第359話 賢者と魔神 (叶・桜)

「さて…とりあえずこの国を滅ぼすかなァ。ッてことで、まずはアレだな」



 賢者二人と相対しているにも関わらず、余裕たっぷりのスルトルは玉座の間を一瞥すると、槍に刺されたローキスの方を見る。



「オレが取り憑いた時点で死んでんだけどなァ…回復魔法が怖ェし、念のため」



 パチリ、と、指を鳴らした次の瞬間、ローキスの身体は炎に包まれた。

 本来ならば賢者の身体から発せられた魔法はローキスには無意味であるが、既に死体であった為に難なく魔法はかかる。

 一瞬にしてその炎は全体に回り、カナタとサクラが消火しようと行動し始める間も無くローキスの身体は灰すら残さずに黒槍ごと消え去った。

 残ったのは、幾らかの装飾品のみ。



「これでよし。あァとはカマ野郎が殺り損ねたメフィ…メフィ……一族を滅ぼせば良いのか。そこも滅ぼしたら、残り一つもオレがやッちまおーかねェ」


  

 ブツブツと独り言を言うスルトル。

 その間にカナタとサクラはメッセージで相談をしていた。



【ど…どうしよ、翔さんが…リルちゃんが…!】

【ローキスさんも…もうああなったら生き返らせるのは無理なんでしょ?】

【う、うん…】



 カナタは考える。

 ローキスが復活不可能であると言うことは、自分達が帰れなくなった可能性が大きいということ。

 だが、それよりも前に、そもそもこの現状をどうにかしないと、生きるということすら不可能だということ。



【もう魔法は…使えるみたい。魔神を封印すれば翔さんの遺体は残って、それを生き返らせなきゃいけないから…】

【宇宙送りにはできない…?】

【そうなる。リルさんはどうにかできる?】



 カナタはそうサクラに問うも、サクラは首を横に振った。



【無理、無理だよ…】

【……………そっか】



 カナタはちらりとスルトルの方を見る。



「______この国を滅ぼし、次の国も滅ぼし、さらにその次も滅ぼしたらどうすッかな~」



 未だに呑気に独り言を言っている。

 カナタはサクラにメッセージを掛け直す。



【桜。……残念だけどリルさんのことは後だ。そうじゃないと俺らも死んでしまう】

【………! う、ぅん…】



 サクラは涙ぐむ目を擦った。

 


【まず、敵の考察をしよう。……魔神スルトルの能力は、憑依とその憑依先の全ての強化。そして炎の魔法がどうだって言ってたよね】

【……うん】

【俺の槍は手持ち全部溶かされたから…魔法で呼び出した槍で攻撃しないとダメかもしれない。国宝級の黒槍ですら溶かしたから、下手したらグングニルでさえ溶かす恐れがある。……ひとまず、今ここでスキルを作る】



 カナタはマジックバックから魔核をそっと取り出し、それで急いで槍の召喚スキルを作成した。

 スルトルの様子を確認しながら、急いで適当に闇属性の槍の召喚スキル(ランクSS)を創り出す。



【ひとまずコレでいいと……】



 そうメッセージをしたカナタの方を睨むスルトル。

 その視線を感じ、カナタはそちらに注目した。

 


「…ナァ、作戦は終わッたか? 独り言を喋り続けるッてのも、案外辛いもんなんだぜー?」

「い…いや、まだ…」

「早くしろよ」



 スルトルは興奮のあまり独り言を喋り続けていたのではなく、自分達が作戦を練っているのを承知でその時間を作るためにワザとしていたと、今の本人の自白によりわかったカナタは、慌てて作戦を練り始めた。



【やばい。……まず何するかって言うと…無人島に俺らを連れてって、そこで戦って弱せる。そして封印…これしかない】

【そ…そうね…!】



 完璧な作戦だと言えないどころか、ただ安全な場所で戦うという当たり前のことを言っただけの提案。

 もっと時間があれば良い案を思案できたのかもしれない。しかし、二人にはそれしか思い浮かばなかった。



【じゃあ…補助魔法を全力で掛けまくって!】

【うん】



 サクラはカナタに言われた通り、自分とカナタにめいいっぱい限界まで補助魔法や自動回復付与型回復魔法を唱える。



「……今、終わった。黒魔神スルトル」



 掛け終わったサクラがカナタに頷くと、カナタはスルトルにそう言い放った。

 スルトルは口角を人の限界まで釣り上げ、ニタリと笑う。



「オーケー、オーケー、じャあ殺りあおうじャねーか! ここで______」

「残念、場所はここじゃない」



 カナタはサクラの手を掴みながら、一歩前に出る。



「ほう…? まあ、瞬間移動で無人な場所に移動するか? オレはそれでも全然構わないぜ?」

「ああ……じゃあ、行くよ」



 カナタはサクラの手をさらに強く握りしめ、瞬間移動をし始めた。


 ______器用にカナタ自身とスルトルのみを移動させ、サクラはその場に残して。



「……………え?」



 自分も一緒に行くものだとばかり思っていたサクラは、呆然とした。そんな彼女にメッセージが送られてくる。



【……また後で。ゴメン、やっぱり桜を危険な目に合わせたくない。桜はお城の人達に現状を説明してね。……必ず、翔さんを連れて戻ってくるから、戻ってきたら…甘い物でも食べよう…ね!】

【えっ…やっ…叶______】



 サクラがそう返信し終える前に、メッセージの通話は切れた。

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