第281話 恋愛相談 (桜)

「ここが二人が食事をしていた場所だ」

「はわぁ…やっぱりここもすごく豪華なんですね…!」



 キリアンと共に城内を見ていたサクラ。

 おおよそ5分の2を見終わったころに、食堂を見に来た。

 どこを見るにも豪華であり、思わず顔をキョロキョロと動かして少しでも多く、綺麗な物を目で捉えようと努めていた。



「サクラ、お前はカナタに食後のデザートをそのまま譲って貰っていたな、それも毎日と聞く」

「ええ…あの、私…甘い物に目がなくて。へへへ」

「ふふ…そうかそうか」



 キリアンはなにか微笑ましいものを見るような目でサクラを見つめる。

 サクラはそれを敏感に察した。地球に居た頃から、何度も同級生からこういう顔を向けられていたからだ。



「な…なんですか、その顔! なんでカナタが話に出てくるたびにそういう顔するんですか!?」

「いやいや…実にサクラとカナタは仲が良いと思ってな。流石は付き合ってるだけあるな…と」

「あ、あれは実はカナタの嘘なんです! その方が都合が良いことがあるだろうって…言うから…」



 必死に仲を否定するサクラを見て、キリアンはさらにニヤける。

 


「そうかそうか…だがそれも目が悪いサクラの事を思っての事なんだろう…? 彼奴、将来は嫁思いの良い婿になるな…! 誰の…とは言わんが」

「む…むぅ!? わ…私は別に叶の事っ…そ、そそ、そういう風にっ…お、思ってませんもん! 叶だってきっと……。か、からかわないでくださいよ!」

「おいおい、噛みすぎだぞ。……それじゃあ逆に好きですと言ってるようなもんだ。それに向こうはサクラの事が好きだぞ。勿論、恋愛的な意味でだ」



 そう言われたサクラは目が治ってから数度目の赤面となる。

 激しく首を左右に振ったのち、キリアンにこう言い返した。



「ど…どうして! どうしてそう言い切れるんですか!?」

「まず好きでなければ他人のために120万ベルなどという立派な一財産、貯めようとしないぞ? それにその貯めてる間もずっと気にかけて貰ってたんだろう?」

「で…でもだって…。私と叶は唯の幼馴染で…親友で…そう、ただの親友なんです…。そもそも私なんかじゃ叶と…」



 サクラはどんどんと声が小さくなり、もじもじしだした。キリアンはそれを何か悩んでると見抜き、サクラにこう声をかけた。



「何か悩んでるな、サクラ」

「………別に」



 サクラはそういったが、それを無視してキリアンは話を続けた。



「どうだ? フフ…私がお前の悩みを聞いてやろう。どうせカナタの事だろう? まかせろ、私は恋愛小説を今まで100冊は読んだからな! 恋愛のことは詳しいつもりでいる」

「いいです」

「いや、強制だ! こっちの部屋に来い! 城の案内は中断してサクラの恋の悩みを聞くことに決めたのだ! 話すまで帰さないぞ?」

「ふ…ふぇぇー!?」



 サクラはキリアンにおもいきり手を引っ張られ、空き部屋へと連れ込まれる。その部屋の鍵を閉められた。

 


____

___

__




「_____という訳なんです…。私なんかより、カナタにはもっと良い人が…」



 サクラは本当に話すまで帰してくれないという事を実行したキリアンに観念し、自分の悩みと反省を話した。

 


「成る程な。しかしそれは考え過ぎなのではないか? 私の知っているサクラは真面目で良い子だぞ。それに恥ずかしい姿を見られて暴言を吐いてしまうのは、ある程度仕方の無いことではないか…?」

「いえ…その…それだけじゃないので…。こっちの世界に来る前にも色々とカナタには暴言は…」



 どのような態度を取ってきたか、サクラは一部をかいつまんで話した。



「__そうか。しかし、カナタは嫌がっていない、一緒にいてくれる…そうだろ?」

「そ…それはアイツが優しいからです! いろいろして貰ってるのに私は何も…」

「ならこれから一緒に居てその恩返しをすれば良いんじゃないのか? 恩も返さずに離れようなどとは……見方によっては身勝手だぞ」



 色々して貰ったにも関わらず、これ以上迷惑をかけられない、かけたくないなどの理由で離れるのは身勝手、そういう考え方をサクラは今までしてこなかった。

 キリアンのその言葉は、寝耳に水だったのだ。



「そ…そうです…よね…。でも叶が私と一緒に居ても迷惑をかけるんです!」

「あいつにとってはそれが良いんじゃないのか? クルーセルにはっきりと物事を言ったのを見ただろう? カナタは嫌だと思った時は嫌だと言うさ。一緒に居られるのが嫌だと言われたか?」



