第713話 リルの誕生 2 (翔)
「わふぇぇぇん! わふぅ、ふぇぇ」
「嬉しかったか」
リルは泣きながらコクコクと頷いた。
みんな何で泣いてるかわかっている。だからあえてなにも言わない。
「ありがと…ありがとぅ…」
「リルちゃん、まだお誕生日おめでとう、としか言ってないよ。本番はこれからだよ」
「わふん。わふぅ…」
美花が俺にこっそりハンカチを手渡し、目線でリルを拭いてあげろと語ってくる。
俺はリルの涙をそれで優しく拭い、抱きしめた。
「それじゃあパーティ開始だよ! 夕飯は六時になったら出すから、それまでお菓子食べたり遊んだりしようよ!」
有夢がそう言った通り、机の上には山盛りのお菓子が。
そして有夢は一人だけパーティ用の三角帽子をつける。なんかおかしい。滑稽というべきだな、あれは。
「わふん…幸せ」
リルは手前にあった菓子を一つ手に取ると、そう呟いた。リルの最大級の幸福そうな顔。いつ見ても魅力的だ。
「そりゃ、よかったぜ」
「えへへ」
菓子を食いながら四時間、俺たちはゲームを楽しんだ。
ゲームと言っても、王様ゲームだとかそういうのじゃない。普通にテレビゲームのレース系だとか格闘系だとか最大8人で遊べるタイプのやつだな。
RPG専門の有夢はそれ以外はやっぱり弱い。
「あ、時間だ! お料理持ってくるね」
レースゲームで最下位を取ったと同時に、有夢はそう言った。お菓子などで散らかっていたテーブルの上は、いつの間にか綺麗になっており、その上に準備を終えた有夢が料理をドンと並べて行く。
美味そうなドラゴン肉のステーキだ。
これは喜ぶに違いない。
「わふぁ…! 美味しそう!」
「ゴールディローズクィーンドラゴンっていう最高級のドラゴン肉だよ!」
「わふわふ…いい匂い…あれ?」
「どうかしたのかリル」
なんか首を傾げているが。
「ローズちゃんと似たような匂いがするよ?」
「えっ……! あ、ああ、それはあの子も名前の通りバラの匂いがするんだよ。ほら、このステーキも薔薇の龍だからさ、薔薇って点で同じ匂いがするんじゃないかな」
「うーん……それにしては……。ま、いいや」
なんだ、有夢がひどく慌ててるぞ?
何か隠してるのか。美花もドキッとした顔をしてたし。だが、今気にすることではないな。
「そんなことより早く食べようよ」
「わふ、そうだね!」
テーブルにつき、手を合わせる。
リルはナイフで1ポンドはありそうなステーキを大ぶりに切り取り、頬張った。
「んふー! 美味しいっ!」
「そっかー、よかった」
リルは次々と食べる。
見た目的にステーキが少し多い気もしたが、そんなことはないようだ。
……こうやってパクパク食べてるところを見ると、俺はいつも、心底安心する。
「これがお誕生日なんだねっ。幸せだなぁ…。みんな本当にありがと」
全て食べ終えたリルはとびっきり満足したらしく、ニコニコと笑っている。
「まだだよ。これからケーキもあるからね」
「わふ、ケーキ!」
「あとお誕生日プレゼントも」
「お誕生日プレゼント!」
有夢が言って行く一言一言に目を輝かせている。めっちゃ喜んでくれてるな。主催は俺じゃなくて有夢だが、開いてよかったと思う。
全員が食べ終わると、有夢はさっきの宣言通りバースデーケーキを運んできた。
フルーツがたくさん乗り、チョコで作ってあるネームプレートに『リルちゃんへ 17歳ハッピーバースデー!』と書かれている。
ろうそくは10歳ぶんであろう、大きいの1本と、小さいのが7本。
「じゃあ電気消すよー」
その宣言通りにこの部屋の電気が消え、ろうそくの明かりしか見えなくなる。
……そして、誕生日の歌の合唱。
俺も含めてみんなで拍手をリルに向け、盛大に祝う。
「こ、これがバースデーケーキとお歌…!」
「じゃあ切り分けるからね」
俺たちの元にケーキが配られる。
主役であるリルと、甘い物好きな桜ちゃんは少し多めだ。
「じゃあ食べながらリルちゃんにプレゼントを渡していくよ! まずは俺から」
そう言って、有夢はよく包装されたプレゼントを取り出し、リルちゃんに渡した。
「開けてみていいかい?」
「うん、いいよ」
この間宣言していた通り、獣人用の毛の手入れブラシだ。おそらく神具級。
リルは涙目になりながら、ありがとう、と言った。
それから美花、桜ちゃん、叶君の順番でプレゼントを渡して行き、その都度リルの目頭はあつくなっていったようだった。
最後に、俺のプレゼントを渡す。
ここはビシッと決めようじゃねーか。
「リル、もう一度言うぜ誕生日おめでとう」
「わふ、ありがとう! わたし…嬉しくて…えへへ、また泣いちゃいそうだよ」
「泣くのはいいが、中身を開けてからにしろよ」
「うん」
リルは俺のプレゼントの中身を開けた。
俺が用意したのは赤い頭巾。
半ばリルのトレードマークである頭巾を、俺が手作りした。
「わふぇ…っ」
リルはプレゼントをぎゅっと抱きしめると、俺に寄りかかってきた。
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