第536話 結婚式当日 -2
「はははっ、アリムちゃん飲むかい?」
そう言いながらどこからともなく取り出した、葡萄酒だと思われるものを注いだジョッキを俺に手渡して来た。
「バッカス、聖職者の前で飲酒制限年齢のアリムに酒を誘うんじゃない」
「これグレープジュースですよ」
たしかにアルコールの匂いはしないから、これはぶどうジュースなんだろう。
バッカスさんの会社はジュースも作ってるからね。
「いただきます」
ジョッキだから少し多いけど、ちょうど喉乾いてたしいただくことにした。
グビグビ…いや、コクコクとぶどうジュースを飲む俺をギルマーズさんは眺めてくる。
「どうかしました? ぼくの顔になにか付いてます?」
「いや、俺のギルドのアリムちゃんのファンを思い出しただけだよ。…そうやって両手でグレープジュース飲んでる姿にも萌えるんだろうなと」
「あははは」
俺はいつのまにあざとい飲み方をしてたんだ。
男の時なら牛乳瓶よろしく、グビッと言っちゃうんだけど…女の子が長いとこうなるのかな。
まあ男を悩殺できるのは悪くないことだよ、うん。
本人たちにとっても。…俺も楽しいしね。
「バッカス、俺にもくれよ」
「ギルマーズさんは葡萄酒でいいですか?」
「ああ_______」
ギルマーズさんがバッカスさんから葡萄酒を受け取ろうとした時、この式場のドアが開かれた。
現れたのは今回の主役。
「はやく来すぎちゃった」
「いてもたってもいられなくて」
ギルマーズさんの予想通りだったね。
まだ式が始まるまで3時間半あるのに。
「もう来たのだね。2人とも、今日は本当におめでとう」
「あ、ありがとうございます。クリスさん!」
大司教であるクリスさんからそう言った。
こんな風に聖職者が出迎えるとか、もう本番に近いんだなぁなんて。しみじみとしちゃうね。
「パラスナちゃんのウェディングドレス、期待してるぜ」
「…あっ、ギルマーズさん! …はい、アリムちゃんが作ってくれたの」
ウェディングドレスは女の人にとっての憧れのドレス。
あれを着れば誰もを魅了するはずだ。
「やあウルト、パラスナちゃん。おめでとう。いやぁ…ずっと2人の関係を見て来た僕としてはやっとか…って感じなんだけどね」
「バッカスありがとう。ああ…まだそんな歳じゃないけれど、やったかって感じだよ」
バッカスさんの挨拶に、ウルトさんはパラスナさんの肩を抱きながら答えた。
パラスナさんは少し顔を赤くする。
女性冒険者の中にはパラスナさんに憧れてる人も多いけれど、今の表情をみたらかっこいいイメージが崩れそうだよね。だって可愛らしいもの。
挨拶の順番、俺か。
「今日は…おめでとうございます!」
「ああ、アリムちゃんありがとう! …それにしてもすごい装飾だね」
「こんな煌びやかで神秘的なのみたことないわ」
2人は教会内をキョロキョロと見渡し、その輝きを目に焼き付けてるみたいだ。
「頑張ったんですよ」
「アリムちゃんに何もかも頼んで大正解だったみたいだね。パラスナのウェディングドレスとケーキも期待してるよ」
「はい、期待してて下さいねっ!」
2人はまた内装を見始た。
そこにギルマーズさんが寄ってくる。
「なあアリムちゃん、この装飾、俺からもみて素晴らしいんだが…こんなのよく思いついたな」
「ええ、今日のためにたくさん勉強しましたから」
「そうか」
そういうとギルマーズさんは俺の頭を撫でてくる。
2往復だけ頭を撫でたのち、何かに気がついたように手を離した。
「すまん、つい」
「あははー、別にいいんですよ」
「そう? なら後であいつらに自慢しよ」
この人はマイペースだな。
まあいいか。
ちなみにそれぞれご祝儀だの何だのは持って来てる。
この世界にもそういう風習はあるんだよ。お金はもちろんだけどね。
おそらくバッカスさんなら超高級品、宝級レベルのお酒だとか。ギルマーズさんなら冒険者関連のものだとかもあるはずだ。
参列者が参列者だから、鰹節とかノリとかお皿とかは多分いないだろう。あ、お皿はいるかも。
無論、俺もそういったものを用意してある。
いうまでなもないけれど、報酬対象外だよ。
ふふふ…伝説級のなにか2人をつなぐものをね、用意したから。
「どうします? まだウェディングドレスなどを着るまで時間ありますけど…控え室に移動しますか?」
「いや…まだいいかな」
もう少し余韻に浸っていたいらしい。
……この数日間、ウルトさんとパラスナさんの仲のいいことを何度も確認してきた。
まああの戦争の時ウルトさんがパラスナさん好きみたいなこと言ってたし。
本当に2人は幸せそうだ。
さぁて、本番まであと3時間か。
俺も全力で頑張らないとね。
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