第472話 久々の学校

 学校に着くなり、俺と美花はまず下駄箱を開けた。

 美花の下駄箱の中から出てくるのは5枚以上のお手紙。

 そのお手紙を、学校で破り捨てるのは流石に可哀想だということで美花はカバンの中に入れる。


 俺も自分の下駄箱に入っている4枚ほどの手紙を自分のカバンにしまった。


 これは、中学生あたりから毎日行われている行事。

 ちなみに美花にくるお手紙はほとんどが男性(3日に1回何故か女性)。俺にくるお手紙は8割の確率で同性。

 内容? もちろん恋文だよ。


 と、こんな感じで久々に日常的行事をこなしてから廊下と幾つの教室を過ぎ、俺たちの教室である2-Cへとたどり着く。

 ちなみに校内で過度にいちゃつくのはあまりよろしくないから、学校の敷地内に入ってからはては握ってない。


 

「まじかよ、佐奈田それマジかよ!?」

「だってさっき本人達が言ってし。リア充になったのだと」

「大天使と小悪魔が……ついに……」



 教室は軽く騒ぎごとになってるみたいだ。

 俺と美花は普段、学校に来るのが早めだから人はそんなにいないはずなのに騒がしい。

 どう考えても俺と美花のことが話題になってるみたいだね。ていうか大天使と小悪魔ってなによ。

 とりあえず、俺と美花は横開きのドアをガラリと音を立てながら開き、教室の中へ。



「「おはよー!」」



 俺と美花が同時にそう言うと、全員が会話をやめ、こちらに注目した。

 まだ翔は来てないようだ。



「……普段となんもかわんなくね?」



 この教室1番の高身長(185cm)の山上がそう言った。

 普段となんも変わらないというのは、隣同士で一緒に歩いてる姿を見てそう言ったんだろう。

 


「いや、変わってるって! あの二人付き合ってるんだってば!」

「な、成上マジなの?」



 そんな山上の問いに、俺と美花ば互いに顔を見合わせ、それが合図であるように互いに頷き____________



「うん…俺と美花は…ね」

「えへへ…付き合い始めたんだよ」



 なーんて恥ずかしげに、手を握り合いながら言ってみる。そして一層湧き立つ教室。



「ま、マジだったー!?」

「ふひひ……いいですなぁ」

「ほら言ったでしょ」



 30人居るこのクラスに今は俺と美花を含めて6人しかいないけれど、それでも十分な騒然としてる。



「百合…! マジで百合!」

「違うよ、俺は男だもん」

「それをほっぺた膨らませながら言っても萌えるだけですな」



 やはり百合だと思われるのか。

 この見た目のおかげで助かったことは多いけれど、逆に変な気分になる事も多いの。



「むぅ…」

「『むぅ…』とは萌えるのですな。ところでどうなのですかな、曲木殿は。実際ゆりゆりしてるようにしか我々には見えないのですぞ」



 このクラス1番のオタクであり、喋り方も重度のオタクのようだけれども、何故か男性アイドルのような容姿を持つイケザン君が美花に訊いてきた。

 イケメン+ザンネンでイケザン君なんだよ。



「私はこの有夢の可愛いところも含めて好きだからいいのっ」

「うわぁ…成上のヤツ、この地域一帯で1番のマドンナにそんなこと言われてるぜ」

「こぽぉ! これは裏山ですな! でもこれがアリちゃん殿であるから嫉妬はしないのですな」



 一部の人は俺のことをアリちゃんって言う。

 言わないでって言っても、アリちゃんって言うの。

 俺のゲームでのユーザーネームを知ったイケザン君から、アリちゃん殿って呼ばれ始めてから、結構多くの人がそう言うようになった。



「ま、そもそも成上…もといアリちゃん自身がマドンナだしな」

「マジそれな」



 教室にいる全員がウンウンと首を頷かせた。

 もう今日は俺が女子っぽいって言われても気にしないことにする。さすがに疲れた。


 そのあと、どのような経緯で付き合い始めたのか、どこまで言ったのかとか佐奈田に根掘り葉掘り訊かれたから、とりあえず適当にでっち上げて伝えておいた。


 まず経緯は昨日休んでる間に喧嘩しちゃって、その間に色々あって美花が俺に恋心的な本心を話し、両思いだったことがわかったため付き合い始めたことに。


 進行状況はキスまではしたことにしておいた。

 ま、じっさいこの世界では俺も美花も大人な体験はしてないことになってるみたいだし、嘘ではないかも。


 説明してる最中にもクラスメイトが続々と2-Cの教室に入ってきており、説明が終わってすぐに佐奈田が女子を中心に、山上がイケイケ系の男子を中心に、イケザン君が男女のオタク仲間に話して言っていたよ。



「おう、おはよーな!」



 いつもよりだいぶ遅く、翔が教室に入ってくる。

 俺と美花が手を握りあいながら、男子と女子(比率的に女子の方が多い)にもみくちゃにされながらいろいろ訊いてるのをちらりと見てきて微笑みやがった。



「あっ、火野。知ってるか?」



 俺と翔の間ほどじゃないけど、まぁまぁ普通の友達くらいには仲のいい山上が、翔にそう言いながら駆け寄る。

 山上が全てを言う前に、翔は微笑みを大きくし、口を開けた。



「知ってるぜ、有夢と美花だろ?」

「おお、まあお前ら仲良いもんな」

「そりゃあな、あの二人の結婚式で仲人するのは俺だしな」



 ああああぁ! 翔のいつもの台詞が戻ってきた!

 アナズムに来てから使用頻度低かったのに!

 あのニヤニヤしながらそう言うアレが帰って来たっ!



「それもマジで現実になりそうだし」

「それな」



 間も無くして翔が話の輪に加わり、より俺と美花のいじりが加速して行く。

 それは、先生が朝のホームルームをしに、教室に入って来ても続いたの。というか先生も話に加わって来たし。

 自分の奥さんの馴れ初め話をしてから、俺らに激励飛ばしてきたし。


 とにかくずっといじられつつも、しばらくしてやっとこさ授業が始まり、静かになった。

 というのは嘘で、それぞれの先生たちも俺らについて何かしら突っ込んできたよ。

 それが1日中続いた。


 …………佐奈田を中心として口の早い女子グループによって全校…否、この地域一帯に俺らが付き合ってることがものすごいスピードで伝わるのはまた別の話。


 

 

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