 サクラはハッとした表情をしてから首を横に振る。



「なら、良いんじゃないのか?」

「………ですが…」

「それにお前もあいつの事が好きなんだろ? 他の女がカナタとありありと分かるほど親しげに歩いてるところをサクラは…平常心で見れるのか?」

「……無理です……」

「他の女とサクラの事を頭の片隅に追いやって…忘れて…幸せにくらしている。無論、当たり前だがその中にはお前はいない。それは…サクラは望んでいるのか?」



 サクラは下に顔を向けながら、強く首を横に振ってからそれに答える。



「嫌ですそんなこと…本当は…でも、でも…私っ…叶に何もしてあげられない」

「そんな事はないぞ。一緒に居るということができるじゃないか。それはカナタに対してサクラしかできないことだろう?」

「一緒に居るだけですか?」



 キリアンは黙ってこくりと頷いた。



「それが本当に私がしてあげられる事なんでしょうか…」

「ああ。お前は目が見えてなかったから気がつかなかっただろうが、武器の鍛錬中も、食事中も、国王様と対談している最中だって、周囲に分かるくらいにサクラの事を気にかけてたぞ。これが好きでなかったらなんなんだ。私の推測だと、カナタの動力源はサクラだ」

「そ…そうですかね…」



 その後もキリアンは知っている限りの、サクラが目が見えていない間のカナタの行動を詳しく話した。

 少々、話を盛っているのもあったが、ほとんどが事実のは話しだ。


 サクラはその話を内心照れながら、黙って聞いた。



「じ…じゃあ…わかりました。叶ともっと一緒に居てみます。ですが…やっぱりして貰いっぱなしじゃ、なんか…」

「なら、女としての魅力を使え。あの手の男はそれに弱い。引っ付いただけで嬉しいんじゃないかな」

「み…魅力なんて私には…!」

「んー? その顔でそんな事を言うのか。世の女性を謙遜を通り越し、馬鹿にしてるぞそれは。それに____」



 キリアンはじっと、サクラの胸のあたりを見つめた。

 


「お前が、同じ年の少女らよりも発達してるのをしってるぞ…?」

「えっ…ええっ…。た、確かにそうかもしれないですけど…」

「下手したら私の部隊に居る隊員の幾人かより………。うむ。お前に魅力が無いのなら、世の中の女は皆、魅力が無いな」

「そ…そんなに…ですかね?」



 サクラは先程までとはまた、別の理由で赤面した。

 事実、サクラは容姿も発育も良かった。

 そんな彼女に毎日抱きつかれているカナタが眠れないのは当然といえば当然であった。



「ああ、だから…だ。今後はもっと身体を密着させたり、お前らが言う露出が多いらしい服を着てみたりすれば良いんじゃないか? 羞恥心は、カナタに対してだけ捨てろ」

「わっ…わかりました、やってみます! 叶のためなら」

「うん、それで良い。よし、じゃあ城の案内の続きをするからな」

「はいっ!」



____

___

__



 カナタとサクラが去った玉座の間では、ローキスとデイスの2人と話し合っていた。



「…自力で損傷部位を治せる程の力か…。実力はSランクはすでに超えてるな。…だとしたら、あの娘を殺す事そのものが不可能に近いな」

「ほぉ…そうでございますのぉ…。どうやってカナタを怒らせますかな?」


 

 この二人にとってショックだったのは、サクラの目が治った事でなく、サクラが自力でそれをできるほどの実力を得てしまう事だった。

 力をつけろ…そうは言ったものの、あまりに力をつけられてしまうと制御ができなくなるのだ。

 二人からしてみれば、力をつけるのはカナタだけで良かったのだ。



「嬲る事は不可能では無い……それも難しいがな」

「しかしそもそも、カナタがサクラから目を離し、サクラが完全に一人っきりになる瞬間などございましょうか?」

「ないな。くそっ…カナタを利用したいが、それを遂行するためにはカナタが邪魔だとは…飛んだ矛盾だ」

「ですな」

『いやぁ…ネェことはねぇぜ? 結果的に俺がカナタとかいう餓鬼の身体を奪えば良いんだろ?』



 槍の中に居る魔神はそう、相談している二人に話し出した。



「何か策があるのか、魔神よ」

『ああ…つっても、俺はその方法を秘密にしテェ。テメェらにそれを教えるわけにはいかねぇーんだよ』

「………ほほほ、最終的には我々に協力して頂ければよいのです。スルトル様の好きになさっても」

『……ヘッ、そうさせて貰うぜ………』



____

___

_




 二人は昼食、夕食とお世話になり、ローキスからあてがわれた家に帰る時間となった。



「さらばだ。またくるが良い」

「はい、そのうち。ではまた」

「またな」



 クルーセルと一日中、模擬試合をしていたカナタ。ちなみにクルーセルは大人気なく、その間に○○奥義の技を使いまくっていたりする。

 そんなヘトヘトなカナタは瞬間移動で帰ろうと、サクラの手を掴んだ。



「あ、待って、叶!」



 そう言いながらサクラはカナタに自分の身体を強く押し付けた。

 カナタの腕には今までよりはるかに、その二つの柔らかな感触が分かるくらいにサクラの身体が強く密着している。



「ち…ちょっと…桜? えーっと…どうしたの?」

「うーんとね…今日は歩いて帰りたいかなぁ…って、思って」

「あ…ああ、うん。わかった。別に良いよ」



 サクラはそのカナタのセリフを聞くとともに、キリアンに微笑みかける。キリアンも微笑み返した。

 この日、サクラとカナタは二人で仲良く歩いて帰ったのだった。

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