第514話 地球でのデート (叶・桜)
「こんな朝早くで大丈夫だった?」
朝の7時、叶は出かける直前の桜に窓を開けて話しかけた。
「大丈夫よ。前まで朝早く起きて勉強してたし5時起きなんて余裕よ、余裕。そういう叶こそ大丈夫なの?」
「俺は全然大丈夫だよ。かなり早めに寝たからね」
にこりと叶は桜に笑ってみせた。
幼馴染の勘でそれが本当に大丈夫であるということを感じ取ると、桜はホッとした顔を一瞬だけ浮かべたのだった。
「じゃあ…外に出よっ」
「うん」
2人は窓を閉め、自室から出て、すでに起きている両親に行ってくると声をかけてから、ニヤニヤする両親に目もくれることなく外に出た。
「かわいいね、今日はいつもよりもっと」
「そ、そんなことない。化粧とかしてないし、服だって私の部屋にあった叶にプレゼントしてもらった他のより唯一マシなのだもん。アナズムの方がまだオシャレだよ?」
「いやぁ…でもそれも桜に似合うと思って買ったものだからさ。思惑通り似合ってるよ」
「あ…ありがと」
いきなり口説かれたことにより桜は赤面をする。
「そ、そういうかにゃたこそ、お洒落してるじゃない」
「まあデートだし。それよりこれつける?」
叶はおもむろに小さめのカバンのポケットからマスクを2枚取り出し、そのうち1枚を桜に差し出した。
「…なんで?」
「いや、ほらこの間の新聞でさ________」
桜の目が何故か治ったということは(過去に1度、ドキュメント番組で密着取材されたことが1番の原因なのだが)、『幼馴染の愛が生んだ奇跡』という名目で大々的に新聞や雑誌に載ってしまい、あまりにも有名になっているのだった。
それだけでなく、桜と叶の生活を書いた本を出すためにさらに取材させてくれないかと、福祉や医療、ドキュメンタリーやノンフィクションノベルなどを出版している出版社から話を持ちかけれている始末。
その上、過去に密着取材した番組がもう一度取材とテレビ出演してほしいとも言ってきている。
つまり、この2人は全国で最も注目されている中学生なのであった。
実はその影が兄と姉にまで及ぼうとしていることは________叶以外は察知していない。
「アナズムで美花ネェと兄ちゃんが外に出るたびにわざわざ変装する気持ちが今ならわかるよ」
「た、確かにそうだけど…」
桜は叶の顔を見つめた。
『(マスクしたらカッコいい顔がよく見れなくなるし…)』
穴が開きそうになるほど、桜は叶の顔を見つめ続ける。
流石の叶も恥ずかしくなったのか、頬を掻きながら続けた。
「やっぱやめとく?」
桜はその提案に黙ってコクリと頷いた。
それを確認してから叶は小さめのカバンのポケットにマスクをしまい直す。
「じゃあ行こうよ」
「うんっ!」
叶が握ってほしいと手を差し出すと、桜はためらいなくそれを握った。
地球では毎日の登下校で手を握っているこの2人は、同級生らには目が見えなかったころの名残だと説明している。
ほんとは握りたくて握っているだけなのだと、全員が知っているのだけれど。
2人は手を繋いだまま、とくに話し合うこともなく互いにチラチラと顔を見ては照れながら駅まで歩き、やがてたどり着いた。
アナズムですでに何度か2人きりでデートをしているにもかかわらず、まるで初めてデートするかのような表情を見せる2人。
そんな2人はそのまま地下鉄に乗り込んだ。
行き先は乗り換えなどができる町の中心となる駅。
この駅に着けば、2人がこの日行きたがっている全ての施設が近くなる。
「もうちょっと身体近づけて良い?」
「う、うん」
無事に隣同士で座れた2人はピタリと寄り添う。
このまま、中心となる駅にたどり着いた。
「さて……まずはどうしようか」
降りるなり、桜の手を握りながら桜にそう語りかける叶。
「ん…んーと…」
「駅ナカのスイーツでもいくつか食べようか。水族館会館まで少し時間あるし」
「うんっ!」
無類の甘党である桜はその叶の提案をのんだ。
2人はとりあえず駅のホームから出て、駅の中にある店が並んでいる広い通りを散策する。
「王手企業の服屋さんとかもたくさんあるから、予定通り、桜の服を買うのもここにしようね」
「やっぱり買うんだ」
「もちろん」
お店を見るためにキョロキョロと顔を動かす2人は、ついにめぼしいドーナツ屋を見つけ、そこに入ることにした。
「あ、先に言っとくね。前にも言ったと思うけど、お金は俺が全部払うから」
「……本当にいいの?」
「余裕なんだってば」
桜は後で肩をすぼめる。
『別にいい』、そう言おうとしたが叶がドーナツを選び始めたので桜は今は断念し、とりあえずは言葉に甘えて、自分の大好きな極甘なドーナツを一つ選択。
また、叶は桜とは違うドーナツを1つ選んだ。
2人はいつものことのように、ドーナツを半分に分けあって食べたのだった。
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