第712話 リルの誕生日 (翔)
目が覚めた。
今日はリルの誕生日だ。5歳より後の誕生日は全て祝われなんてしなかっただろうからな。
……ほぼ、初めての誕生日会だと言っても過言ではないだろう。一生の思い出にしてやるんだ。
それはそうと、俺はこの間、有夢からアイテムマスターの劣化版の作り方とダークマタークリエイトを貰った。
実際に使って見た所マジでやばかった。便利なんてレベルじゃねーよ。チートだろこれ。
こんなの自力で作ったとか本当に器用だよな。
俺は朝食を用意する。
普段はリルが作ってくれるんだ。朝、俺にお味噌汁とかスープを作るのは、結婚して奥さんになったみたいで嬉しいって言っていたこともあったな。
うむ、パンとスープとふわふわにしたオムレツができた。
「リル、起きろー!」
「……わふん。わかったよ……」
リルが起きてきた。目をこすっている。
「おはよう、ショー」
「おはようリル。座ってろ、飯を運ぶ」
「うん、わかったよ」
二人ぶん用意し終えたら、テーブルの上に並べた。
「いただきます!」
「わーふー、いただきます」
俺とリルは朝食を食べる。
食べてる最中に俺は話しかけた。
「リル、誕生日おめでとう」
「……わふぇ? あっ…そうだった。私の誕生日でしかも年末だったね。もう17歳か」
「今日は名一杯祝ってやるからな」
「……祝ってくれるの?」
リルはじっと俺を見つめてきた。なぜか目を潤ませ今にも泣きそうだ。
「ああ。午後2時からはいつも集まってる部屋に行って、俺達で盛大にパーティするんだぜ」
「私のために……私の…ために…」
「お前の誕生日なんだから当たり前だろ。もう一度言うぜ、お誕生日おめでとう、リル」
「あふ…うわぁ…あり、ありがっ__________わふっ」
俺は泣き出しそうなリルの目をそっと手で覆った。
リルはキョトンとした表情を浮かべる。目は見えないけど、きっとそうだ。
「泣くのはまだ早いぜ。本番はまだなんだから」
「わふ……そうだね! 嬉しすぎちゃって、つい。去年まで誕生日なんて無かったから」
「今年からはあるぞ。俺とずっと一緒に居てくれるんだろ?」
「うんっ…!」
手をよけると、リルは嬉しそうにニコニコと笑った。
可愛い。
朝食を食べ終わると、洗顔や着替えをする前にリルがぎゅっと抱きついてくる。今日もいい弾力と柔らかさだ。
俺もそれを抱きしめ返した。
「ショーは私を火傷させそうだね。暖かすぎて」
「嫌か?」
「ううん。たっぷり身を焦がしてよ。愛してるよ」
「俺もだ」
ハグからキスに移行する。
寝起きから、歯磨きする前のキスは雑菌が何億と移動するとか、いちいち言っていたやつがなんか昔にいた記憶があるが、こんな可愛いリルにそんなものいるはずがない。
「はー、幸せ」
「今日はもっと幸せになってもらうからな」
「楽しみだよ」
頭を撫でてやればまた顔を綻ばせた。
誕生日を祝うと言ってから今日は存分に甘えてくる。俺も甘やかすつもりだったから丁度いい。
俺とリルは朝の準備を一通り終わらせてから、ソファに隣同士で座って話し合う。
「リル、何かしてほしいことはあるか? なんでもしてやるぞ」
「いいの? じゃあ膝枕して私の頭を撫でてよ」
言われた通りに準備する。
リルの頭が俺の膝にきた。頭と獣耳の間を撫でる。
その間、ずっとこの上ない幸せを掴んだような顔をしていた。
このようにリルを甘やかし続けていたらいつの間にか昼時になった。豪勢な昼飯として寿司を食べる。
やがて約束の時間であるは二時になった。
「移動するぞ」
「うん」
俺とリルは有夢達が待機している部屋へ向かう。
俺は廊下の先で立ち止まってみた。
こらは作戦の一つだ。
「……っと、準備するべきもの忘れてたぜ。先に行っててくれないか?」
「わふ、わかったよ」
自室に戻るふりをして、リルが俺がどこに行ったか気にしなくなったところで叶君が見参。
「はいこれ、つけましたね。じゃ、行きますよ。クラッカー持ってください」
「おう。じゃ、頼んだぜ」
瞬間移動で部屋の中へ。
「きたわね。じゃあ、部屋を暗くするわよ」
「みんな、クラッカーの準備しててね!」
俺たち5人はクラッカーを構え、部屋を暗くした。
しばらくしてリルが部屋の戸を開ける。
「お邪魔しま……あれ? 電気付いてないよ…ここでよかったのかな? でもなんだか甘い匂いだたくさん_____」
_____パァン
部屋の電気がつくとともに、クラッカーは一斉に火薬の匂いを発しながら弾ける。
「「「お誕生日、おめでとう!!」」」
リルはまたキョトンとした顔をしばらく浮かべると、
「あ、あ、あああ、ありがとぉぉーーっ!!」
ついに泣き出してしまった。
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