第424話 両親 (翔)

 有夢から連絡が来た。

 ちゃんと全員来てるみてーだな。

 こんなにうまく物事って進むものなのか?

 完璧に行き来可能ってことだろ? はははっ!


 ……とりあえず、親父と母さんには心配をかけちまったから謝らないと。

 って、どうやら俺の部屋に掛けてあるこの日付表示機能付き時計によれば、有夢が死ぬ前まで時間が巻き戻ってるぽいし。

 二人は覚えてないんじゃねーかな、俺達が居なくなったことなんてな。


 そう考えて、俺は部屋から出た。

 出た途端に母さんとばったり。



「母さんおはよっ」



 そう、いつもと同じように挨拶するも、なにも言わずに

ギョッとした顔でこちらをみてくる母さん。

 取り込んでる途中であったであろう洗濯物をバサリ、と、地面に落とした。



「しっ…し…翔!? 翔、あんた……!?」



 そう、やっと話してくれた言葉がそれだ。

 ……時間が巻き戻ってるのに、母さんは俺が居なくなってたことを知っている…!?

 


「おい、どうしたっ!?」



 …親父が書斎兼寝室から、勢いよく出てきた。

 この人はたまに、母さんと一緒の部屋に寝るでなく、自分の書斎に篭ることがある。

 この日は親父、書斎で寝たんだっけな。

 俺の顔を見るなり、親父も数秒黙ったのち。



「……こ…このバカ息子がッ……!! 今までどこに行っていたぁっ!?」



 怒鳴りながら飛びかかってきた!



________

______

_____



「訳を訊かずに飛びかかったのはすまんかった」



 母さんに止められて、冷静になった親父が謝った。

 警察の警視長なんかやっていて、普段は冷静に物事を運ぶ親父がここまで激情したのをみたのは…初めてというわけではないが、珍しい。



「……翔、今まで本当にどこに行ってたの? 母さん達、すごく心配したんだよ」

「ごめんなさい。…これから俺が言うことはちょっと信じらんねーかも知んねーけど…ちゃんと話すからよ」

「………うむ」



 親父はメモ帳を取り出した。

 警察としての癖だからか?



「どうしてメモ帳…」

「お前の他に、成上さん家の叶君と、曲木さん家の桜ちゃんが行方不明になっていたからな。誘拐事件だという線も踏まえ、証言は残しておかなければ」

「いや…そんなんじゃねーんだよ」

「は?」



 なるほど、親父はこれをなんらかの事件だと考えてたのか。

 そういや当たり前か。

 葬式場で中学生2人と高校生1人が消えてたら、普通は事故だなんて思わねーよな。



「父さん、母さん、今日の日付は見たか?」

「……どうしてそんなこと」

「いいから、テレビなりケータイなりで、今日の日付を見てくれ」

「……まあ、わかった」



 父さんはテレビをつけた。

 『グッドモーニンジャ』とかいう個人的に好きな番組が画面に現れた。

 画面端には今日の日付が書かれている。

 ____月____日。

 有夢が死んじまった日。


 母さんと父さんもそれを確認し、驚いたように目を開く。二人して顔を見合わせてからテレビを消し、俺の方に向きなおす。



「これは…どういうことだ?」

「よくわかんねーけど…とりあえず、過去に戻ってるとだけ。……有夢も美花も、叶君も桜ちゃんも、それぞれの家に戻ってきている」

「えっ…二人だけじゃなく、有夢君と美花ちゃんまで!?」



 母さんのその問い返しに、俺は頷いた。



「なんなんだ? なんなんだ一体これは!」

「警察じゃあ…その、どうにかできるって問題じゃないことは確かなんだ。あーその、なんつーか、神隠しに近いことにあってたっていうか……」

「か…神隠し?」

「ああ」



 俺はざっくりと、あの日なにがあったか、どうやって有夢や美花に出会ったかを、ざっくりと教える。

 ほんとうだったら信用なんてできないはずの話なのに、二人はなにも言わずに聞いてくれた。



「_______つーことなんだ。別世界に移動してたってのが、一番いいのかもしれねー。有夢と美花はそこで、本当に偶然、こう…転生してたっていえばいいのか? そんな感じなんだ」

「それで、どうやってこっちに戻ってきたんだ?」

「あー、それは有夢が色々やっててな。それで帰れた」



 しばらく目を瞑り、俺の話を集中して聞いていたであろう親父はカッと目を見開く。



「…警察の者として…。本来ならば、これまでのことは虚言ととらえるしかない」

「ち、ちょっと父さん…!」



 母さんが親父に小言を言おうとした中、親父はそのまま話を続ける。



「……しかし、親としてお前を信じよう。……とりあえず、成上さん家と曲木さん家に連絡を取る」



 スッと親父は立ち上がり、電話の受話器を取った。

 母さんは俺の元に正座のまま擦り寄ってくる。



「よかった…本当に良かった…!」

「ごめんなさい、母さん。本当に」

「いいのよ。こうして…なぜかわかんないけど、全員戻ってきたんでしょう? 幻転地蔵様に感謝しなきゃねー。あのお地蔵様にお願いしたんだから」



 そっか。

 確かに…あの転送装置も地蔵様だったし、幻転地蔵様のおかげつったら、そうなのかもしれねーな。



「…なんだこれ?」



 ふと、机のうえの書類に目が移った。

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