第497話 強者の結婚
「お、おめでとうございます!」
「お二人ともお付き合いしてたんですか?」
そういえば確か、ウルトさんがサマイエイルを取り込んだメフィストファレス…もとい光夫さんの即死効果のある物を身を呈して消し去ってくれた時、パラスナさんがどうとか言ってたっけ。
「うん。実はSSSランクになるずっと前からね」
「結構付き合い長いのよ。人生の半分以上は一緒にいるの」
パラスナさんはまた少し頬を染めた。
ウルトさんも恥ずかしげに頬を掻いている。
「同居とかはしてなかったんです?」
俺はそう訊いてみた。
初めてパラスナさんに会った時、ウルトさんに帰ると言って出てってしまったからね。
でも様子を見る限りじゃあどうも同居してるような感じがするんだよ。
「ほ、ほんとはしてるの。ここでね。世間一般では私もウルト……ラストマンも住所が不明になってるし。バレたら押し掛けてくる人がいるじゃない?」
「はい、居ますね」
ほんとにいるからね、毎日必ず最低でも10人はうちの門の前で立ち止まる人が。俺みたいにアイテムでどうにかできるならいいけれど、そうでない人にとってはストレスが溜まることだろう。
「まあだから、ずっと秘密にしてたってわけ」
「知ってるのは国王様達とギルマーズさん…あとラハンドとガバイナ、バッカスくらいだよ」
本当に付き合いが古そうな人しか知らないんだね。
…そういえば最近、ラハンドさんにもガバイナさんにも、バッカスさんにも会ってないなぁ。俺自身が異常に忙しくなっちゃったから仕方ないのかもしれないけれど。
「まあそれで本題なんだけれどね」
ウルトさんが少し真面目な顔をして切り出してきた。
でもこの話の流れからして多分。
「俺とパラスナは婚約したんだよ。つい2、3ヶ月くらい前かな。それでいつ式を挙げるかの相談を仕事の合間にずっとしていたんだ」
「その式を開く日は1ヶ月後の今日って決まったから、あとは式の演出やお料理を誰にどのように頼むかって話になったんだけど……」
ウルトさんとパラスナさんは一旦互いに顔を見合わせてから俺の方を見た。
「そういうわけだから頼めないかな、演出と料理全般」
「いいですよ! いいよね、ミカ」
「うんうん、ぜひ手伝わせてもらおうよ」
この二人は俺のスキルの能力がどのようなものか知っている。だからこそ頼んできたんだろうね。
「ありがとうっ! 本当にありがとうっ!」
「良かった…アリムちゃん達なら引き受けてくれると思ってたけど…!」
本当に嬉しそうに笑うなぁ。
俺もミカと結婚の相談してる時、こんな顔をしてるんだろうか。してるんだろうね。
「えっと……それで具体的にどうするか、より先に代金の相談をさせてくれないかな」
「どうぞ」
本当は代金なんていらないんだけど、こういう思い出に残ることには使わせてあげたほうが良いんだもんね。きっと。
「俺の闘い方を二人は知ってると思うんだけど、武器や防具は一切いらないんだよね。だからお金の貯蓄がそれなりにあるんだ。その半分を出そうと思ってる。……5500万ベルなんだけど」
「な…5500万ベルですか!?」
伝説級の武器が5本は買える値段だよ。
……日本円で言ったら5億5000万円か。
「そう。それでできるぶんだけのことをして欲しいんだ」
「すごい金額でしょ? ウルトったら、私も出すって言ってるのに頑なに断るのよ?」
いやぁ…本気なんだなぁ。
自分の財産の半分を出すなんて…あ、いや、お金の半分だから財産の半分ではないんだっけか。
まあそんなことはどうでもいいね。
「わかりました。それだけあるなら大抵のことはできちゃうと思いますけど」
「ありがとう。助かるよ。式はクリスさんの教会でやるよ。もうあの人には頼んであるんだ」
「一昨日に頼んだの」
なるほどなるほど、ミュリさんのお父さん、大司教クリスさんが勤めてる教会って言ったら、この国で一番大きくて豪華絢爛な教会だね。
俺もミカとアナズムで式を挙げるならあそこが良い。
「なるほど、あそこは良いですね! えっとそれじゃあまずは必要なものとかリストアップして_____」
「それはもうしてあるよ」
ウルトさんはポケットから羊皮紙を1枚取り出すと、俺に渡してくる。用意周到だなぁ…宿屋を経営しているだけあって手際がいい。
「わかりました、それじゃあこのリストの中の通りに作ります。今ちょっと見て見ますね」
「ありがとう、助かるよ」
そのリストにはパラスナさん用のウエディングドレス、ウルトさん用のタキシードの作成や、結婚式でもてなして欲しい料理の指示(料理に関してはほとんどおまかせ)。
そして作成したものに欲しいエンチャントや可能ならばつけてほしい効果などが細かく書かれていた。
……でも一つ気になることが。
「すいません、このウエディングドレス…兎の獣人用って書いてあるんですけど…」
「ああそれね、そうだよ。結婚式で結婚したことを宣言すると同時に俺たちのことについて暴露しようと思っているんだ」
お茶を飲んでいたウルトさんがお茶を置き、パラスナさんの方を見る。パラスナさんはただ頷き、フードを俺たちの前で外した。
……特に何もない白い髪だ。
「えっと、暴露する内容というのは俺のこの宿屋の店主としての姿とパラスナが……」
パラスナさんはウルトさんの言葉に合わせるように、自分の手首につけていた腕輪を外した。
同時に頭から出現する、髪の毛と同じ白色で長いもう1組の耳。
「兎の獣人ってことね」
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