第323話 リルとデート (翔)

「御主人…おはよっ」

「ああ…おはよう…な」



 確認しなかった俺が悪いのかもしれないが、この部屋の寝室にはダブルベットが1つ。他にベットはない。

 立派なソファがあるために、俺は別にそこで寝ようと最初は考えたが…リルが俺と一緒に寝れると大喜びした姿を見ちまったからな。


 つーわけだから、添い寝だわ。

 誰かと添い寝とかした事ないわ。

 寝れない…マジで寝れなかったどうしよう。

 寝てる最中に顔を舐めたりしてくんだもんな。



「どうしたんだい? 眠そうだけど」

「あ…いや、こう…添い寝は初めてでな、柄にもなくドキドキというか」

「わふう…御主人もそういうことあるのか。私は…そうだな、なにせ好きな人と寝ているからね。幸せだったよ。……私なんかでもドキドキってするんだね?」



 こいつ…自分がスタイルいい事を知らないだろ…。

 まあいい、セクハラ的発言は控えるとしような。



「まあな。…俺もこう見えて男だからな」

「いい感じで鍛えられた筋肉がついてて、身長が私より頭一個以上高い御主人は、どこからどう見ても男だよ?」

「ああ…うーん、そういう話じゃないんだ」

「…?」



 とりあえずそんな話は置いといて、俺とリルは朝食を食べた。昨日、少しだけ買っておいた食パンをな、トーストにしてな。



「昨日の話では…デートはその…とりあえず街を歩くんだよね?」

「ああ。悪いな、経験がねーもんだから、散歩してどっか店入ったり、劇をみたり…ぐらいしか思いつかねーんだわ」

「それで十分だよ、私は」



 支度を終えた後、外に出た。

 リルは昨日から外に出る時にだけ、赤い頭巾を着けている。耳ももう治ったってのにな。



「なあリル、耳は治っただろ? なんでまた頭巾してんだ?」

「御主人、これは私のお気に入りなんだよ」

「そうなのか」



 気に入ってくれてるのならいいか、うん。

 

 で、デート本番なわけだが…な。

 昨日はしっかりと二人で相談したんだが…うーむ…どうなるかな…。実はあんまりしっくりした案が出なかったんだよな…。



「ご…御主人。街を歩くって…えーっとまずはどこ行くんだっけ?」

「ん? ああ、それは…たしか…近くの公園か何処かに…」

「そ、そうだったかな? じゃあ、とりあえず行こう」

「おう、そうだな…とりあえず…」



 俺は片手をリルの片手にそっと触れてみる。

 するとリルは驚いたように、目を丸くしつつ、照れてるのか、俺から少し逸らしていたその顔をこちらに向けた。


 俺はその様子を横目で見ながら、手を握ってみる。


 う…ん、こうして手を握るとなんだか照れるな…。

 改めて握ってみるけど…俺の手に対して細いし小さいし…これで木工したり斧を振り回したり…普通の男より力持ちだったりするんだからスゲーよ。

 

