第285話 行ったり来たり (翔)

 最後の部屋に入ると、そこにはめちゃくちゃ綺麗な金色の毛並みをした、大きな馬がいた。

 下手したらこいつがここのボスなんじゃないか…?

 そう思わせるほどの立ち姿。



「うわぁ…綺麗だね、あの魔物…」

「そうだな…」


 

 思わず見とれてしまう。

 馬の良さとかは俺は本当はよくわからないが、それでもこの馬は凄い。

 ダンジョンの魔物じゃなかったら生け捕りにしたいくらいだ。


 俺の火の魔法で倒すと、あの綺麗なのが台無しになっちまうな…。

 少々、MPは食っちまうが…水の魔法で倒そう。


 俺はリルに注意してから、ウォーターキャノンを何発も何発も放った。

 馬の容姿をしていることもあり、その魔物の動きは素早く当てずらかったが、8割は被弾しているから良しとする。


 ウォーターキャノンを大体25発程度放ったところで、その魔物は倒れた。



「わふぅ? 御主人、火の魔法は使わなかったたんだね」

「あれはちょっと傷つけたくないからな」

「なるほど、わかるよ」


 

 その金色の馬の魔物からはBランクの魔核が5個出てきた。馬の死体を回収し、黄色い宝石がついていた部屋から出る。


 その途端、あの大扉の灯りがすべて灯った。

 と同時にゆっくりと、音を立てずにその大きな扉が開いた。



「わふぅ! ついにダンジョンのボスとの戦いだよ…御主人!」



 リルははしゃいでいる。

 まるで自分がなにか、歴史的瞬間に立ち会っているかのように。俺もなんだかワクワクしてる…が……だが待てよ…?

 よく考えたら、今日はここで1泊しても良いんじゃねーか? だってこれ以上は魔物は出てこないんだろ?

 穴の周囲には何故か外の魔物は寄りつかないみてーだったしな…。


 んでもって安心して眠れるだろ?

 これは良いこと思いついたんじゃねーか?


 というかそもそも、この状態でダンジョンより外に出たらどうなるんだ?

 このまま現状維持か? ……それとも最初からか?

 リルは何か知ってるかな?



「御主人! 御主人! ここまで来たよ、早く挑もうよ! 

ここまでこんなにサクサク進めた御主人なら、きっとクリアできるよ!」

「なあ…リル、ダンジョンって外に出たらどうなるんだったっけな?」

「えっ…外に出たら? 確か…うーんと…そう! 最初からになるんじゃなかったかな?」

「そうか」



 最初からになるのか…そりゃ大変だな…。


 いや待てよ…最初からになるっつーことは魔物が復活するということだろ? 

 で…俺は難なくこのダンジョンにいる全ての魔物は倒せるから…。

 これって、魔核とか素材とか、より多く手に入れられるんじゃないだろうか。


 そうだ、そうじゃねーか。魔核も金になる魔物の死体も、経験値も! 全部がもう一度…いや、やり直すだけ手に入る! 


 最高じゃないか? ……こういうこと、成上家兄弟ならすぐに気がつくんだろうな…。

 ダンジョンをクリアしたら、こういうタイプのやつは間抜けの空になるのかゲームだったら普通だ。

 危うく、宝の山をダメにするところだったな。



「リル! 外に出よう!」

「……え?」



 あからさまに『何言ってるのこの人』みたいな顔されてる。リルは口を半開きにしたまま、無言になった。



「リル、俺は外に出る」

「……え、なんで? ここまで来たのに? 御主人…その…失礼だけど…私の話を聞いてたかな?」

「おう」

「だ…ダメだよ、考え直してよ御主人。せっかくここまで…」

「まあ、良いから。理由があるんだぜ? ちゃんとな」



 俺は事細かに理由を話した。

 外に出たらダンジョンは最初からになる、その特性を生かした、有夢みたいな荒稼ぎの方法を。


 リルは最初は全く納得していなかった。

 しかし、俺がその話をし終える頃には、意見にすっかり賛同してくれていた。



「御主人のこんな素晴らしい意見を疑ってしまった…歴史的大発見だよ! どうして今まで気がつかなかったんだろ!? 凄いよ、御主人! そして…その…批判してごめんなさい」

「いや、いいよ。で…どうする? 外に出るか?」

「わふぅ! そうしよ、今すぐ出よう! 何回でも入り直そう!」

「そうだな」



 リルは尻尾を勢いよく振り回している。

 興奮してるのがわかるな…。狼だけど犬みたいだ。

 いや、そんな変わんないか?


  つーわけで、俺とリルはすぐに外に出た。

 外は小雨が降っており、またすぐにダンジョンに入る。

 例の入った時のメッセージがふたたび頭に思い浮かんできた。


 入りなおしたダンジョンは、本当に初めて入った時そのままで、大扉もしまっており、また、明かりも消えている。

 


「本当に最初からなんだな…」

「御主人! 何回やり直す? 私は何回でもいいよ」

「体力が続くまでだな…。よし、行くぞ!」

「うんっ!」

 

 

 

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