第663話 全国大会の朝 2 (翔)
「うっし、こんなもんかな」
米と納豆…が本当は良かったがリルが臭い的に納豆を嫌がるから卵かけ御飯を食った。あとはベーコンとかをちょいちょいと。
「わふー、昨日の夜ごはんに比べて微妙だったよ」
「まあ仕方ないだろ」
とってきた朝食を全部きちんと平らげた上でリルはそう言った。こういう朝食がとんでもなく美味いところなんて少ないと思うがな。
「じゃあ準備するかー」
「うん、手伝うよ」
これから準備のための時間…つってもやることなんて限られてるとは思うがな。
普通だったらここで緊張する気持ちを抑えたりするんだろうが、不思議と緊張はしていない。
食堂の外に出ようとした時、俺の前に1人の男が立ちはだかった。多分、同い年だ。てことは大会の参加者なんだろう。
「彼女なんて連れて余裕そうだな、○○高校の火野」
「……あなたは?」
「俺は_____県の◆◆高校から来た毛利だ」
◆◆高校の毛利…そうだ、去年その名を聞いた覚えがある。なんでも全国大会出場の1週間前に大怪我をしてしまい、その年の出場は諦めなければならなかったが、そうでなければ確実に優勝していたのではないかと言われる実力者だ。それも当時1年。
「……実を言うと、俺は決勝まで行く自信がある」
「そうか」
「いや…本当は優勝するつもりだったんだ。しかし、あんたの試合をネット中継で観てからそうは言っていられなくなったのでな…。まあなんだ、つまり、決勝で待っている」
「……わかった、それまで互いに頑張ろうぜ」
「ああ」
これどっちか決勝行かなかったらめっちゃ恥ずかしいやつじゃん。でも分かる。こいつは確実に決勝まで来るだろう。最低でもどちらかは。
「ところでやはりそこにいる、フエンという外国人の子は彼女…」
「あ、ああそうだぞ。一応柔道部員だから連れて来てるけど、俺の彼女だ」
「羨ましい…。あ、いや、なんでもない。では互いに健闘しよう」
そう言ってなんかライバル認定みたいなのをされた俺は彼と別れた。しかしあいつのいう通り、彼女を連れて来るってどういう神経してんだとか…うん、言われても仕方ねーよなー…。
「リル、話し込んで悪かったな。はやく行こうぜ」
「し、痺れる…! 今の展開は痺れるよっ…!」
「そうか?」
リルがハアハアと息を荒くしながら俺の腕に抱きついて来ていた。こいつの琴線は基準はわかるがどこで作用するかさっぱりわかんねーな。
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「よし、じゃあそれぞれストレッチを始めるぞー。大会に出場しないやつは出場するやつのストレッチを手伝ってもいいからなー。各自でやるなり俺に合わせるなり自由にしろ」
ストレッチを1時間ぶっ通しでやる時間が来た。
リルにめちゃくちゃほぐしてもらったから全身グニャングニャンだが…ここらで1時間、またやってもらうのも悪くない。すっかりトレーナーやスポーツアドバイザーみたいな立ち位置になって来たな、リルは。
「じゃあリル、さっきやってもらったばっかだが、またお願いするぜ」
「いいよ、任せてよ」
俺を床にうつ伏せで寝かせ、背中に乗り、腕を引っ張り始めた。日をまたぐごとに上手くなってる気がするぜ、リルの整体は…もうこれなしじゃ上手く動けない気すらしてくる。
「はぁ!? リルさん、整体できるのか? 俺の目が正しければ熟練のプロ並だぞ、その手つき!」
スクワットをしていたゴリセンがそう叫ぶ。
「はい、できますよ。ショーのために必死で練習したんです!」
「いや、そんな練習しただとか…数十年やらないと身につかないような手並みだと見受けられるが…」
「じ、じゃあ才能があったんですよきっと、柔道整体師としての!」
「なるほどな…」
アナズムのおかげだなんて言えないしな。
おっと、方々から乗っかられて羨ましいだとか、胸が当たってるの羨ましいだとか沢山言われてるけどもうそんなの気にしないぜ!
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「よし、行くぞ!」
「おおおおおお!」
ストレッチが終わり、簡単な会議を開き、その終わり際にゴリセンがみんなの士気を上げた。
かく言う俺もやる気満々だ。
身体も完全にほぐれているし、過去最高の状態だと言っても過言ではない。
「わふ、頑張ってね、ショー!」
「おう、頑張るぜ」
「あ、そうだ…言ってなかったけど、全国大会終わった後のアナズムでは今度は…いつも通り…わ、私、が頑張るからね。体を張ってさ」
「お、おう」
つまり大会が終わったあと、リルとまたディープな夜を……。べ、べつにそれが目当てで頑張るわけじゃねーからな。うん。
「うし、じゃあ出発だ!」
「おおおおおおおおお!」
ゴリセンを先頭に、俺らは動き出した。
全国大会の会場へと向かって、意気揚々に。
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