第389話 メフィラド王国へ行く準備
「_______以上の件から、私達はこの国を去ります。今すぐにでも」
俺とミカが慌てて、叶達がお偉いさん数人に報告と議論をしている部屋へと入る。
そこでは叶が淡々と理由やを述べて行き、大の大人であり、経験豊富なはずである重鎮達を黙らせている光景がすぐに目に入った。
翔はその隣で、その筋肉隆々な身体のスゴみを見せつけるかのような威圧感を醸し出しながら立っていた。
その様子を、桜ちゃんとリルちゃんは壁際に立ち、リルちゃんは何が何やらわからぬ様子で、桜ちゃんは叶のことを、憧れのアイドルでもみるかのような顔でジッと見つめている。
……入りにくい。
「し…しかし、困ります」
「何が? どのように? 先程もお話しした通り_______」
叶は次々と、放たれる言葉を説き伏せて行く。
と、話してる間に俺たちに気がついたのか、軽い手招きでこいこいと、ジェスチャーしてきた。
恐る恐る、俺とミカはそちらに向かう。
うん、やっぱり入りにくい。
俺とミカが叶と翔の横に着くと、翔はまじまじとこちらを見てきた。
一方、叶はこちらを確認することもなく、重鎮達の方を見据えている。
と、途端に、手をこちらに向けてきた。
俺が突然に感じただけで、話の流れでは俺とミカが指されるような内容だったのかもしれないけど。
「_______いいですか? 二人…メフィラド王国"の"英雄であるこの二人が、魔神を打ち滅ぼしたんです。私はトドメに槍を刺しただけ。あとは全てこの二人だ。よって_______」
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気づけば、叶による報告と、一方的な議論大会は終わっていた。
俺らが来てから2時間後くらい話し込んでたけど。
結論から言うと、叶…いや、叶達は自分から『この国を出て行く権利』を討論だけで勝ち取ってしまった。
それも、今日には準備をして出て行くという。
……何が何だかよくわかんないよ、お兄ちゃん。
どういう話をしてたんだろ、叶よか頭が良くない俺なりにまとめると、『そっちが色々約束を破ったんだから、国王が居なくなった後のことなんて知らない。契約の内容が終わった今、自分たちは好きに生きていって良いはずだ』
……とか、
『リルさんは、皆さんが狼族の特性をよく知っている通り、忠誠の証があり、そのおかげで 桜の魔法で生き返らせられたけど_______跡形もないから、国王様は無理』みたいなことを言ってた気がする。
そんなこんかで、それが終わった後、後片付けだとか言うことを済ませてに行っていた叶達は、俺らが待機している部屋にやってきた。
叶うが開口一番に、嬉しそうに、報告をし始める。
「さて、兄ちゃん。これからはこの国の人達が勝手に頑張って行くと思うよ。俺はこの国を早く出たい。なるべく今日にでも出たいから、兄ちゃん達のことも穏便に済ませるように言っておいた。この国のことなんて、後は知らね。……ところでさ」
俺は叶ほど頭が良くない、けれども、叶が次に言う言葉がわかった俺は、ただ、頷いてから言ってあげた。
「いいよ、来なよ、こっちの国。もちろん、みんなでね。メフィラド王国はリルちゃんを差別されたりなんかしないし、もう、国王様からは許可をとったから」
「さすが…に…姉ちゃん! ありがとー!」
「あ、ありがと、あゆ…アリ姉!」
そう言いながら叶はニコッと笑った。
叶は俺みたいに女装趣味はないし、心はちゃんとした男だから、可愛いと言ってはかわいそうかもだけど、弟ながら…可愛い顔してやがる。
「……そのあゆ…アリム、悪りぃな」
「わふ、本当に良いの?」
「うんうん、良いんだよ! 泊まる場所も、ウチで良いよね」
「すまねぇな」
「気にしないでよ」
親友だもの、助けることに理由なんていらないよねん!
なんて、後で言ってあげたら、翔はニコニコするかもしれない。
「もう、お世話になった人には、お別れは済ました?」
「さっきの時間で済ませてきたよ、ね?」
「うん!」
叶が促すと、桜ちゃんは頷いた。
なるほど、こんな国でも一応、良くしてくれた人は居たのか。
「…じゃあ、泊まってた場所の解約とか、片付けは?」
「それも、俺と翔さんの二人で、俺の瞬間移動だとかを使って手早く済ませた。もう、この国には何もないよ」
それが本当であるかを確かめるために、俺は全員の目を見て行くけれど、4人とも、ほんとうにその通りみたいだ。後悔することの「こ」の字もないように思えてくる。
「分かった。じゃあメフィラド王国に行こう。瞬間移動で行けるよね?」
「うん。行ける、大丈夫……みんな、手を出して」
叶が一番下に手を出した。
その上から、5人がそれぞれ手を重ねて行く。
触れていたら一気に飛ばせるという、便利な効果もある叶の能力の一つだ。
「じょあ……いくよ!」
俺とミカは、エグドラシル神樹国から弟と妹と、親友とその彼女を引き連れて、メフィラド王国に戻ってきた。
すでに、あたりは暗かった。
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