第384話 翔が起きた 後編
「あーあー、土下座なんてしなくても生き返らせてあげるから…」
「す、すまねー。リルの癖が移っちまったみてーで…」
よく……土下座をする娘だったの…かな?
それとも翔が土下座を強要するようなプレイをして楽しんでたとか…? まぁいい。
「それで。生き返らせるには髪の毛が一本でも必要なんだけど…。家にだったらあるよね?」
「ああ、ある…いや、まて。鞄の中に確か……って、鞄がねぇっ」
まてよ、彼女の髪の毛を鞄に入れるってなんなんだよ。
いつ翔は変な趣向をもつようになってしまったのか…俺が知る限り、最低でも高校二年が始まったころはまだ、胸の大きい娘が好きなだけだったはずなんだが…。
「お前…彼女の髪の毛を持ち歩くって、お前…」
「い、いやちげーんだよ!? 向こうから渡してきたっつーか…とにかく色々あったんだよ! んなことより鞄だよ、鞄! 鞄…」
ポケットをひっくり返しても出てくるはずがないだろうに、翔は燃えずに残ってた下半身につけてた衣類のポケットを探した。
そんな翔に、桜ちゃんが何かを差し出した。
「これ…ですか?」
「ん…? ああっ! 俺の鞄! 桜ちゃん、ありがとう!」
「翔さんが元に戻ったら必要だろうと思って、持ってきておいて正解でした」
桜ちゃんが差し出した鞄を嬉しそうに受け取る翔。
それにしても、桜ちゃん、いつの間に回収してたんだろうか。
翔は自分の鞄をゴソゴソと探ると、一つの何かの束を取り出した。青白い毛で作った、納豆を入れとくアレみたいな感じの…。でもなんか、所々、血が滲んでるような…。
「えーっと、これだ、これ。これがリルの毛だ」
「はっ!? それ、髪の毛?」
「おう。確か…髪の毛と尻尾の毛と歯と血で作ったとか言ってたな…」
「はぁ!?」
思わず、大きな声が出る。
なんだ、それは。なんだそのおぞましいものは…。
翔が…翔が知らないうちに変態になってた…。
ヤベェよ…ヤベェよ…。
俺ですら、ミカの身体の一部なんて、めったに持ち歩かないってのに。
「お前…変態になったな。どうやってそれを彼女から? 返答次第では、親友から友人に格下げするよ」
「あ…か、勘違いするんじゃねーよ! これを鑑定してみろ」
鑑定?
翔のいうとおり、俺はそれを鑑定してみた。
結果はアイテム扱い。『狼族の忠誠の証』…狼族の人間が一生ついていきたいと思うくらいの相手に一生に一度だけ渡す、忠誠心や好意の塊だと…。
なんだ、翔が変態になったわけじゃなかったのか。
「へえ。翔、すごく…なんてレベルじゃなく好かれてるね」
「…だろ?」
「じゃあ早く生き返らせてあげようね」
そう言って、その毛の束のうち一本を差し出すように、手を伸ばした。しかし翔は渋る。
「どしたの?」
「あ…いや、今生き返らせたら…リルは裸だから…」
「ここにはミカも桜ちゃんも居るし、二人が着替えさせれば良いでしょ。服なら用意できるし…ねぇ?」
「うんうん」
と、ミカも頷く。
「服、用意できるのか?」
「うん、ほら、これ」
俺は下着と服の一式を一瞬で作り出し、翔に差し出した。
「……! そ、そうか。じゃあ」
「ハイ、これで生き返らせてね。一滴かけるだけで生き返るよ。残りは飲ませてあげてね」
服と一緒にアムリタも差し出す。
「あ…わ、わりぃ。えっと…じゃあ、桜ちゃん…」
「ちょっと、翔が生き返らせてあげなよ」
俺が渡した翔の彼女復活セット一式を桜ちゃんに渡そうとした翔をミカが止め、そう言った。
「え…や、でも」
「彼女なんでしょ?」
「あ、ああ」
「ならいいじゃん。アレを渡すくらい好感度があるんだったら、別に翔の前だったら裸でも良いんじゃないの、リルって娘は」
「そ、そうだ。うん、確かに」
翔のその言い方に、翔が既視したことがあるとみた。
まさか翔のやつ、そのリルって娘の裸を見た……?
まあ、俺もミカの見てるし、別にそれで弄るつもりはないけれど……耳打ちしとこう。
「(翔…お前、その娘となんかあったのか?)」
「え…な、なんでだ?」
「(いや、なんか裸を見たことがあるような答え方だったから…)」
「…………詳しくは言えねぇけど……まぁな」
「ふふ、ならもう翔がやってあげればいいでしょ!」
俺は翔のゴツッとした手を掴み、服とアムリタを強く握らさた。
「俺と叶は後ろ向いてるから、生き返らせてあげなよ」
「ん、わかった」
覚悟を決めたように、真面目な表情で、翔は首を縦に振った。
俺は叶と一緒に、後ろを向く。
「じゃあ、始めなよ。あ、その前にこのシート引きな」
「サンキュ」
翔は後ろを向いたままの俺からシートを受け取ると、バサリと音がした。シートをひいたんだろう。
「じゃあ、生き返らせるぜ……!」
後ろを向いていて見えないけれど、どうやら復活の儀式が始まったみたいだ。
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