第473話 弟妹の登校 (叶・桜)

 有夢と美花が登校してから10分後、叶と桜は外に出て玄関付近で落ち合っていた。



「眼鏡なしの制服姿…やっぱり新鮮だね」

「そうかな? でも確かに耳と目の周りに違和感はなくもないかも」



 クイっとメガネを動かす動作を桜はしてみせた。



「みんななんて言うか楽しみだなー」

「そ、そんな大層な反応したりはしないと思うよ。眼鏡外しただけだし」

「いや…やっぱり全然違うかな。…ん」



 そう言ってから叶は微笑むと、おもむろに桜に手を差し伸べる。

 


「ほ、本当に手を繋いで登校するの……?」

「ああ、もちろん。嫌なら別に」



 少ししょげた表情を作りつつ、叶は手を引っ込めようとするが桜は慌てて言葉を続けた。



「いっ…嫌なんて一言も言ってないでしょ? 叶がど、どーしてもって言うなら…」

「どうしても」

「あぅ…わ、わかった…うん」



 桜は顔を真っ赤にしつつ、自分に差し伸べられたその細い手を握った。

 叶の指もすぐに桜の手のひらを包むように閉じられ、予定であった恋人繋ぎではないものの、完全に二人は手を握り会っている状態となった。



「じ、じゃあ行こうか」

「う、うん」



 すごくニヤついてるような母親らの目線が玄関付近からするも、二人はそれを相手にせず、無言のまま歩き続けた。

 しばらくしてそんな二人は声をかけられる。



「あら、叶君と桜ちゃん、おはよう!」

「お…お、おはようございます! 今井さん」

「おはょぅ…ご、ござぃま…す」



 つい十数分前にも彼らの兄姉に声をかけた近所の今井さんであった。



「あーらあら、今日も叶君、桜ちゃんを守ってあげてるのねー! ……ん、あれでもいつもと違くない?」



 今井は不思議なものを見るかのように二人を見てから、目をぎょっとさせ二つのことに気がつく。



「あれ…えっと、桜ちゃん? 眼鏡は?」

「め、眼鏡は……うちに置いてきました……」

「あら、じゃあ早く取りに行かないと」

「い、いえその必要はなくて…」



 叶は今井さんと、様子を見ていた他のご近所さんに、『何故かわからないけれど』今朝から桜の目が普通に見えていると説明。



「そ…それは良かったじゃないっ!」

「はぁ…奇跡か?」

「いやわからん…あの専用の眼鏡がなかったらほぼ盲目だって聞いてたんだがなぁ…」



 話を聞いていいていたこの二人の事情をしっている者全員が喜び、祝いの声をかけたが、同時に首も傾げた。

 その場ではとりあえず、めでたいから良いじゃないかと叶にまるめこまれたが。



「じゃあおばさん、もう一つ訊いていい? いつも桜ちゃん、叶君の腕をつかんでたよね? 今日は……」



 今井とその他ご近所さんは桜と叶が握り合っている手に目をやる。

 普段叶は、目が異常に悪く眼鏡をつけていても視界良好であるとは言えなかった桜の保助をするために、登下校など一緒に出かける際には必ず桜に腕を貸していた。


 そのことは一回だけ、『盲目の少女を助ける幼馴染の少年』という題材でテレビで取り上げられてから、兄と姉の存在同様にここら地域一帯で有名なのである。



「そういう事でいいのかしら? つまり付き合い始めたって」

「えっ…ええ。そうです。その通りでしてはい」

「はぁ……えっ、付き合ってなかったのか?」

「あの番組じゃあまるで結婚するのが約束されてるみたいに言われてたもんなぁ……いやまあ、誰が見たってそう思うけども」



 周囲の人から口々にそう言われ、叶と桜はひどく赤面する。実質この内容でクラスメイトどころか道行く人にもしばらく弄られていたのだ。



「それにしても、さっき有夢君と美花ちゃんにもあったけど、あの二人も付き合い始めてたわよね?」

「確かに」

「それな」

「えっ…やぁ…偶然ですよ偶然」



 叶は慌ててそう答える。



「偶然かぁ…やっぱなんか結ばれるもんでもあるんだな…成上さんとこと曲木さんは」

「そうとしか言いようがないな」

「そ、そうですかねっ……えっとあの、そろそろ俺達、学校に行きますね」

「は、はいっ」



 物事を深く訊かれる前に、尚且つ、これ以上いじられないようにするために二人は逃げるようにその場を去ろうとした。

 そんな二人、桜に今井は声をかける。



「うん、勉強頑張ってきなさいな! あ、さっきから思ってたんだけど、桜ちゃん、お姉ちゃんにすごく似てるよ!」

「ほ、本当ですか!? ありがとうございます…えっとあの…それでは!」



 姉に似てると、身内以外に言われて顔を綻ばせながら桜は歩く途中で叶から手を離し、ぺこりと軽く頭を下げた。

 そしてすぐに叶との手を、とても自然に握り直す。


 二人はしばらくまた歩いてから、さっき言われたことについて話し合った。



「ね、ねえ、私達ってそんなにお互いお似合いに見えてたの?」

「まあ、兄姉両親含めて皆そう言うよね」

「そ、そう。やっぱりずっと叶が側にいたからかな。あの…あのね、ずっと守ってくれてありがとね」

「う、うん」



 桜は恥ずかしがっているのにもかかわらず、叶により身体を近づける。叶はそれを無言で受け入れた。



「あと….やっぱり私ってお姉ちゃんににてるんだ?」

「だからそうずっと言ってきたじゃない。自信を持ちすぎても良いくらいなんだからね」

「えへ…うん」


 


 

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