第383話 翔が起きた 前編
「………あ…?」
目を開けた翔は、その後も何度かパチクリさせたり、キョロキョロと俺らのことを見てきた。
「ああ…」
溜息を吐くようにつぶやくと、腕で目をこすり、片腕で地面を押して上半身を起こした。
「翔さんっ!」
「翔さん、大丈夫ですか!?」
まず、ここんところ交流が盛んであった二人が翔にそう、問いかける。
「あ…ああ。大丈夫…だぜ」
「はぁ…よかった」
「悪りー。心配かけちまったな」
本当に申し訳なさそうに、翔はそう言つつ、正座をした。
「叶君、桜ちゃん……そして、たしか、その____」
おっと、翔はまだ俺らの正体に気が付いてないようだ。
ミカと目配せして、話すことを決める。
「アリムだよ! こっちがミカ」
「そうか…アリムちゃんとミカちゃん、よく雑誌やポスターなんかで見るな。4人ともに……かなり迷惑かけちまったみてーだ。本当にすまない、そしてありがとう」
土下座した。
柔道をずっとやってきて、礼をするのだろうその時に土下座のように頭を下げる。そのせいか、いやになれた感じの土下座だった。
そんな翔に叶が言う。
「そんな、翔さんはなにも悪くないじゃないですか」
しかし、翔は顔を上げると首を振り、こう続けた。
「リルが生き返る…そう聞こえたからスルトルから一瞬だけ意識を奪え返せた。無我夢中で意識したから、なに喋ったかは覚えてねーが…あの時に俺は、俺と対峙している叶君達を見たんだ。この…土地が荒れてることもな。やっぱ…めちゃくちゃ迷惑かけちまったみてーだしよ……謝れば良いって問題じゃねーけど…」
あり、スルトルってば、わざと明け渡したって言ってなかった? 俺は横目でグラングングニルを見る。スルトルが目をそらした……ような気がした。
翔は俺とミカの方を向き、さらに話を続けた。
「メフィラド王国から来た、お二人さんも、本当に迷惑をかけた。すまねぇ…っ!」
俺とミカは顔を見合わせる。
ミカは俺が考えてることがわかったのか、口パクで『どうぞ』と言ってきた。
さすがだね、わかってる。俺がそろそろ、自分の正体をバラしたくなったことを。
「うん。でもさ、俺ら親友なんだろ? 気にする必要ないって」
「は……………?」
申し訳なさそうな顔をから一転。
翔は困惑している。
ここでミカが追い打ちをかけるべく、ズイッと半歩前に出て、こう言った。
「叶君と桜ちゃんはすぐに気づいたわよ? アリムはおろか、ミカって聞いても気づかないの? まさか…脳みそまで筋肉になっちゃった?」
「えっ…や…はぁ…」
翔はミカの目を見つめたまま、とぼける。
もう正直に、名前と正体を言っちゃおうかと思ったその時、筋肉オトコは叫びだした。
「ああああああああああああああああっ!? えっ、えええええええええええええっ!?」
…うるさい。
翔がここまで驚くところを見たのは初めてかもしれない。こいつとは、幼稚園くらいからの付き合いだが。
「有夢かっ……!?」
翔は俺を指差した。
仕方ないから頷いてやる。
「美花かっ……!?」
ミカはコクリと、俺と同じように頷いた。
「有夢っ……美花っ……!? 有夢、美花、ま…マジか…マジで? 幻じゃねーよな?」
「違うよ。幻じゃないよ。ついに脳髄まで筋肉になったのか、この脳筋ダルマめ」
と、一言チクリと。
それを聞いてから、翔はスルトルとは違う、清々しい笑顔を浮かべたまま片足を立てると、ガバッと、俺に抱きついてきた。
「ははははは! 有夢っ! 有夢かっ…! ははははははははははははは! 有夢、お前っ…!」
「ちょっ…いくら俺でも、今は男だからね。同性愛の趣味はないよ、どいてね」
「あ…ああ、わりぃわりぃ」
翔は目をウルウルさせながら俺からそっと離れる。
まあ、翔なら別に抱きつかれても構わないけどね、昔からこんなやり取りはあったから。
たまーーーに、俺が本当に女の子として生まれてきてたんだったら(ミカはそのままで)、翔は悪くないと考えてたりもしたし、アリムの場合でも翔なら嫌じゃないけれど、でもねぇ……? 男の俺に男色の趣味はないし?
「はあ。……で、積もる話はいろいろあるだろうけど」
「あ、ああ! あるさ、あるんだぜ、たくさん!!」
顔を近づけながら、興奮気味にそう言った翔を片手で遠ざける。
「うん、でもね。先にやることがあるでしょ?」
「ああ」
急に表情が険しく…いや、真面目になり、星座をし直す翔。
「……彼女ができたんだってね?」
「ああ」
「大事?」
「…すごく」
「可愛い?」
「勿論だ」
「生き返らせたい? 髪の毛一本でもあれば生き返らせられるけど_____」
そう言うと翔は、さっきよりも深く深く土下座をした。
土下座をしながら、震える声でお願いをしてくる。
「頼む……っ! リルを、俺の大切な彼女を生き返らせてくれっ…!」
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