第606話 動物園デート (叶・桜)
「この前買った服、第2弾だね」
「似合ってる?」
「似合ってて可愛いよ。あの時十分試着したでしょ?」
「えへ、まあね」
叶と桜は日曜日、洒落た格好をして外に出た。
二人はデートとして動物園に行く約束をしていたため、心が浮き足立っている。
「か、かにゃたもかっこいいよ」
「ありがとう。…じゃあ行こうか」
「うんっ」
いつも通り桜は叶の腕に抱きついた。これが二人にとっての手を繋ぐ行為。いつも通りではあるが特別なこととはわかっているので、桜は嬉しそうに目を細め、叶は腕に感じる感触に(いくらか慣れたとはいえ頬を染める。
「今日はどういう順番で見て行く?」
「前より門限が1時間伸びたから……そうね」
二人の付き合いがかなり健全なため、両家はデートの門限を1時間伸ばした。そのことに一番喜んだのは桜である。
「普通にこう…進路ってあるんでしょ? ぐるっと回ろうよ」
「とりあえず一通り回るのね。わかった」
叶が組んだ予定の計算通りにバスや電車を利用し、そのまま二人は動物園についた。
移動中の1時間と少しの時間は二人で仲良く持ってきていたお菓子を頬張っていた。
「じゃあ、入園料払おうね」
「……また奢ってくれるの?」
「そろそろ慣れてよ。でもまあ、むしろ、そうやって訊いてくれるから奢ってるんだけど」
「ふえ?」
気にしないでよ、と一言言うと叶は入園券(中学生料金)を2枚買い、桜の手を握ってそのままゲートをくぐった。
「ぐるっと回るとしたら…まずは猛禽類の舎だね」
「鷹さんとかぁ、鷲さんとか?」
「そうそう。……もしかして今の、可愛く言ったつもり? 可愛いよ」
「う、うん。そのつもり…ありがと」
冷静に可愛いと言われた桜は赤面する。そんな桜を腕に下げ、叶は歩き出した。
「ほら、ちゃんと見るのは桜は初めてだろ? ワシだよ」
「ほぉ…これが…」
生まれて初めてちゃんと見る動物園の動物に、桜は目を輝かせた。近づいて良い距離ギリギリまで近づく。
「みてるよ、こっちみてるよ!」
「桜を食べたいとか思ってるんじゃないかな?」
「ワシとかタカって人食べるっけ?」
「食べるけど積極的には食べないよ」
二人はワシ、タカ、フクロウなどがそれぞれ数種類居る檻の群れを過ぎ、『ふれあい広場』に辿り着いた。
「ふれあい広場…か」
「動物とかを抱いたり触ったりできるとこだね」
「入っていい?」
「フンを踏んでも気にないならいいよ。あとちゃんとここを出たら手を洗うこと」
「大丈夫!」
ふれあい広場に入った。中は小学生くらいの子供が多い。
「何から触ろうかな……あ、ヤギだ!」
通りすがりのヤギの顎を、桜は臆すことなく触り始めた。
「桜、実質動物に触るのは初めてみたいなものだけど、怖かったりしないの?」
「ん? 全然。あの世界でいきなり外にほっぽりだされるより怖いものなんてほとんどないでしょ?」
「確かにそれはいえてる」
桜は自分が満足ゆくまでヤギのヒゲを撫で続けると、次は他のものに目をつけた。
丸くして、白く、耳の長い生き物。
「うさぎだ!」
桜は目を輝かせながら、一番目最初にに入ったウサギを撫でた。ウサギは目を細めて撫でられ続けて居る。
「うさぎって、こんなに可愛かったんだね! …にへへへ、かーわいいっ」
「桜、いつもとテンションが……」
「かーわーいいー!」
撫でに撫でている。
叶はここで「桜の方が可愛いよ」などと言おうかと考えたがそれはやめておいた。
「うさぎいいなぁ……」
「じゃあアナズム行ったらパラスナって人に撫でさせて貰えばいいじゃん」
「えー、あの人はお姉ちゃん達の知り合いだもの。そんな軽率なこと頼んだら失礼よ」
「まあね」
「というか、そもそも獣人であって人間だし……」
そのあと桜は子豚やヒヨコ、ハムスター、リスなどと触れ合い、満足そうな表情を浮かべてその場所を出た。
桜のお気に入りはウサギ、リス、ハムスターなどのげっ歯類のようだ。
「可愛かった…けど手が獣臭い」
「まあ…だからリルさんは動物園に来ないんだろうね」
「鼻がよすぎるのも考えものね」
二人は手をきちんと洗うと、次のブースへ。
そのブースは熱帯動物が多くいる場所で、実に動物園らしかった。
「象さんって本当にあんなに大きのね。魔物みたい」
「魔物と一緒にしちゃダメだよ…」
「キリンね! キリンもよく考えたら魔物みたい」
「魔物と一緒にしちゃダメだよ」
二人はどんどんと動物を見て行く。
特に桜にとっては目が見えるようになってからの初めての動物園ということもあり、このような動物園の定番の動物にはすごく心が踊っている。
「あれは確かサーバルキャットね。高く飛ぶやつ2メートル……だって。リルちゃんと同じくらい?」
「いや、リルさんでも地球じゃ2メートルは無理でしょ」
二人はそんな感じで仲良く、カップルらしく話し合いながら次々と動物を見ていった。
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