十九章 導者

第557話 道化の死

「有夢、キスしよ?」

「うん? いいよ」


 

 朝、俺自らがブレンドしたコーヒーを飲みつつ、漫画を読んでいた時。

 隣に座っていたミカが甘えながらそうねだってきた。

 すぐに唇と唇を合わせ、舌でやり取りをする。



「ぷふぅ。苦いキスね」

「コーヒー飲んでたからね」



 こんなラブラブな日常でのやり取り。

 側から見たら何か特別なことがあって(新婚だとか)こんなにイチャイチャしているように見えるかもしれないけれど、俺たちにとってはこれが普通なの。



「あーゆむー、なんかしよーよー」



 今日のミカはどうやら俺にとことん甘えたいみたいだ…可愛い。抱きつきながら上目遣いで頼みごとをしてくる。前は俺の方が上目遣い上手かったのに、今じゃ同等。

 正直言って萌え死にしそうだ。



「ん、じゃあ何する?」

「お外でデートとか? あるいはコスプレ大会とか?」



 コスプレ大会か。

 コスプレ大会をすると、毎回必ずミカは最後の方に漫画のキャラの際どい服装をする。すんごく際どい。

 『喜んでくれるよね』……って、恥ずかしいならしなきゃいいのに顔を真っ赤にしながら。

 そしてだいたいそのあとは大人な遊びをするんだ。

 

 …でも今日はそんな気分じゃない。エロ抜きで過ごしたいから、お外でお散歩デートの方がいいかしらん。



「じゃあお外にデートしにいこっか!」

「うん! デートする!」



 実に嬉しそうにミカは頷いた。

 ふむ…どうやってエスコートしようかな。ミカったらデートしてる最中は何しても喜ぶからな。可愛い、可愛いけど俺に甘えてる間ってミカのIQが下がってるような気がするのは気のせいかな。

 きっと楽しすぎておかしくなっちゃうんだね。



「じゃあ行こうね」

「うんっ」


 

 外着に着替えてから、俺とミカは手を繋ぎ、周りから(メッセージのやり取りができない人から)全くの別人に見えるような変装装備をして外にでた。

 当たり前だけど、もちろん腕を組んで抱き合ってるのに近い状態で外歩いてるよ。



「それでどこいく?」

「なんも決めてないや」

「そっか! デートの最中に決まったらどこか行こうね」



 デートの場所も決められないとか、某筋肉みたいな無計画性はダメだよね。

 リルちゃんはあれで満足してるらしいけど。



「…やっぱり地球の方が娯楽多いよねぇ」

「まあね。こっちにはこっちの良さがあるけどね。…デートスポットが少ないのは確かかな」



 ちょっとした愚痴を言い合いながら、ぶらぶらとお散歩をするの。時には立ち止まって鳥を見たり、ほっぺにキスしてくれたり。



「そろそろお弁当にしようか」

「ん? お弁当作ってないよ?」

「アイテムマスターでこれから作る…はい、どうぞ」

「ありがとっ」



 公園の椅子の一つに腰をかけ、サンドイッチを頬張り、付け合せのポテトを食べさせ合う。

 ミカはわざと俺の指ごと舐めたりするんだよね。



「美味しかった!」

「指が?」

「指も。それで? どうしよっか」



 どうしよっかと訊かれても、まだいいデート先が考えついていない。これじゃあショーのやつと一緒じゃないか! 俺は違うぞ、違うんだい!

 


「じ…じゃあ美術館でも見にいこっか?」

「えへへ….有夢が行くってところには私、どこにでもついてくよ」



 可愛い。可愛いしか言ってない気がするけど、本当に。

 


「じゃあ、美術館__________」

【……アリム、唐突ですまぬが連絡したいことがある】

【あ、はい!?】



 国王様から連絡が来た。…タイミングが微妙すぎる。

 とりあえずラーマ国王みたいに、これからって時、盛り上がってる時じゃないのだけは助かったけど。



「どしたの?」

「ごめんねミカ、連絡入っちゃった。少し待ってもらえる?」

「うん、いいよ」



 そう言うなりミカはおとなしく俺の背中に抱きつく。

 これがミカなりの待っているらしい。

 それはそうと。



【…お待たせしました、なんでしょう】

【メフィストファレスの処刑が済んだ。……それだけをとりあえず報告しておこうと思ってな】



 そうか、済んだのか。

 光夫さんの小指を預かってからもう三日経つ。とうとうあの人を地球に送り返してあげる時が来たんだね。

 まあ今はデート中だから明日やるけど。



【わかりました。ご報告ありがとうございます】

【ああ、ではな】



 国王様との連絡が切れた。

 処刑…そしてメフィストファレスのせいでミカの死に顔まで思い出してしまった。大変不快であり遺憾の意を表したい。

 とりあえずミカのあの顔は、ミカの可愛さでかき消してしまおう。



「あー、ミカ! キスしようキス」

「え? いいけど。えへへ、やっぱりキス魔だねぇ」



 ミカは本日2度目のディープキスをしてくれた。

 今度は甘い感覚が、下の中に広がって行く。



「ぷふぅ。よしじゃあ美術館いこっか」

「うん!」



 ミカは再び俺と腕を組んだ。

 そうして俺たちはデートの続きをひたすらに楽しんでいったんだ。

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