第546話 披露宴
すべての料理が出され終わった。
自分で言うのもなんだけど、すごく美味しかったと思う。大人数骨抜きになってるしね。
時計を見てみると指定どおりの時間になっていた。
そろそろ披露宴が始まる時間か。
クリスさんが立ち上がった。
「我が国の勇者、アリム・ナリウェイが用意したランチは如何でしたか? 時間になりましたのでこれより新郎新婦と来賓の方々による結婚披露宴を行いたいと思います」
ほとんどの人が拍手をする音が聞こえる。
結婚披露宴ではそれぞれみんなが色々と出し物を出したり、俺が用意したウェディングケーキに入刀したりするんだ。あ、俺が作ったケーキは腐らないところに保存してあるからこんな時間になるんだよ。
そして午後3時ごろになったら新郎新婦による馬車での街内外周が始まる。
日本では車に缶々を取り付けて走り回る、あの地位の高い人達とか有名人がよくやるやつ。
同時にそこでもわかりやすいように2人は自分らの正体を自らバラすらしい。
この結婚式は2人にとって結婚するという事実以上に大切なことがあるんだね。
「それではケーキ入刀から」
その言葉とともに俺が作ったケーキが運ばれてきた。
『おおっ!』という感嘆の声があちらこちらで響いてくるの。見た目に(味も勿論だけど)すごく拘ったからね!
「ケーキ作成者・デザイン共にアリム・ナリウェイです」
「「おおおっ!」」
クリスさんったら、料理も含めて俺のこと紹介してなんて言ってないのに律儀に紹介してくれてるよ。
…もしかしたら国王様から勇者兼有名人としての俺が作ったものを広めるために言わせてるのかもしれないけれど。
「それでは新郎新婦、ケーキ入刀を」
シスター(本物)さんから入刀用のケーキナイフをウルトさんとパラスナさんは受け取った。
SSSランカーの2人にとっては全く重たくないものを支えあいながら掴んでるのは少し面白いかも。まあ儀式だし。
ケーキの頂点に刃が当てられた。
あとは押し切るだけ。
あ、そうだ写真撮っとっとこう。そしたら思い出に残るもんね。
2人はウェディングケーキを穴が開くほど見つめる。
きちんと眺めてから切りたいんだね。
1分から2分かな、そのぐらいの時間が経ったところで互いに顔を見つめ合わせ頷くと、刃に力を込めた。
ケーキは真っ二つになる。
「それではファーストバイトを」
ファーストバイトっていうのはケーキ入刀で切ったケーキを参加者に振る舞うまえに一口ずつ食べさせ合うこと。
ケーキナイフと一緒に運ばれてきたフォークを持ち、パラスナさんは切った部位の近くを一口ぶんだけすくった。
それを相手の口元まで持って行く。
ケーキはウルトさんの口の中へと消える。
ウルトさんもパラスナさんと同様にケーキを相手の口元まで運び、食べさせた。
うーん、微笑ましい。食べさせあいっこっていいね。
側から見たらそうでもないかもだけど、好きな人がいると話は別。良さがわかるはずだよ。
「…このケーキは後々、デュオニソス酒造のワインと共に皆様に振るわれます。それでは次の出し物の方をよろしくお願いします」
ワインとケーキが振る舞われると聞いて喜ぶ人多数。
王族の人ばかりだから普通は人が口をつけたものを食べたくないとか言いそうなものなんだけど……俺が作ったことが大きいのかな?
それにしても、次の出し物って何だろ?
俺が外周を除いて最後ってことは知ってる。
でもそれ以外のプログラムと出し物は知らないの。
「まずは余達だな」
そう言って立ち上がったのはラーマ国王とハヌマーンって護衛の人、そしてその付き人さん達だ。
中にはあの国の最高ランク冒険者もいるかもしれない。
ブフーラ王国一団体は新郎新婦とは別の壇上へ登る。
「ではお披露目しよう。余の国の名物とは皆の知っている通り熱烈なダンスだ。余を含めたここにいる皆でやろうと思う」
名物だなんて知らなかった。
まあでもそれを知らなかったのは俺たち地球から来た組だけみたいだけれど。
国王みずから踊りを披露するということで、会場はかなり盛り上がってるよ!
SSSランカー2人とはいえ元一般人に対してここまでするんだから、この世界にとってどれだけSSSランカーが地位が高いかわかるね。
…国王様だってSSSランカー出身だし、エグドラシル神樹国の2人だって国の管理の一部を任せられてるからやっぱりそうなのかも。
「では、ミュージックスタート!」
そう言うとともに、ラーマ国王の取り巻きのうち2人が楽器を取り出して一方は吹き、一方は叩き始めた。
動き出す身体。壇上に上がっている演奏者以外の全員はキレッキレのダンスを踊り出した。
フラメンゴとかバレエとか、ポップなやつとかそういうのじゃない。
これは…そう、インドの映画を動画サイトで見た時に、こんな感じの踊りだった記憶がある。
それだそれ。インド風だよこれ。
実際見世物としてはかなり完成されており、俺もかなり楽しめたよ。
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