思ってたけど、敵が発射した魔法も操れるんだね。上級魔法はちとキツかったけども」
「失敗したらどうするつもりだったの?」
「前みたいにどうせ有夢が動くでしょ」
「確かにそうね」
「さて、今度はこっちの番だ」
牛鳥はすでに動けなくなっている。この上に広い部屋、そこには先程二人が手に入れた剣が切っ尖を真下、つまり牛鳥の身体に向け、宙に浮いている。
「それ」
剣は牛鳥めがけて落下。念術で綺麗に刺さるように調整されたその大剣は、深々と牛鳥の身体の真ん中に突き刺さる。Cランクの魔核が7個出た。
「やっぱ一本こういうのはあると便利だなぁ」
「そうね。ところでこの魔物は?」
「うーんと、ノートフォーガとかいう魔物の強化版みたいだ。普通は北のほうの国にいるみたい。……肉は高級品でとても美味だってさ」
「そういやお昼ご飯まだだったわよね?」
「お、食べちゃう?」
「食べちゃう!」
二人は買っておいていた調理器具セット一式をその場に広げ、牛鳥を解体し(父の念術で手が汚れないようにされた上で)、食べてみた。
「やっぱりこの世界の魔物のお肉って、本当に美味しいわよね」
「まずこの世界の人たちの味覚が地球よりも優れてるとみえる」
「そうだ、前々から相談しようと思ってたんだけど、料理のスキル持ってるの。最大まで上げてみていいかな?」
「お、もしかしたら有夢の作るような料理ができるかもしれないね! やっちゃえやっちゃえ」
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