第741話 船の中 (翔)
「なかなか港町も面白かったねっ!」
「だな」
すっかり機嫌を戻したリルが幸せそうに俺の腕を組んでくる。やれやれ、一時はどうなるかと思ったぜ。もうリルの誘いは明確な理由がなきゃ断らない方がいいかもしれない。
俺自身にとってもそのほうが良さそうだ。
もしかしたら逆に俺から誘う回数を増やせば何か変化が起こるか? まあ深く考えてもしゃーないか。
港町はどうだったかと聞かれれば、まあ特になんの変哲もなかったかもしれん。魚が美味かったし、磯の香りも景色もまあまあ良かった。
さらに夜にはリルが水着をきて見せてくれたしな。
海水浴に行かない限り着ないからって。結局な。
「船で何日かかるんだっけ?」
「3日だな」
出ている船がこれしかなかったため、あんまり豪華じゃない。海の魔物でも攻めてきたら沈没してしまいそうだ。衛生面は普通にいいし、個室を用意してもらってるからリルが悶々とし始めても相手してやることができるがな。
「外で海眺めててもいいかな?」
「ああ、いいぞ。……酔い止め飲んどくか?」
「ありがとう」
別にリルは酔いやすくはないが、念のためな。
「って、ショーも一緒に行こうよ!」
「あっ…悪い、気がつかなかった。行くわ」
そうだよ、何をボケーっとしていたんだ。リルとの旅行なのにリルに一人で外の景色を見せるのは良くないぜ。
というわけで一緒に外に出た。
出航してから10分、まだ街は見えている。
「海ってのはいいもんだね。広いしどこにでも繋がっている」
「おお、そうだな」
「ショーは山と海、どっちが好きかな?」
山はキャンプとか楽しいし、海は泳げて女の人の水着が見れるからなぁ。
そういや、昔はたまに3…いや、叶君たち含めて5人で海に行ったけな。だが美花と桜ちゃんの水着姿ってスク水以外見たことなかったりする。だいたい半袖短パンだったし。思い人以外に対しては鉄壁だからなあいつら。
まあリルも海水浴に行かずに俺だけに水着を見せたいとか言ってるんだ。そういう女の人って多いのかもな。
「……うん、堪能した」
「もういいのか。10分も経ってないぜ?」
「いいんだよ、どっちみちお部屋から見れるし。それより遊ぼうよ、ショーっ」
部屋に戻った俺とリルはテレビゲームをして遊んだ。
馬車の中では拒否してたのに、もはやこれくらいしかすることがなくなったんだよな。
「そうだショー。次はどうする?」
「ん? 次?」
「そうそう、次の……その……一つになる時間というか」
いまだに濁していう時があるリル。お茶目だ。
「ああー、明日でいいだろ」
「いいのかい? いつもと違って1日しか空いてないことになるよ?」
「構わねーよ」
リルがそれでいいならな。
今も照れながらハニかんでるし。
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「ついたーっ!」
「なかなか長い航海だったな」
途中でSランクの海の魔物と遭遇したりしたが、まあ俺たちが居たから特になにも危なげはない旅路だったぜ。
船の他の乗組員や乗客からはめちゃくちゃ感謝された
けどな。
カジキマグロみたいなそのSランクの魔物の塩焼き美味しかったし。
「まずこの国の関所抜けねーとな」
2時間ほど歩き、一番近い関所から入国手続きを済ませる。エグドラシル神樹国への入国理由は彼女の帰郷。まあ、そのままだな。
リルは関所に入る前に俺が渡した赤頭巾を被り、強く手を握ってきた。……そろそろだからな。
自分のトラウマだらけの土地で数日間過ごさなきゃならなくなるのは。
「さて、ここからどーするかな。一回城下町まで行って、トールさん達の様子を見つつ拠点的なのを作ってからリルの故郷を探すか」
「私の故郷は場所を移動することがあるから……なにか専門の道具がないと見つけられないと思う」
「まあ、それはスキル頼ればいいな」
まずは2時間の道を戻って港で宿を取る。長居するつもりはないから普通の部屋をえらんだ。
1月から4月までが春だとされているアナズムだが、日本でも北海道とかと同じ感じで、この国は少し他より冬が長い。
2時間の間、寒かったことは寒かったが、リルが抱きつき気味に腕を組み、マフラーを二人巻きしたから凍えはしなかったぜ。
「宿についたね。もうすっかり真っ暗だ。…夕飯も食べちゃったし、お風呂入って寝ようか」
「リル、風呂に一緒に入るか?」
「え、それって……」
今回の旅で俺はグイグイ行くことに決めた。
リルが察している通りのことを俺は期待している。
「いいの?」
「……不安なんだろ、色々。甘えに来いよ」
「本当にいいんだね?」
何回も確認してきたように、風呂に一緒に入ったあと(狭かったからだいぶ密着することになったが、俺にとって得でしかないな)、リルは少し涙を流しながら甘えてきた。
そうとうな覚悟で俺についてくるように頼んだんだ。
せめて、一番の心の拠り所でいてやらないと。結婚前提で付き合ってる彼氏なんだし。
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