第386話 スルトルをお地蔵様へ
「それって……魔神か?」
「うん」
そういえば翔は、スルトルが封印されたところを見てないんだっけ。ていうか、見られないよね。
「わふ…? なんかグングニルと違う…?」
「うん、これはグラングングニルだよ。簡単にいえばグングニルの超強化版ってとこかな~」
俺はグラングングニルのとなりでマジックバックをガサゴソとあさる。アレをだすためにね。
「……そんなのどこに?」
「それはね、兄ちゃ…っ!?」
俺のことを兄ちゃんと呼ぼうとした叶の口を急いで塞ぐ。そう、リルっていうボクのファンの前では、ボクは女の子でなきゃいけないからね。
【叶、そして桜ちゃん…あ、翔も聞いてね。そろそろ気付いてると思うけど、俺はこの世界じゃ女の子としてアイドルみたいなことやってるんだ】
そのメッセージを受け取った本人たちは、驚愕の顔。
翔が真っ先にメッセージを送り返してきた。
【お前…女装癖がものすごいのはまあ、知ってるが、そこまで…】
【うん。いまや俺…ううん、ボクはただの女装じゃなくてれっきとした美少女なんだ。この世界では公式に性別が女ってことになってる。それに…恥ずかしいから脱がないけど、ちゃんと下のものも無くなってる】
ついに、叶と翔の顔がものすごく引きつったものとなった。この間に俺は、本当にアリムに戻っておく。
【ってなわけで、こっちの世界の住人の前でボクを男扱いしないでね! 詳しいことは全部済んだら、ちゃんと話すから。この場ではこの話はおしまいね! ……お願いだから合わせて】
口を塞がれたままの叶はそのまま、ただコクコクと頷いた。翔は未だに顔が引きつり、桜ちゃんはミカと俺の関係に思うことがあるのか、交互に見てくる。
「………わふ?」
「ああ、叶が言おうとしてたのはね。その槍はボクのお手製ってこと。そういうスキルを持ってるんだ」
ただ一人、何も知らない獣人の女の子は頭の上にはてなマークをたっくさん浮かべてたから、叶が言おうとしてたことを説明する。
「ふ、ふごい…!」
「でしょ? とにかく、今はこの魔神をどうにかしなきゃ」
と、言いながら俺が取り出したのは、例のワープ装置……もとい、もう一体の幻転地蔵様。
それを取り出して、見た目が見た目だから丁寧に地面に置く。
「……あれ、お地蔵様?」
ミカと俺を交互に見るのをやめた桜ちゃんが、一番最初にこのお地蔵様に疑問を持ったみたいだ。
「うん。これに魔神を入れれば魔神は消滅するよ」
「そ…そうなのか?」
「経験者であるボクが言うんだから、間違いないよ」
……たぶんね。
俺はグラングングニルを地面から引っこ抜き、横持ちでていねいに持つ。
「スルトルは、じつはまだ喋れるみたいなんだ」
『ああ、そうだぜ』
「っ!?」
ショーはスルトルの言葉に反応し、リルちゃんの手首を掴み、強引に自分の背後へ持っていく。
『あー、もうオレ様は何もできネェからな。んな、怖がんなくていい』
「うん、これは本当だよ。安心して」
俺がそう言って、とりあえずは安心してくれたのか、翔はリルちゃんの手首から手を離す。
そしてスルトルに向けて……俺も初めて感じたすごみを見せて、翔は話して行く。
「…黒魔神スルトル…」
『ああ。よかったなァ、リルが生き返って。ちなみにローキスのクソ王は絶対に二度と生き返らないからな。そこんとこよろしくナ』
「……テメェェ……ッ」
翔は握りこぶしを思いっきり握り、それをグラングングニルに叩きつけようとするも、それはリルちゃんが止めた。
「わふ、もう封印されてるらしいから…」
「……そう…だな」
『いいだろ、別にあんなクソ野郎。んなことより身体を借りちまって悪かッたな、あんがとよ。過去最高の身体だったぜ? しかし、オレ様が憑依した名残で、髪が白くなッてやがるな……まあ、気にすんな』
あまりにも飄々としているスルトルに、翔は怒る気もなくしたのか、その手をリルちゃんと握ったまま、眉間にシワを寄せて、睨むだけ。スルトルに応えようともしなかった。
『満足だ。おい、アリムちゃん。もう、オレ様をそん中に放り込んじまッてイイぜ』
スルトルは、対面した中で1番、穏やかな声で、俺にそう言った。
「わかったよ。辞世の句とかないの?」
『ンア? じャあ残しとこうかネェ。……アリム・ナリウェイ。テメェにな』
ここは翔に残すんじゃないんだ。
まあ、いいや。
聞いてあげよう。サマイエイルと対応が違うのは、ミカを殺されなかったかもしれない。
実際、俺が直接大事に思ってる人は誰も殺されなかったわけだから。
だとしても辞世の句を煽るなんて、どうかしてるけど。
『最強でいろ! 最強のオレ様を倒したんだから、テメェは最強のままでいるべきだ! 負けるな、絶対にだ。神やその他、選ばれし者にならまだしも…な』
「……まあ、約束できるって保証はしないけど、一応聞いたよ」
俺はグラングングニルを幻転地蔵様に、申し訳ないとは思いつつも、ぶっ刺した。
刺した箇所から光る。その光は輪のような形になり、グラングングニルを飲み込んで言った。
俺を含めて、全員がそれを見つめるなか、吸い込まれてる最中のスルトルが、何かを言い出した。
『最後に一つ、いいか? テメェ、転生は何回した?』
まあ、最期だし、答えてあげてもいいかな。
「531回だよ」
『…ハハハハハッ! …そうかお前は レベルメーカー …だったんだな…』
そう、気になる言葉を、俺にしか聞こえないような音量で呟いたスルトルは、地蔵様の中に消えて行った。
レベル……メーカー……?
レベル……作る……?
まあ、レベル上げの鬼の俺だし、そう言われても仕方ないかもしれないね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます