第340話 城中 (翔)

「____________これを持ってレッドイヤー、ショー・ヒノと、えーっと……ああ、リル・フエンをSSランクの冒険者と認める」



 儀式的なものをし、SSランク承認が終わった。

 案外あっけなかったが、リルには未だにプルプルと震えていることから、かなりきついことだったッツーのがわかる。

 さて、これで帰れるのか…。



「ショーよ、ささやかだが、昼食などを用意した。楽しんで行け。……そこの奴隷の分もある」



 奴隷…っつー言い方はやめてほしい。

 まあ、向こうからみたら仕方のない事かもしれねーけど、それでも、イラッと来る。

 だが、ここは我慢だ。



「昼食を食したら、また、ここに来い。……ショー、賢者としての話がある」

「し、承知しました…」



 玉座の間とかいうこの部屋を出て、俺とリルは食堂へと向かった。駆け足で叶君と桜ちゃんが近寄ってくる。



「先に賢者だって言っといてくれたんだな。ありがとよ」

「どういたしまして。食事しながら、ちょっと話しましょう」

「おう」



 俺達4人は食堂へ入る。

 食堂も食事もものすごく豪華だぞ。さすがはお城だというべきか。


 リルと桜ちゃんが、何やら雑談を始めたのと同時に、俺も叶君と真面目な話を。

 むろん、周りの人に聞かれぬようにメッセージで。



【やっぱりこの国は人種差別ってのが酷いんだな】

【みたいですね。ローキス国王が一番酷いかと思いますが、おそらく、あれでもだいぶ抑えてる方かと】

【…というと?】

【翔さんが賢者だからですよ、賢者は伝説的な力を持つことが多いらしくて…。敵に回したくないんでしょう。あの国王単独ではそこまで頭はまわりませんから、周りの宰相さん達からそう言われたんだと思いますが】



 そういえば、周りをちらりと見てみたときに、国王が何か言うたびビクビクしてるおっさん達がいたな。

 あの人達が宰相達か。



【じゃあもし、リルが普通の奴隷だったとしたら、対応はどうなってたんだろうな】

【わかりません。……不良品の奴隷ってご存知ですか?】



 叶君が、言いにくそうな顔をしながら、そう送ってきた。

 実はリルを紹介し、出会った経緯をはなした時、リルが不良品だったっつーことは、話してねー。

 今、話すことにする。叶君だし、良いだろう。

 


【勿論だ。実はリルは不良品だった】

【……! そうなんですか…」

【ああ、最初は摂食障害におちいっててよ、さらに耳か片方無くて、尻尾は先端が千切られていて…身体中傷だらけ。そんなリルを俺は奴隷商から無料で引き取った】


 

 叶君はしばらく沈黙した。怪訝な顔をしている。

 料理の付け合わせの人参のグラッセを口に含んでから、返信をしてきた。



【…なら、不良品と判断された奴隷が、どうなるかは知ってますね?】

【ああ】

【実はその制度を作ったのは先代国王で、それをさらに改悪したのが…ローキス国王なんです】

【なるほどな】


 

 たしか、この国の国王は世襲制。

 そんな制度を作った父親を持っている上にそれを改悪した本人が、奴隷であると思い込んでいるリルを、アナズム全体の決まりとはいえ、すんなりSSランクだと認め、食事させるなんて、やっぱりおかしいもんな。

 叶君の言う通り、抑えていると考えたほうが自然だ。



【わかった。リルにはもっと注意しておく。…ところで、その、横に並んでた人達を教えてくれないか? とりあえず】

【わかりました】



 そのあと、互いに飯が食い終わるまで、叶君のユグドラシル城スタッフの紹介が行われた。

 基本はみんな、良い人みたいだ。

 デイスって人がどうも胡散臭いとは言われたが。


 昼食を食べ終えた俺らは、玉座の間に向かう。

 途中でリルに桜ちゃんと何を話していたか聞いたが、俺のこっちに来る前の話を聞いていたらしい。

 何を喋ったかは知らねーけど…。リルのにこやかな表情からしてマイナスになるようなことは言ってねーな。


 玉座の間に着くと、ほとんどの人はすでにおらず、国王と、デイスっていう老人口調のお姉さん、そしていつの間に来ていたのか、トールさんともう一人でっかいつのぶえを持ったおじいちゃんがいた。


 トールさんは俺らに気がつくなり、こちらに近づいてくる。



「ガハハハ! ナカタ、シショー! 会えたのか!」



 ナカタ……叶君のことなのか?

 この人は男の名前を適当に呼ぶくせがあるみてーだな。前に会った時はリルのことは普通にお嬢ちゃんとかって呼んでたし。

 とりあえず、この人のおかげで叶君達と会えて、俺らを呼び出した張本人と会えたわけだ。

 感謝しねーとな。



「トールさん、すいません、こうして再会できました、その節はありがとうございました!」

「俺からも。ありがとうございました」

「ガハハハハハハ! 良いってことよっ! …シショーそのあとすぐにSSランクになったのは流石に驚いたがな」



 パチパチと、手を叩く音がする。

 その音がした方を振り向くと、国王がいかにも不機嫌そうな顔で何かを話そうとしていた。



「ショー。お前をまた、呼んだのは他でもない。賢者としてして欲しいことを伝えるためだ。……デイスと、カナタとサクラとショー以外は一旦外に出てくれ」

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