第772話 旅行の楽しさ 3 (叶・桜)

「へい、着きましたよ」

「ありがとうございました」



 二人は次の村に着いた。また御手にどこを観光したら良いか聞こうとしたが、彼は二人が村に着いたことを喜び合っているうちにさっさと行ってしまったようだった。



「んーっ、足腰が痛い…」

「ずっと座りぱなしだったからね。おぶろうか?」

「せっかくだけど、そこまでじゃないわよ。さすがに村に入っていきなりおんぶは変に思われるって」

「そうかな。お、人がいる」



 近くの休憩所らしきところに座っている老人が居たので、二人はその人にこの村はどんなところかを訪ねることに。



「ええ、お二人さんよく来なすったね」

「温泉が有名な村に向かう中継ぎとしてここに立ち寄ったんですけど、良い観光場所とかありますか?」

「あー、この村はなーんもねぇだ。たしかに中継ぎに使われることが多いから馬屋、宿屋、飯屋は1軒ずつあるけどな」

「そうですか……」



 二人は老人にお礼を言い、とりあえず村の中を歩き始めた。たしかに言われた通り、宿と飯屋以外は何もない。

 


「どうする? 今はまだ昼過ぎだし、馬車を捕まえてもう次の村に向かおうか」

「んー、こんなのどかなところも悪くないと思うの。一泊してのんびりしてくのもいいんじゃない?」

「そっか、じゃあそうしよう」



 カナタとサクラは宿屋に入り、部屋を借りることにした。例によって二人で一部屋。

 それが済んだら散歩に出かけることにした。



「はぁ……空気が美味しい」

「美味しいのはその手に持ってるドーナツじゃないの?」

「それとは別よ、別」



 特に何か変わったことをすることなく、その一日はあっという間に過ぎていった。



______

____

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「はい、着いたよ。お客さんの目的地はここの次の村のはずだ」

「ありがとうございましたー」



 前の村を出て、一般的な広くも狭くもない馬車に乗り、さらに次の村にやってきた。

 第一村人を発見したカナタが何かに気がつく。



「この村はどうやら獣人の村みたいだ」

「ネズミだね」

「ハハッ、そうだね」



 どうやらこの村は観光客がそれなりに訪れるようで、馬車も今まで立ち寄ったどの村よりも多く置いてある。

 村の観光案内所もあるみたいなので、二人はそこに立ち寄ってみることにした。



「ようこそです! カップルさんですか?」



 案内所の受付に向かうと鼠族の女の人が声をかけてきた。灰色の髪の毛に、大きな耳が生えている。

 齧歯類である獣人だが、出っ歯であるということはない。



「はい、温泉地に向かうための途中で立ち寄りました。1日か2日ほど滞在しようと思います。観光や宿屋は……」

「はいはい、この資料に一通り書いてますよ! 是非ご覧ください。この村はチーズが有名なんです! チーズの生産だけなら牛族の乳製品に負けません! チュー!」



 さらに話を聞いたところ、自分たちがチーズが好きすぎて作るようになったこと、この村はかなり広いがそれも牧場を作るために広げたということ、牛もチーズ用に品種改良していることなどを聞いた。

 お土産品やレストランで出るおススメ料理もチーズということも。



「どうです? あ、もしかして牛乳嫌いだったり身体に拒絶反応とか起きます? それならこの村はオススメできないのですが」

「いえ、それは大丈夫です」

「チーズケーキとかありますか?」

「もちろんありますよ、チュー」



 サクラはものすごく嬉しそうな顔をした。

 時刻もちょうどお昼時であったため、二人は早速、この村で一番高級で高等なレストランに入る。



「いらっしゃいませ」

「オススメはなんですか?」

「本日のオススメはチーズフォンデュ、そして暴焼牛のブルーチーズ添えでございます。そして当店の一番人気メニューはパンとラクレットチーズでチュ……失礼、です」

「俺が決めていい?」

「いいけど、デザート忘れないでね」

「じゃあチーズフォンデュ二人前と、パンとラクレットチーズ。チーズケーキなどはありますか?」

「はい、このメニューをご覧ください」



 チーズケーキだけでもものすごい量であったが、サクラはその中からレアチーズケーキ含む6つ選び、カナタは1つだけ選んだ。

 しばらくして頼んできた通りのものが運ばれてくる。

 デザート系は食べ終わった頃に。



「すごく美味しそう! これアニメでみたアレじゃん!」

「じゃあ早速食べようか」

「いただきます。……ね、カナタ」

「なぁに?」

「あーん、してほしい?」

「え、チーズフォンデュで?」



 熱々のチーズに絡めたウインナーを、サクラは差し出してきていた。机にチーズが垂れる。

 熱い証拠として、煙が上がっていた。

 

 失敗したら火傷をする可能性すらある。それにサクラは気がついていなかった。……カナタはそれを受け入れることにした。



「うん、してよ」

「はいあー……まって、これこのまま押し付けたら熱いわよね?」

「うん」

「ごめんごめん、じゃあもう少し冷めてからね」



 カナタは火傷せずに済んだ。

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