第598話 大会に向けて (翔)
「ぜぇ…はぁ…ぜぇ…」
流石の俺でもこの時期の追い込みは少々疲れちまう。来週にはもうインターハイだ。それに対して毎日練習するのは当たり前だろ。
……つっても俺、普通なら3週間…いや、1ヶ月は前から毎日練習に来なきゃいけねーはずなのに、実力に甘えて怠っていたからな。
いや、正確に言えばアナズムのこともあるし、自主練習時間自体は他の部員より何倍も長いだろうが、側から見たら怠けていたに違いない。
……アナズムに居る間、俺は有夢にその空間だけ時間の進みが遅くなるマジックルームと、柔道の練習相手になるロボット(どうやったかは知らないが、オリンピックで金メダルをとった選手とかのデータも入れててびびった)を使用して練習しまくったぜ。
さすがに全世界レベルは違う。
これのおかげで、はっきり言ってめちゃくちゃ強くなったかもしれねー。最終的には全ロボットから最低でも1本は取ることに成功したしな。親友に感謝だ。
あと手伝いとか技の確認とかしてくれたリルにもな。
……技術と実践経験の面ではもう問題ないだろう。実力でここまで来れた。ちなみに体術スキルはオフにしている。
地球に戻ったら勝手に体術のスキルの力が発動しちまうし、オフにすることは今の所不可能らしい(叶君談)が……それを加味しなくても相当な実力がついたと実感できるぜ。
だからと言って『ほかの武術も取り入れればなんか有効に作用するんじゃない?』とかいう変な考えでいろんな武術のデータを入れたやつとも戦わさせられたりしたのは解せんが。結局色々覚えちまったし。
「おまっ…彼女ができてインターハイ目前なのにうつつを抜かしてたやつとは思えねーよ。なんだこれ。明らかに先週より実力ついてんじゃねぇか。動きが見えなかったぞ」
副部長の剛田がそう言ってきた。
動きが見えない…? そうか、もうそんな感じになってんのな。
「何してたんだ?」
「えっ…ああ、えーっと、リルと自主練をだな……」
「ほう、部室には来ずに二人で柔道の練習を。……例えば寝技……」
「何考えたのかなんとなくわかるが、それはお門違いだ」
やばい、アナズムのことなんてわかんねーはずなのに、俺とリルがアナズムに居る最中にしたことがばれちまったかと思ったぜ。ふー、危ない危ない。
表面では健全な高校生だからな、一線超えてるのはバレないようにしないと。
「で、前々から気になってたんだが、お前とフエンさんはどこまで進んでるんだ?」
「あ、それ俺も気になってた!」
「俺もっス!」
「はぁ!?」
なんでこいつらこんな興味津々なんだ?
仕方ない。適当に程度を下げて答えてやるか。
「……遊園地でデートもしてるし、キスもした。これで満足か?」
「ひゅー!」
剛田うぜえ。あとでぶん投げてやる。
「人の彼女とにかく言うのはなんなんスけど、とにかくフエン先輩はいろっぽいっスよね」
「あー、だよな。つい目が良からぬ場所に……」
こいつらの目線、胸やら脚やら様々だが、とにかくどこまで変な目で見てやがるんだ。
「お前らよ……」
「ひぇっ…滅多に怒らない部長が怒ったっスよ…」
「怒ったというより呆れてる」
「ま、当然だな。謝るから許せ」
仕方ないから許してやるとして、やはりリルは男子に人気だな。……ふふふ、自慢だ、俺の自慢。
「っと……はぁ、強いなフエンさん」
「そうですか? ありがとです!」
一方でゴリセンがリルを見てくれていたようだが、そんなことを言っている。まあ俺と練習してたし実力が上がるのは当たり前か。
「剛田、少しこい」
「なんすか?」
ゴリセンに呼ばれた剛田は飲んでいたスポーツドリンクを置き、ゴリセンとリルの元へ。
「フエンさんと1回やってみろ」
「フエンさんとすか?」
「ああ」
剛田はちらりと俺の方を見た。
ゴリセンに言われたなら仕方ない。…変なことをしたらぶちころがす、とだけ目線で訴えておこう。
俺の意思を汲み取ったのか、顔を少し引きつらせながら、剛田は頷く。
「剛田くん、お願いするよ!」
「あ、ああ、うん」
二人はゴリセンの指示で構え、練習が始まった。
常識的に考えればリルは圧倒的に不利だ。身長差も体重差も、そもそも性別が違う。そして経験時間も違う。
しかし__________
「やはりな」
「……へ?」
剛田は投げられている。
「せ、先輩がフエン先輩に!?」
「嘘だろ!?」
ゴリセンは驚かない。すでに気がついていたんだろうか。リルは柔道は初心者であったが、俺と練習したり、そもそも体術スキルで武術に関しては申し分ない実力になっていたり、元々が戦闘民族でその身体能力が発揮されてること……その全てを見抜いてるわけじゃねーとは思うがよ。
「……剛田が決して弱いわけではない。いや、むしろ全国大会に進出しても副将を任せられるくらいの実力は確かにある。だから副部長なんだが。……フエンさんのこれはセンスだ。思うに、柔道だけじゃなく、全スポーツのな。もっとはやくこの学校に来てくれてれば、選手登録は確実にしたんだけど」
剛田は呆然としたままリルと俺を見た。
もしかして、ゴリセンの狙いは…。
「そして翔がフエンさんと毎日練習してるのは本当なのだろう。それでスポーツの才能が柔道に触発さ出たんだと俺は思う」
「そうですかよ…。ああ、確かにフエンさんが陸上部の子に差をつけた勝っちまったとかよく聞くな」
剛田は悔しそうな顔をしながら立ち上がる。
そして俺を見据えた。
「協力してくれるよな? 部長」
「もちろんだ」
ゴリセンは周囲を煽って士気を上げたわけだ。
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