第361話 ユグドラシルのお城

 俺とミカはユグドラシル神樹国のお城の門の前まで辿り着いた。

 今や俺らは世界的トップアイドルだから、民衆の騒ぎにならないよう、この城下町に入ってからはずっと変装してる。

 今まで、ピピー村とメフィラド王国城下町以外の町村に行ったことがなかったから、街の入り口からここまでに来るだけでも色々新鮮だったよ。……今度、ゆっくりミカとデートしたい。



「……ん、なんだ坊主どもは? 今は本当に子供に構ってやる暇なんてないんだ、ほら、さっさと何処かに行け」



 お城の門兵さんの一人がそう言った。

 他の3人ぐらいの門兵さん達も、迷惑そうな顔をしてる。

 とりあえず、要件を話さないと始まらないだろう。



「あの、ボク達、メフィラド王国の国王様からここに来いって言われたんですけど…」

「…はあ!? 冷やかしてんのか?」



 と、この人はそんな反応だったけれど、この門兵さんたちの中で一番年長っぽい人が今度はやってきて話しかけてきてくれた。



「…お嬢ちゃん達、メフィラド王国からの援軍に関する伝達をしに来てくれたのかい? それにしては異常なほど早いが…」



 なるほど、俺らが移動してる最中に、国王様がこの国の誰かと連絡を取って、魔神に対抗するために援軍を送るとか言っといたんだろう。

 この人は俺らがそれについての情報を持ってきた使者か何かだと思ってるんだね。


 本来ならメフィラド王国からこの国まで馬車で数日はかかるから、確かに使者だとしても早いかも。


 まあ、でも俺たちは使者ではない。

 黙って首を振った。



「…じゃあなんなのかな?」

「ボク達がその援軍です! 詳しい内容を聞きたいので中で話をさせて下さい」

「はははは! こいつら、何言ってんだよ! ひー」



 俺らを笑う、そんな彼を横目で見ながら俺とミカは黙ってギルドカードを年長の人に渡した。

 年長さんと、それを覗き込んだ笑ってた人の表情がこわばる。



「あ…あああああ、あの、い、いいいい一応、正規のお顔を拝見させてもらっても…」

「ええ、いいですよ。騒ぎが起こる可能性があるので、一瞬だけで良いですか? 城に入ってからは素顔を出したままにしますのて」



 ミカと共に変装アイテムの効果をオフにし、門兵さん達に笑いかける。

 そしてすぐに変装をする。



「り、りりり、了解致しましたです! どうぞ、お入り下さい!」

「ありがとうございます! …SSSランカー二人、兵力としては十分ですよね?」

「は…ははははい! はい、その通りです!」

「あぁ~…可愛い…先ほどの無礼は許して下さいな」



 そうして彼らの横と門を抜け、変装を完全に解き、さっそく城の中へと入る。

 城の中は大慌てだった。

 そりゃそうだろうね、何たって魔神だものね。

 自分で言うのはなんだけど…本来ならばこの時点で人だかりがあってもおかしくないんだけれど、俺達が来てもチラリと横目で…あ、いや、視界から外れるまでガン見される程度で、忙しそうに人が通り過ぎていっている。

 

 

「お待ちしておりました。アリム・ナリウェイ様、ミカ・マガリギ様。お話は既に聞いております。私めが案内をさせて頂きましょう」



 一人の老紳士と言える人が、緊張する様子もなく、俺らの前に来た。

 ここでミカは何を思ったのか、その老紳士を手招きして自分の元に呼ぶと、耳元で何かを囁いた。

 その老紳士は一瞬、目を見開くと、すぐに穏やかっぽい表情に戻り、ミカから離れる。



「その通りでございます。……まあ、大きくは話せないのですが」



 メッセージでミカに訊く。



【なんの話ししてたの?】

【女の勘ってやつでね、あの人、もしかしたら国王様側のスパイなんじゃないかって思って、遠回しに訊いてみたの! だとしたら同郷の人の訳だし。そしたらビンゴだったってわけよ】

【なるほどね】



 女の勘ってそんなに都合よく当たるものなんだ。

 まあ、ミカは勘が良いし、こういう事があっても良いかもしれない。



「……それでは本題でございます。…この経緯についての詳細をお伝えしたいので、こちらへ」



 老紳士のスパイさんは、俺らについてくるように言うと、歩き出した。

 その後ろをついて行く。

 しばらくして辿り着いたのは、一つのお部屋。



「ここには賢者様のお一人がいらっしゃいます。その方に直截、事の経緯をお気になさって下さいませ」



 そう、言って一礼すると、彼はその部屋の戸をノックし、部屋の中にいる誰かに向かってこう言った。



「賢者様、メフィラド王国からの援護に来てくださった方に、事の経緯を説明して頂けませんでしょうか?」



 戸の先から、よく、聞き慣れた声で「はい」と、聞こえてくる。

 その声を聞いてミカは俺の手を強く握った。



「では、戸をお開けします。…どうぞ」



 老紳士は戸を開け、俺とミカはその中に入る。

 それと言って変わった家具とかは特になく、大きくて、ちょっと大人の雰囲気が漂うダブルベットが見えるこの部屋のソファに、一人の、黒髪黒目でおさげを結んでいるよく見知った少女が一人。


 ……少女なんて、遠回しすぎるね。

 つまり、桜ちゃんが居たんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る