第662話 全国大会の朝 (翔)
「おい、起きろ」
「ああ…もう朝っすか?」
「そうだ。他の部員起こすの手伝え」
「はい」
ゴリセンに起こされた。
まさかゴリセンのパジャマがわりにしてるTシャツがゴリラのイラストがプリントされているとは思わなかったため、昨夜は本人にバレないように大笑いしちまった。
これが普通の旅行だったら今頃、リルと添い寝してるところだろう。そもそもただの添い寝では済まないことも確かだ。
あー…春休みに二人で旅行でも行くのも悪くねーな。
「んじゃ、俺は剛田付近のやつら起こしに行くからお前は星野付近のやつら起こしてくれ。起こしたらこの旅館のエントランスに集合するように言ってくれ」
「わかりましたー」
ま、とりあえずリルから起こしに行くだろ。任された方面だしな。んなわけでゴリセンとの相部屋から出た俺はリルの部屋の戸をノックした。
鼻だけじゃなく耳もいいからすぐに起きてくれるはずだ。
「わふ……はーい…?」
「俺だ、翔だ。リルー、起きろよー!」
「うん! 起きるよ!」
パタパタと忙しない音がし、やがて部屋の戸が開けられた。浴衣姿のリルが現れる。
「わふー、おはよ」
「おう、おはようリル。……浴衣で寝たのか」
「うん、そうだよ。そういうものだろう?」
昨日、一緒に風呂に入ってから浴衣姿は見ているが、似合ってるしセクシーだ。さらに今は、寝てる間にところどころはだけたのか…さらに。
「えーっと、着替えてから6時半までにエントランスに集合な」
「わふ、わかったよ! 準備してくるね」
________
______
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「よーし、みんな、おはよう!」
「おおあーああいあーす」
「おはようです」
「ねみぃ…」
全員起こし終わり、時間通りにエントランスに集まった。まだ寝ぼけてるやつ、もうだいぶ目が覚めてるやつ、立ちながら寝てるやつ…それぞれだ。
「スケジュールは昨日の夜、自由時間の前に話した通りだ。大会は10時30分から開始することは覚えてるな。この宿から会場まではバスと少しの徒歩で35分かかる________」
ゴリセンが昨日の夜に話したスケジュールを繰り返してくれた。修学旅行を思い出すような朝の忙しさだ。
「で、今から8時まで朝食及び身支度をしろ。そのあと9時までここの一室を借りて準備運動及びストレッチをする。以上だ。じゃあ食堂に行くぞ」
俺たちは食堂へと向かった。
すでに何校かの柔道部員とみられる体格の奴らが朝飯を皿に盛り付けている。
「おい、あれって……」
「ああ、○○高の火野 翔…通称『魔王』だ」
「ヤベェな…王者の風格というか…」
「勝てる気がしねぇ…。ま、俺らは出ないんだけど」
お、王者の風格だと?
そんなもんするのか?
「リル、俺って王者の風格なんて高貴なもんあるか?」
「さあ…少なくとも私にとっては王子様ではあるよ」
何回かもう聞いてるがやはりそう言われると照れるな。
「…すごい、全国大会の直前でも彼女といちゃつくのか。あの超かわいい子って最近できたなんちゃら制度の第1号生だろ?」
「確かそうだ。さらにハーレム大魔王って異名があるくらいのスケコマシらしいぞ」
「ネットで見た。なんでも周りがすごい美人ばかりなんだとか」
げげっ、なんで俺の周りのことまで知られてるんだよ!
ちょっと怖いな…。いや、叶君と桜ちゃんは特番組まれてるし、リルも日本に来た際にニュースになったし、そこらへんからなんだろうけど。
「はは…なんか色々噂されてるな」
「当たり前だろー」
「なー」
二山と中川が声を揃えてそう言ってくる。なんか知ってそうだな。
「何か知ってるのか? 俺が噂されてる理由」
「まあ、お前がほとんどの相手を瞬殺してるのは既に情報は出回ってるしな。あと思ってるよりテレビに出てるからじゃかいかな」
「まずフエンさん…そう、日本特別留学生の第1号の下宿先だろ? んでもって、あの盲目少女と天才少年の特番でその兄姉の幼馴染としてチラッと映ってるところがあったとか」
「成る程な…やっぱりそうか」
さっき立てた予想道理、俺は自分で考えていたよりテレビとかメディアに出てしまっていたようだ。
「わふー、大丈夫だよ、ショー! 何を言われようとも優勝してしまえばなんてことはないのさ!」
「はは、そうだな! 優勝すれば問題ねーな!」
さすがにこんなに相手がいるところで大声で優勝だなんて言えなかったが、リルにはそう返事した。
期待してくれてる人がたくさんいるんだ。
…団体でも個人でも、全国1位になってやろう。きっとなってやろうじゃねーか。
ところで。
「リル、そんなに食べるのか?」
「わふ、私はどうせ試合に出ないからね。好きなものを食べるよ。ショーは腹7分目くらいにしておかないとダメだぞ!」
さらにこんもりとミートボールを乗せてリルがそう言い返してきた。…大食いするイメージは少なかったんだがな。これであのナイスバディなんだからすげーよな。
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