第537話 ウェディングドレス

「あと1時間ほどで本来のお二人の到着予定時刻ですね。そろそろウェディングドレスやタキシードを着ておきませんか?」



 俺は教会の時計を見ながらウルトさんとパラスナさんにそう言った。



「そうだね、じゃあそろそろ頼もうかな」

「おねがいね、アリムちゃん」



 ちなみにウェディングドレスの着付けと化粧は俺がする。男の俺がウェディングドレスを着させるなんてことをして良いのか……なんて別に悩んだりはしない。

 だってこの世界では女の子だし。


 それとウルトさんのタキシードを着るのを手伝うのはバッカスさんがやってくれるみたいだから任せちゃう。



「着付けが終わったら呼びますね」

「そのときにパラスナのウェディングドレス姿を初めて見られるわけだね。わかった」



 俺とパラスナさんはこの式場の、ウェディングドレスなどをきるため専用の部屋(いわゆるブライズルーム)へと移動する。

 その部屋のドアを閉めた。



「じゃあ…お願いね」

「はいっ」



 俺はマジックバックからドレスを取り出す。

 ……丹精込めて作った一品だよ。下手したらこれ一着で伝説級の武器2本は買えちゃうかも。

 


「まずは下着共々、このブライダルインナーに着替えて下さい。ぼくは一旦外に出るので、着替え終わったら呼んでくださいね」

「ブライダルインナー…? ウェディングドレス用の下着かしら。わかった」



 一旦部屋から外に出る。

 女同士でも裸は見ちゃダメだよ。

 ……俺とミカみたいな関係ならまだしも。


 出て数分ですぐに呼ばれる。



「では着付けを始めますね」

「お願いね」



 まずはドレスを外と中で合わせなければいけない。

 それを通し終えてから、パラスナさんに跨いでもらった。



「ちょっと失礼しますね」

「ん」



 中のドレス(パニエという、スカートに膨らみを持たせるもの)を普通にズボンを履かせるように上にあげ、後ろにあるボタンで腰に固定した。

 ……パラスナさんはかなりスタイルがいいな…。

 22歳だっけ? そんな年齢だから『大人な女性』というには地球ではまだ早いはずなんだけど、そんな雰囲気が漂っている。

 あ、歳食って見えるわけじゃなくて、普通に大人っぽいってことだよ。



「ではこっちも」



 外側のドレス(トレーンという引き裾がついてる方。結婚式で子供が汚れないように持ち上げたりしてる部分)を上げ、胸にかぶせる。

 ちなみにこの世界のドレスは胸が豊満であるならば胸元の谷間までくっきりと見せてしまうのが普通だよ。大胆な部類ですらない。

 ……そして固定するためのボタンや紐などで後ろを固定すれば完成。その後ろを固定するのが少し時間かかるんだけどね。



「うん……やっぱり素晴らしいドレスね」

「えへへ、ありがとうございます」



 固定している最中にパラスナさんがそう言ってくれた。

 全力を注いだ自信作(レア度は伝説級に抑えてるけど)だし、褒められるのは単純に嬉しい。

 ……と、着付けが終わった。



「じゃあ次は化粧しましょう」

「ええ」



 パラスナさんを椅子に座らせて化粧をする。

 結婚式用の化粧を勉強するにあたって化粧の勉強もだいぶしたんだけど、これがミカに生かされることはあるのかしらん。

 うーん…ミカはナチュラルメイクでいいし、なんならノーメイクでいいからなぁ…今日くらいしか使わないのかな。俺も同じ理由でこの世界では自分に過度な化粧をしなくて良さそうだし。

 あ、自分で自分のこと美人って…まあいいか。



「髪も少しセットしますね」

「うん」



 本来なら結構時間かかると思うんだけど、まあ素早さ補正とかあるしそれなりの時間で化粧は終わった。

 次はこのボブヘアーをベールがかけやすいようにセットしてあげる。あとうさ耳が不自然でないように。



「あとは靴とグローブをはめたら大体終わりですね。ベールは後にしましょう」

「うん、ありがとね」



 靴を履き替えながらパラスナさんにお礼を言われた。

 俺ってば結婚式場に勤めるのも悪くないかもしれない。



「どうです?」

「これは私なの?」

「ええ、そうですよ」



 パラスナさんは立ち上がりながら鏡を見た。

 すっごく綺麗だ。…この姿を見たミカが『私も早く結婚したい』ってまた言い出しそうなくらい綺麗。

 これなら装飾も無視してみんなこの新婦の方に目が行くことだろう。



「綺麗……。ありがとっ、アリムちゃん」

「いえいえ」

「元奴隷の私がこんなの着ていいのかなぁ…。これを見たらウルト、なんて言うだろうなぁ…ふふふふ」



 パラスナさんったら元奴隷だったの!?

 とまあそんな驚きはどうでもいいんだよ、身近にリルちゃんがいるわけだし。ウルトさんのことだから昔に何かあったんでしょう。



「それじゃあウルトさん呼んでみますか。流石にタキシードは着てしまってるでしょう」

「そうね」



 ちなみにタキシードもしっかり俺がデザインして俺が手作りしたものだったりする。まあ依頼の内容に含まれてるし。

 俺はバッカスさんにパラスナさんの着付けが終わったことをメッセージで送り、こちらに連れてきてもらうことにしたの。

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