第387話 一段落
「……さてと、これで終わり!」
俺はくるりと、みんなの方を向き、ファンサービスを含めたニッコニコの可愛い笑顔でそう言った。
「長かった…ような、短かった…ような?」
「………色々あったわね」
「ああ…おわった…な、やっと」
「……………わふ」
叶と桜ちゃんは顔を見合わせながら、そう呟き、翔はなにか終わってしまったことに不満があるかのような顔をし、リルちゃんに関しては、翔の方を見て不安そうな表情を浮かべていた。
「まあ、思うことは色々あるよね。ボクとミカにみんなが話したいことがあるだろうし…逆にボクとミカが話さなきゃいけないこともあるもんね?」
「うん!」
ミカが嬉しそうに、同じ身長である俺の腕を掴み、その腕に身体を寄せてくる。可愛い。
「じゃあ……帰ろうか、とりあえず。エグドラシル神樹国に…叶、瞬間移動できる?」
「ん、任せて。忘れ物はない?」
そう言われたから、俺は慌ててさっきのマットとお地蔵様をマジックバックに仕舞う。
「もうないよ、大丈夫」と叶に告げると、次の瞬間、俺たちの姿は、名もなき荒れ果てた無人島から姿を消し、エグドラシル神樹国のお城の城内へと移動していた__。
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黄色っぽい野原が広がる、大地に。
「よォ、数百年振りだな。元気だったか?」
黒く、ところどころひび割れた溶岩地帯のようにオレンジ色の隙間が見える身体を持っている男は、すでにその場にいた、色とりどりの豪華な天使の羽が生えた金髪の女性のような者に声を掛けた。
「……スルトル、貴様がこの場に居るということは、貴様も真の勇者に敗れたということか」
「ん、まァ、そういうことだ、サマイエイル」
スルトルと呼ばれた黒き魔神は、その天使のような金髪を持つ、サマイエイルと呼ばれた死の魔神が座っている長椅子に、サマイエイルと隣り合うようにして座った。
サマイエイルは特に嫌そう顔をすることもなく、それを受け入れる。
「どうだ? あの娘は貴様を満足させるに値したのか?」
「かなり、いや、最高だッた! あれほどの興奮と、こんなハッキリとした敗北は、オレ様達が肉体を無くしたとき以来だな」
拳を握り、未だに興奮が冷めやらぬのか男ははしゃぐ。
そんな男を横目で見ながら、女性は一つ、神らしくもない溜息をついた。
「……それにしてもテメェ、表情が表に出すぎ。この媒体を通しても、笑みだとかが隠しきれてなかッたぜ? なんか考えてんだろ?」
「……それは誠か? ……お前が来たことでそれもなくなるだろうとは思うが……」
「んだな。しッかし、オレ様達が消えてネェッてことがあの勇者ちゃんにバレちまうからよ。気をつけねーと」
スルトルは椅子に座ったまま、のびをする。
と、何かに気が付いたようにスンスンと、鼻をかざした。
「酒の…匂いがする」
「ああ、ここは酒でもツマミでも好きなだけ出てくるぞ、あの蔵からな」
サマイエイルが指をさした先、野原の上に蔵が一つ。
「マジで?」
「マジで」
「ちョッと、取りに行ッてくる」
スルトルは立ち上がり、その蔵まで向かった。
中を開け、様子を見る。
そこには、一つの丸テーブルの上に、スルトルが望んだ極上のツマミと、神を満足させるだけの味がある大量の酒が点在していた。
ニコニコとした、気色の悪い笑みでそれらを腕に抱え、スルトルはサマイエイルのもとに戻る。
「ヤベェな」
「…だろ? それに、外の様子も観れるようになっているようだ」
スルトルはテレビのリモコンのようなモノをどこからともなく取り出すと、そのボタンを空に向かって押した。
途端に出現する、大きな画面。
そこには、ニコニコと笑う赤髪の少女を主として、様々な表情をしてこれから元の国に帰ろうとしている複数人の男女が映っていた。
サマイエイルはそれを確認すると、リモコンのようなモノのボタンをもう一度空に向かって押し、その画面を消した。
一連の様子を見ていたスルトルは、美味い酒で喉を潤してから、感想を口に出す。
「……至れり尽くせりだな」
「ああ」
「これら全部……テメェの元操り人形を通して…デイスが?」
「ああ。やはりアモン…彼女は我らがこうなるというルートも予測していたようだ。ゆえに、メフィストファレスの能力経由で、このような機能をつけるように、真の勇者に命令したのだろう」
スルトルが持ってきた焼き菓子の一つをつまみながら、サマイエイルはそう言った。
「あ、そうだ。オメェ、あの真の勇者ちゃん、転生回数何回だったと思う?」
「聞こえていた。……531回だってな」
「間違いなく、レベルメーカーだろ」
「ああ。我々の予想を超えてレベルを上げすぎた者…レベルメーカーだな。確実に」
スルトルは、その自分の考えに同調されたのが満足だったのか、クカカと笑うと、また酒を一気に自分の口に流し込む。
「レベルメーカー……二人目だな、スルトル」
「あァ。アイツ以来だ。……それにしても今世は面白いな! アリム・ナリウェイという存在も面白いが、そのそばにいるミカ・マガリギも面白いぜ! オレ様をラグナロクごと氷漬けにしやがッた! それだけじャねェ、賢者が3人も居る! しかもその賢者全員が、過去のどの賢者よりもずば抜けて強ェ…!」
それこそ、なにかに期待するような目で、スルトルはまた笑う。それにサマイエイルも同調し、コクリと頷いた。
「ミカ・マガリギだな。あの娘には我も痛手を食わされた。何しろ10万に及ぶ我が下僕達があの娘一人に7万近くやられたのだから。……それだけではない。アリムやミカ、それと賢者らだけではないのだスルトル」
「ほォ?」
「居たのだ。普通にこの世界で生まれ、他の世界の者と関わることなくこの世界で育った者で、悪魔化した勇者との戦いに余裕で勝利するような者と、我のハルマゲドンの絶対死が効かぬ者が」
それを聞いたスルトルは思いっきりその赤い眼を見開いた。口は、興奮した時のそれと同じように、口角が釣り上がり、いわゆる、悪魔のような笑みを浮かべていた。
「と…なりャ…時代は動くな! この場に魔神が全員揃うか…はたまた、血筋が全滅するか…あるいは、何か別の者が現れるか…! もしかしたら、アイツやアレがなんかの拍子に復活しちまッたりなんかしてなァッ。クカカカカカカカカカカカカカカカッ…ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ!!」
大声を張り上げて笑うスルトルを横目で見ながら、サマイエイルは彼と同じように、なんらかの予感を感じていた。
「ところでよ」
スルトルは笑うのをぴたりとやめ、無表情でサマイエイルの方を向く。
「アイツ、もう一柱…どこ行ッたんだ?」
「さあな。…この世界からなにも感じられないから…もう別の誰かに我らみたいに深く封印されたのではないか?」
「……どうなのかネェ。ま、死んじャいねェとは思うがよ」
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