 暫くして、リルも俺の手を握り返す。



「えへへ…御主人、ゴツゴツして大きな手をしてるね…」

「そうか?」

「ああ。私、誰かとこうして意味もなく手を繋ぐのって…何年ぶりだろ? 温かいね」

「そうか」



 俺とリルは手を繋いだまま、とりあえず大きな公園へと向かった。花や木が沢山植えており、公園らしい公園だというべきな場所だ。初めて来たけど。



「公園ついたね」

「おう」

「こ…これから何をすればいい?」

「とりあえず、このまま…歩けば良いんじゃないか? 何か話しながら…」



 話しながらとは言ったものの、話す内容があまりねぇ。

 暫く二人で無言のまま、顔も合わせずにブラブラと歩いてたんだがな…。

 リルの方から話題を提供してきた。

 …情けないな、俺。



「御主人この世界に来る前は…その、何をしてたんだい?」

「え? ああ…そうだな…」



 なんと答えるべきだろうか…ああ、そうだな、この世界にも学校はある訳だし、それに行ってたと普通に言えば良いよな。



「学校…あるだろ? この世界…この国にも」

「わふ、あるね…。この国は7歳から10歳まで、もっと勉強したい人はそれ以上で」

「まあ、その、年齢は違えど同じようなもんだ。俺は学校に通ってたんだぞ」

「そうなんだ! 学校かぁ…」



 顔を見る限りでは特別、学校に行きたかった過去があるとかそういう訳では無さそうだな。



「学校って、どう?」

「ああ…うーんと…勉強しなきゃいけねーとこだな。こう学年とか組とかに分かれててよ。楽しい行事とかもあるっちゃあるが…基本、めんどくせーな」

「友達とかできやすいのかな?」

「まあ、そりゃあな」

「わふ、そっか」



 よしよし、うまい具合に話しが進められていくぞ。

 リルは会った時は今にも死にそうな雰囲気だったがよ…案外、話せはするんだよな。



「じゃあ…やっぱりすぐに戻りたい? 友達に会いたいとか…」

「ああ…どうだかな…。まあ、親は心配だが…ダチは別になー。叶君達から聞いた話だと、俺のこと忘れてるっぽいし」

「そっか…。じゃあすぐにどうしてもチキューに戻りたい訳じゃないんだね?」

「ああ。気掛かりにしてる事が無いつったら嘘になるがな、それでもどうしても…って程じゃねーな」



 ああ、やっぱり俺が気にしていることは、父ちゃん母ちゃんと…美花の葬式に関してだけだな。

 ……と、次は俺から話題を振ってみるか。



「リルはどうだ? 楽しいか、今は」

「ん。私の半生の中で…今日、今、この瞬間が頂点だよ」

「そ…そんなにか?」

「えへへ、そんなに! 私の…御主人に会う前を話すと、この楽しい雰囲気を壊しちゃう自信があるからね。話さないけれど…。うん、間違いなく今が私の半生で一番…! だから今日_________いや、なんでもない」



 ん? なんだ? 何が言いたかったんだろうな。

 なんでもないなら大したことないのか?


 それにしてもリルの過去…か。

 まあ、相当酷いことがあったことは安易に想像がつくがな。


 しばらくしてカフェを発見したために、俺達はそこに入って茶をする事にした。

 少し早いが、昼食もここで済ましてしまおうということになったぞ。



「なあ、御主人」

「なんだ」

「その…恋人同士でモノを食べさせ合うという行為があるらしいが」

「やってみるか? ほれ」



 俺はまだ手をつけていないフォークで、まだ手をつけていないスパゲッティを少し巻いてリルに差し出す。

 しかし、リルは何か文句を言いたげだ。



「御主人、それまだ御主人は手をつけてないよね?」

「ないな」

「それじゃあコレの意味がないと思う。一口食べてからもう一度お願いします」

「お、おう」



 俺はそのリルに差し出す予定だったものを口にしてから、新しくスパゲッティを一巻…。

 俺が口つけたんだぞ? 普通は汚いような…な?

 まあ、リルが良いならいいか?

 


「ほい」

「わふぅ!」



 リルは躊躇いなくそれに口をつける。

 うーむ…この世界にもこういう文化はあるんだな。

 面白いな。



「…あれ? 御主人の味がすると思ったのに、スパゲッティの味しかしない」

「まあ…そりゃあな…」

「うーん……まあいいや。はい、どうぞ御主人」



 今度はリルが自分の食べていた薄切り肉の一枚をフォークに刺して俺の口元まで持ってきた。

 食べた方がいいよな? 恥ずいんだが…仕方ない。

 

 俺はそれを口に入れた。



「どう?」

「どうったってな…ただの肉だな…」

「だよね? 間接キスができること以外にメリットは無いね、コレ」

「お…おう? おう」


   

 しばらくして俺とリルはその店を出た。

 さて、次に行く場所は_________



#######


明日は2話投稿となります。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る