第401話 全員帰れる
あれから何分経っただろうか。
俺はカナタと二人、隣同士で座ったまま特になにもせずにぼうっとしていた。
チラリ、と、地蔵の方を見ると、恐らく最後であろうリルちゃんが地蔵に触れている。
_______と思ったらリルちゃんがガクンと膝を折り、豆鉄砲でも食らったかのような顔で周囲を見渡してる。
…どうやら、ミカとショーとサクラちゃんも同じような表情をしているみたいだ。
リルちゃんが転生ショップについて見終わったと判断した俺は、カナタとともに3人の元へ。
「どうだった? みんな」
「………帰れるの? 有夢が一緒で帰れるって事で…良いのよね? この世界と行き来もできる…って事でいいのよね!?」
こちらに先ほどまでのカナタと同じように涙目で駆けてきたミカを、俺は抱いて受け止める。
「そうだよ」
「やった…やった! お母さんとお父さんともまた…!」
グリグリと、ミカは同じ身長であるにもかかわらず頭を擦り付けてくる。可愛い。
一方で、サクラちゃんはというと。
「えへ…なんかすごいね、叶! お姉ちゃんとあゆ兄も帰ってこれるの…!」
「うん。……帰ったら、俺らが付き合ってる事、父さんやおじさん達に報告しなきゃ」
「あっ…う、うん! しなきゃ…ねっ…」
なんだか今のミカと同じような状況になっている。
ところで……異世界恋愛を果たした二人は…。
「わふうっ……! わふうっ……!」
いつの間にかお地蔵様の元から去り、顔をくしゃくしゃにしてショーに抱きついていたリルちゃん。
そんなリルちゃんを、ぎゅーっと強く、ショーは抱きしめていた。
……お地蔵様に感謝しなきゃ。
なまじ、親しみ深い幻転地蔵様に近いだけあって…いや、もしかしたらそのものかもしれない。
きっと、俺たちに神の力的な、御利益的な何かを授けてくれてるのかもしれないな。
俺はミカをギュッてしながら、ふと、そう思った。
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_______
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「…これからどうする?」
いつの間にか全員泣いていて、結果的に泣き声の大合唱になっちゃった俺たち。
泣き止んだ後、食堂に居たままというのも何なので、俺とミカのスイートルームに移動した。
机の上のカゴの中に入れてあったイチゴ大福を食べて頬が綻んでるサクラちゃんを気にしながら、カナタが声を上げる。
「とりあえず今はこっちのゴタゴタが終わってないし、帰ったり魂を分離したりしないでコッチに居ようよ。せめて1週間くらいは」
「私はアリムの意見に賛成かな」
4個目となるイチゴ大福を掴もうとしていたサクラちゃんの手を、「食べ過ぎ」と呟きながらペシっと叩き落としたミカは、そのまま俺に賛同してくれた。
「うん…。俺もその方がいいと思う。桜と翔さんは?」
「俺はそれでも構わないぜ」
「私もそれでいいかなーっ。あ、お姉ちゃん、食べさせてよー…!」
再びイチゴ大福を食べようとしたサクラちゃんを制止するミカ。
「だから、食べ過ぎだよ? 太るよ?」
「何言ってるのお姉ちゃん? 私もお姉ちゃんも太らない体質でしょ? 私がバイキングでケーキ24切れ食べたけど、体重が1gも変わってなかったの覚えてないのかしら?」
と、言いながらイチゴ大福をもう一個食べようとするサクラちゃん。ミカは止めることを諦めたようだ。
なお、リルちゃんは人生で初めて見る大福に興味津々のようで、鼻を近づけてはピクッ! 一口齧ってピクッ! と面白い挙動をしていた。
「確かにそうだけど…過信してたらだめだよ? ねえ叶君、桜がおデブちゃんになったらどう思う?」
「それでも我は桜を愛する」
そう、カナタは真顔で言った。
それを聞いていたミカとショー、そして俺はニヤニヤし、カナタはハッとして口をつぐむ。
そして桜ちゃんは苺に負けじと真っ赤になっていた。
「そ…そんなことより! えっと…俺らはどうすればいいのかな? 姉ちゃん」
「んー? 愛してるサクラちゃんと同棲でもすればいいんじゃない? 今貸してる部屋なら、アイテムの効果で1秒たりとも汚れる時間なんて無いし、どう使ってくれてもいいから。無論、ショーとリルちゃんもね」
そう言い放つと、リルちゃんは嬉しそうな顔をして喜んだ。仮に大人な最終的行為をしようとも、部屋は汚れないし大丈夫。
なお今、カナタは苺のように真っ赤に、サクラちゃんはトマトピューレのように真っ赤になっている。
「ふふん。まあ、とにかくしばらく休みなよ」
そう告げると、みんなは頷いた。
全員、すごく心に余裕があると思う。
その理由なんてそれぞれだろうけれど、とにかく、今、俺達はすごくゆったりとした表情をしているに違いない。
……俺だって、母さんや父さんにまた会えるのが楽しみでしかたがないし。
ミカと付き合い始めたことも報告しないといけないし。
ふふ。
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