第462話 周回を終えて (翔)

「わふーーん、さすがに疲れたよ…」



 リルが、有夢の屋敷の俺たちの部屋のベッドにダイブした。



「おう、頑張ったな!」



 俺はリルの頭を撫でる。

 するとリルは耳を嬉しそうにピクピクと動かしながら微笑んだ。


 2週間…。

 俺たちはずっとレベル上げを続け、転生回数は305回となっていた。

 初日からどんどんとペースを上げて行き、最終日には35回もの転生をするという、半端じゃないくらいの回数を出したわけだ。

 もっとも、俺や叶君達の称号の効果とこの『幻転地蔵』様に良く似たお地蔵様の経験値2倍効果により、1周で獲得できる経験値は10倍。

 ダンジョンそのものでの経験値が42万くらいだったから…1周は420万。およそ2.2周で1回転生できた。


 それでもダンジョンを700回近く周回するとか狂気の沙汰だったぜ。

 考えられるか? 経験値10倍でなければ、7000周するところだったんだぜ?


 リルを中心に、俺や叶君、桜ちゃんで回数を分担してやってたからなんとかなったがよ。

 それでもリルが一番多く周回していた。


 ………この話、有夢に話したら鼻で笑われそーだな。


 し、しかしだ!

 俺達はリルを含め全員、ステータスがカンストしたんだぜ! リル以外の賢者である俺ら3人については、HPとMPも999万9999という数字でカンストした。

 もう一生、経験値目的でダンジョンなんかに潜らなくて良いだろーな。



「ショー、これで私、そっちの世界に行けるよね」

「ああ、行けるぜ」

「わふ」



 リルが甘えるように俺の腕に寄りかかってきた。

 また嬉しそうな顔をしてるんだろうか。

 ふと、リルの顔を見ようとして目線が別の場所にそれてしまった。

 ……服の間から見える二つのものから俺は目をそらす。

 帰ってきてからリルは相当に疲れてるらしく、かなりラフな格好をしているから見えるのは仕方ないけどな。ああ、仕方ないとも。

 ……………こんな良い雰囲気でそっちに目がいく本能が悲しい。



「でもね、ショー。その…その、だよ。そのショーの家に泊まるっていう女の子だったかな?」

「ああ」



 この2週間のうちに、俺はリルに地球での常識や俺の生活環境について必要なだけ話してある。

 そう、そしてあのノルウェーから来る留学生の話もしたんだ。

 その話をした時、リルはやっぱり耳を垂らし、ションボリとした顔で聞いていたぜ。



「もし…もしその子が美人で、私より胸が大きかったら、ど、どうしよ。頭も良いらしいんだもんね? そうだったら私、勝ることなんて何もないよ。そしてそんな子がショーに恋愛的な意味での好意を抱いたりしたら……」



 やっぱり不安になるよな。

 リルはマジで捨てられた子犬みたいな顔をして、俺の顔を見つめている。

 ……何を心配してるか知らねーが、何も心配する必要もないんだが。



「うーん、そうだな、じゃあ仮にその子に俺が告白されたりしたとしたら_______」

「し、したらどうするんだい!?」



 目をウルウルさせ始めた。

 あーこんちくしょう、マジで可愛いぜ、リルは。

 俺はそんな不安で押しつぶされそうな顔をしてるリルの頭を、また撫でる。



「断るさ。俺にはもう彼女がいるんだから」

「ぅ…うん。えっとその…」

「言っておくが、容姿端麗だとかスタイルが良いだとか、頭が良いだとか、それらは一切、恋愛には関係ねーと俺は思う。そもそもリルは可愛いしな」

「か、可愛いだなんて……っ。と、とにかく。す、全ては好きかどうかってことかな? ……わふん、ありがとぉっ」



 リルは俺に強く抱きついてきた。

 くッ、やわらか………じゃ、なくて。

 俺が言いたいことがわかったんだろう、リルは嬉しそうに尻尾をブンブン振っている。

 くぅ…こんなに好意を持たれるなんて、俺も幸せ者だな! 嬉しいな!



「でも私も、ショーとアリムちゃんとミカちゃんと同じ学校に行くからね! どうにか頑張るから!」

「ああ」



 と、言ってもリルがどのような形でこっちの世界にやって来るかわかんねーからな。それはその幻転地蔵様次第なんだがよ。



「でも私、勉強についていけるだろうか。難しいんだろう?」

「まあ…どうだろうな」

「わふーん。そっちの世界に行ったは良いけど、その知識が全くないからね。路頭に迷ったり…ショー達に頼りっぱなしだったりというのは…嫌だな。迷惑をかけたくないよ」



 リルは真面目な顔をしながら話を続ける。

 それでもまだ強く抱きつかれたままで、俺の腕がてんご……ごほん。 

 しかし…まったく、今日はどうしたんだろうか。

 もうしばらくずっと性的なことは全く考えなかったから、ついに爆発でもしたのか?

 こんなにリルが真面目に話をしているというのに。



「ショー達がこっちの世界に来た時にこの世界の知識として与えられたのは、言葉だけだったんだもの。私がそっちの世界に行って与えられるのはやはり、言葉の知識ぐらいだと考えても自然だね」

「お、おう」

「だから…今更になってだけど、すこし不安でもあるよ」



 確かになかなか説得力がある仮説だな。

 思いつきもしなかった。

 ん…? もしかしたらリルって頭良いのか?

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