閑話 桜の日常考察

 前の閑話のサクラバージョンです。日常の一つを切り取りました。

 普段は一人称じゃない子たちをこうやって書くのはなかなか新鮮であります。


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 私は目を覚ました。

 大きなベッドの中……叶の身体が真隣にある。まさか叶と添い寝することが当たり前になるなんて、去年の私は想像できたのかしらね。


 一緒に一つのベッドで眠ることが当たり前になっている今、身体はもちろん密着している。でもそれも前よりは慣れた。朝起きたらいつの間にか抱きつきあっていただなんてことも良くあるし。

 そう言えば叶のガタイが良くなって来たような気がするな。翔さんみたいにムッキムキな叶も悪くないけど…やっぱり華奢な方がいいかも。


 男子にしては長い髪の毛を上手く整えて、普段は自分を男っぽく見せている。本当はあゆにぃと同じで女の子みたいな顔をしているの。

 だから眠っているときは、本当に女の子にしか見えない。

 そんな嫉妬したくなるほど綺麗な顔を、私はジッと見つめた。



「いいよね?」



 叶が眠っているから、隙だらけだから、私は意図的に抱きついた。

 10年以上の間、私はほとんど盲目に近かったけど(専用のメガネがなきゃなにも見えない状態)、その間学校とかで介護してくれたのは叶だった。

 一緒に登下校する時も、ずっと守るように私に腕を掴ませてくれて。そう……3歳から14歳、アナズムに来るまで。


 そりゃあもう、叶に抱きつくのが癖になっちゃってるわけで。今更やめることなんてできない。

 ……もしかしたら、私が抱きつきたいだけなのかも知れないけれど。

 リルちゃんが翔さんのことを自分にとっての王子様だなんて言ってたけど、私にとっては間違いなく叶がそれ。


 頭が国際的な組織に研究されるほど良くて、顔もこんなに可愛…かっこよくて、運動だって通知表で5を取れるくらいにはいいし…アナズムに来てからは抜群だけど。そして性格なんて言うまでもなくて。

 ずっと私のことを守ってくれてたし、今も守ってくれている。アナズムでも命懸けで私を守り続けてくれた! これで好きにならなかったなら、私は人としての感性を持ってないでしょうね。



「もう少しだけ」



 私は叶の頬にキスをした。

 えへへ、やっちゃった。叶は睡眠が深いからこれくらいやってもバレない。まあ、起きてるときにやっても喜んでくれるだけだけど、それは私が恥ずかしい。


 もう叶と結婚する約束だってしてるしね!

 高校を卒業したら18歳。そうしたら結婚してくれるって。そのための資金も用意していて、一生暮らせていけるだけのお金を得られる目処が立ってるとも言っていた。


 叶と居られるなら別にお金なんていいけれど、私のためだって頑張ってくれてる叶は本当にかっこよくて…。


 もちろん大学にも進学する。だから子供を作るのは大学卒業後。……よく考えたら8年後なのよね。私に上手く子育てできるかな? まだ想像つかないや。

 

 そ、それと……その、中学を卒業して高校生になったら…エッチをするって約束も…ある。

 お互いそう話はつけてるし、周りもそれがいいって言ってる。ま、その時が来てもさすがにお姉ちゃんとあゆにぃみたいに隔日でなんて多すぎる頻度でしたりしないけどね。 ……いや、わかんないわね。案外。


 でも叶ってエッチなことに興味あるのかしら?

 私が強く抱きつけば胸が当たるから照れるみたいだけど、それ以外では男の子らしい反応は思いつかないのよね。


 叶もやっぱり見た目はどうであれ男の子だし、どうしても、どうしても、悶々としてしまうなら、周りは早いって言うけれどそれを押しのけて私がなんとかするっていう選択もできたんだけどなぁ。

 それがないからなぁ。

 うーん。まあ、まだ私たちまだ中学生だし性事情なんて人それぞれよね。


 私はふと時計を見た。

 そろそろ起きて……私の未来の旦那様に朝ごはん作らなくちゃ、なんてね。ご飯の匂いで起きてくれるはずだから。


 簡単にスープとパンとオムレツとサラダを作った。

 オムレツにケチャップでハートを書いちゃったり。



「ふあああ…ご飯か……おはよう」

「おはよう、叶。ほら、座って座って」

「んぅー」



 普段はしっかりしていて抜け目ない叶の貴重な寝ぼけているところ。毎朝見れるのは私だけっ。可愛い。

 でも来年は修学旅行で他の男子たちが見ることになるんだろうけど。



「ん、今日も美味しいね」

「そ、そう。えへへ、ありがとかにゃた」



 たった一言で私の心臓はドキドキする。ふふ、いくら一緒にいるのが当たり前で添い寝もしてるって言ったって心から大好きなことには変わらないもん。

 ……そうだ、今のうちにさっき考えてたこと質問してみようかな。寝ぼけてて忘れてくれるかもしれない。



「ね、叶」

「なにぃ?」

「叶って、他の男子たちみたいにその…エッチなことに興味があったりしないの?」

「え? なにを聞き出すの…」

「ちょっと気になっちゃって。ちょっとだけ!」

「ん……んー、人並み、かな」

「え、ほんと?」

「ほんとほんと」

「じゃあ私が抱きついてるのは嬉しいの? 性的な意味で」



 私は胸が大きい。クラスの中でもかなり。

 あと少しでお姉ちゃんと並ぶくらい。お姉ちゃんが今の私と同い年だった時はもっと小さかったって言ってた。



「ええっ……なんて答えたらいいんだろうね、まあ、それも人並み…かな?」

「へー……じゃあここで私、上半身裸になってみようか?」



 まだ、叶にはそういった男女の羞恥が別れてから、裸を見せたことがない。……ちっちゃい頃お風呂に一緒に入ったとかそう言うのってもうこの歳になると関係ないじゃない。

 ……ていうか言わなきゃよかった。

 すごく恥ずかしい。

 いや、叶なら、一言言ってくれれば、もう私はなにをされても大丈夫なんだけど。うん、仮に裸になって……襲われちゃったとしても、叶なら。

 ……でもやっぱり恥ずかしい。



「桜自身が恥ずかしいくせに何言ってるの」

「あっ…ぐぬぬ」



 思考を読み取られたみたいにそう言われた。

 結局、どうなのか聞き出せなかったわね。それどころか上手くはぐらかされた気さえする。

 …私自身も恥ずかしいし、今日はここのところで。

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