第314話 帰れる (翔)

「_________でな、俺は31でSSSランカーになったってわけだぜ! ガハハハ! これはもう20年前の話なんだがよ!」

「へ…へぇ、そうなんですか」

「わふ…すごいです…ね」



 かなり賑やかなおっさん…もとい、トールさんに俺とリルは馬車に乗せてもらってる。

 このトールさんの馬車……正確には山羊車はタングリスニとタングニョーストっていう二頭の珍しい山羊の魔物にひかせている。それが一番の自慢なんだって。

 なんでも、普通の馬車馬の数倍速く走る上に、肉を食べても骨と皮さえ残せば生き返るらしい。


 あと昔手に入れたミョルニルっつーどっかで聞いたことあるような武器の自慢もされた。



「いやぁ…それにしても…えーっとシショーだったっけか? お前さん」

「…ショーです」

「そうか、シショー。黒髪黒目ってのは珍しいな!」

「…ショーです」



 シショーってなんだ、シショーって。

 この人、訂正しても意味が無いぞ。

 


「いやぁ…黒髪黒目かぁ…。そういやあいつらも黒髪黒目だったな…。俺は黒髪黒目に出会いやすい体質なのか? ガハハハーーーっ!」

「えっ…!?」



 …あいつら?

 俺以外にも黒髪黒目…って、それ、叶君と桜ちゃんなんじゃ…! よ、よし、ちょっと訊いてみよう、このおっさんなら何か知ってるハズだ…SSSランカーだしな!

 思わぬところでこんな手がかりが…!



「えっと…トールさん」

「なんだ? シショー」

「その…黒髪黒目の人達って…もしかして14歳くらいの男の子と女の子の二人なんじゃ……」



 トールは一瞬、驚いた顔で俺を見つめる。

 俺の隣ではリルが、トールさんとは別の意味で驚いた顔をしてるな。



「あ、ああそうだ。街で知り合ったか?」

「いえ、街では一度も。だけど知ってます。あの二人も俺の事を知ってるハズです…」

「そ…そうか、ちょっと待ってろ!」



 そう言うと、トールさんは目を瞑り出した。

 よく集中して念話をしたい時にみんなするヤツだ。

 その間に、リルは俺に話しかけてきた。



「ねぇ…御主人。御主人が探していた二人…なのかな?」

「ああ、その可能性が高いって俺は考えてる」

「わふわふ…そうか、よかったね御主人。帰れるね」



 よかったね…と言った、リルの表情はとてつもなく寂しそうだ。……そうだよな…俺があの二人を見つけられたってことは帰れる確率もグンと上がったわけだ。


 二人の安否はどうなんだろうか。

 この人の様子を見る限りじゃー、酷い目にあったりはしてなさそうだが…。


 そうすればリルとのこの…付き合ってるっつー関係も終わり、おさらばしなきゃいけなくなる。



「……なあ、リル」

「なんだい、御主人…?」

「明日か…明後日か、どこか二人で出かけるか。観光名所とか…街の中、歩くだけでも良いし」

「わふぅ…いいね。恋人らしい…えへへ」



 なぜ俺がそんな事を言い出したか察したのか、そう言いながらリルは、どこかしんみりとした様子でいながら俺の腕にそっとしがみついた。

 大きく柔らかい塊が押し付けられる。

 

 しかし耳がパターン…ショボーンってなってるな…。

 こういう時って頭を撫でたりしてもいいのか…? 

 良いんだよな…多分。


 俺がリルの頭を撫でると、リルは耳をピンと立て、ニコッと微笑んでこちらを見てきた。可愛い。

 このまま地球に連れ……てくのは色々問題がありすぎるしそもそも無理な気がする。くそう。



「すまねぇなぁ…連絡がつかなかったわ。寝てるか…他のことに集中してるみたいなんだわ」



 そう言ってトールさんは目を開け、こちらに話かけてくる。一方、俺たちはイチャついてる…なんかこういうの恥ずかしいな。



「ああ…あいつらもお前らみたいな感じで仲良かったな。もっとも…サクラっつー子の方が目が見えなかったから、それでそうしてたんだろうが……ガハハハ! なんにせよ、若いっていいなぁ! ガハハハハハハ!」



 桜ちゃんの名前が出てきた…そして目が見えない。

 そういや、ここに呼び出される時に眼鏡を落としてたし、考えたらそうだろうな。

 やっぱり…そうか。

 しかも今は街の何処かに居るときた。


 早く会わなきゃな…。



「桜…ですよね? やっぱり知ってます」

「そうかそうか…やっぱりか。あの二人の住所は何処だったかな…? …高級住宅街の一番高い借屋に居たハズだぜ」

「そ…そうですか。ありがとうございます」



 漠然としてるがだいぶ大事な情報だ。

 高級住宅街の一番高価な宿屋…な。



「ああ、あと1時間くらいで着くな。行ったら会ってみると良いぜ! ガハハハハハハ! 俺は依頼主に報告しねーとな! まあ、依頼主つってもこの国自体なんだけどな! ガハハハハハハハハハハハ!」



 その後、ほんとに丁度1時間で街に着いた。


 色々な報告をしなければならないということで、馬車停留所でトールさんとは別れた。

 最初から最後まで豪快な人だったぜ。



「わふ…まずはその二人に会いにくいのかな?」

「二人のことは心配だ。だけど、さっきはなんか取り込み中だったみたいだろ? 今は昼だから…会うのは夕方にする。その前に色々やることあっからな」

「わかったよ御主人!」



 そういうわけで、俺らはまず、泊まっていた宿屋へと向かった。

 


 




 

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