第280話 目の報告 (叶・桜)

「おはよ、桜」

「……………おはよう」



 サクラは現在、表情に不満であるということがありありと分かるほど浮かんでいた。

 一方、カナタは珍しく眠そうな顔をしていない。



「ねえ、叶。朝起きたら隣に居なかったのなんで? どうしてソファに居たの?」

「えっ? いや、だって少しずつ慣らしてくんでしょ? 今までは桜は目が悪かったから何か大事が起こらないように一緒に寝てたけど」



 カナタはごく自然にそう言った。

 サクラと一緒に寝ること抱きついてくることに照れてはいたが、ただの人助けの感覚だった事は否めない。

 一方、サクラにとっては『ベットから落ちるかもしれないから』というのを建前に、カナタと添い寝がしたかったのである。



「(くっ…。だとしてもおかしいわね……思いっきり抱き付いてたから、そう簡単に離れられないはずなんだけど…)」

「俺には今、瞬間移動があるんだ。桜」

「…そ、そう…。瞬間移動でソファで移動…ね」



 そのあと、叶はだんだんと一緒に寝る時間を縮めていくと宣言した。

 これは桜にとってショックであり、目が治った事に対して唯一、残念に思った事柄である。



「________大体さ、あれって…添い寝じゃないの?」

「ち、違うわよ、添い寝じゃない! ただ一緒に寝て貰ってるだけよ」

「それって何が違うの?」

「なっ…何が違うのって…えーっと…うーんと…そうよ、幼馴染だから、そういう特別な男女間のモノじゃないってこと…かな?」

「いや…でも俺は男で桜は女子だろ? 幼馴染だったとしてもさぁ…」

「な…なによ。叶、一昨日は私のこと可愛いって言ったじゃない! その可愛い女の子と寝れて嬉しかったりしないの!?」



 サクラにとってはこの台詞は本当は言いたくなかった。

 まるで自分が自惚れている勘違い女みたいだと考えていたからだ。

 しかし、この数日間でその台詞をカナタに対してのみ吐ける条件が揃ったため、思わず口にしてしまったのだ。

 酷く後悔し始めたサクラに対してカナタはこう言った。



「可愛いから………俺が毎晩、眠れなかったんだろ?」

「あっ…ゴメン。ちょっと今の発言は無し_____ん? な、なんて? 今なんて言ったの?」

「な…なんでもないよ。こんな不毛な争いやめて早く朝ご飯食べよう。な?」

「えっ!? あっ…う、うん…え?」



 カナタはなんとか無理矢理に話をそらすことができたので、内心ホッとしている。

 ドギマギしている中、二人は朝ご飯を食べた。

 尚、サクラが作ったモノである。


 朝食を食べ、カナタは普通に、サクラは比較的露出が少ない服を選んで着替えた。

 

 そしてサクラはカナタの手を握り、カナタは城まで瞬間移動をした。



「うわぁ…! 昨日もお城みたけれど、すごい迫力ね、やっぱり!」

「フッ…そうであろう? 我らは城の_____」

「はいはい、そういうのは良いから早く入ろ」

「そだね。その前に桜、もう一度注意しておくけど_____」

「_____うん、わかってる」



 二人は城に入った。

 門兵達やメイド達は二人を歓迎してくれた。

 

 サクラはキョロキョロと辺りを見回し、治った目からいかにも城らしい豪華な物達を脳に焼き付ける。


 途中、階段でメイド達に『ここでお姫様抱っこされてたのですよ、サクラ様』『良いですね、カッコ良くて頼もしい旦那様がいらして』などと囃し立てられた。

 その間、サクラは恥ずかしがり、カナタは黙って照れていた。

 

 そうしていつもより少し時間がかかり、ローキスが居る玉座の間へとたどり着いた。

 そこに入ってまず、サクラが驚いたこと。

 デイスもその部屋にいたのだが、彼女の耳はなんと長く尖っていたのだ。

 異世界だしこういう人もいるもんだと、サクラは自分に言い聞かせて驚きの声はあげなかったが。



「2日ぶりだな賢者達よ。怪我などはしておらぬか?」

「はい、二人共しておりません」

「そうかそうか。ところで今日は何用だ? 足りなくなった物でもあるのか? なんなりと申すが良い」

「あ、いえ。今日は別のことで…」

「ほう、なんだ?」



 カナタは一歩後ろに下がり、サクラを前に出させた。

 そしてサクラはローキスに話す。自分の目が自力で治った事を。



「_____そうか、それはよかったな」

「はい」

「サクラの目は直りましたが、ローキスさんのお願いはちゃんと訊きますので」

「ふむ。そうしてくれると助かる」



 ローキスは一瞬焦ったように見えたが、カナタの一言で安堵した。

 カナタはローキスの一挙一動から表情、手の動きまで細かい動きを見ながら観察しつつ、ローキスとの話を続きを始めた。



「ところで…まだ俺達は何を倒せば良いか明確には教えられていないのですが、何を倒せばよろしいのですか?」

「そうか…まだ言ってなかったな」



 ローキスは今、思い出したかのようにそう言った。



「僕達が倒してほしい…いや、明確には封印だな。その対象は黒魔神スルトル。この国に伝わる悪の神だ」

「神…」

「ああ。とてつもなく強大な存在だ。早く倒せるまでに強くなってほしい。今は封印されているのだが、その封印が解かれる日が近いのだ」

「……そうなんですか……」



 カナタはそこからさらに情報を得ようとしたが、ローキスは話そうとはしなかった。

 曰く、話題に挙げてしまうとほんの少しだが、復活が早まってしまうのだとか。

 カナタはその言い訳を怪しみながらも、しぶしぶ了解した。



「ところでカナタよ。ダンジョンに行きたいのだったな? これを持っていけ。僕がお前らの為だけに開放するダンジョンだ」



 カナタは一枚の地図を渡された。

 それを御礼を述べながら、すぐさまマジックバックに仕舞い込んだ。



「…話は以上だ。なにか他に用件はあるか? どうせだから昼食も食べていけ」

「ありがとうございます。では、目が見えるようになった桜にこの城をよく見せてあげたいです」

「そうか、やはりお前は恋人思いだな。キリアン…確かサクラと1番よく話していたな。城内を案内してやれ」

「ハッ! ささ、サクラ。城内を案内してやろう…」



 恋人、その単語を否定する間も無くサクラは城内見学へと連れて行かれてしまった。

 キリアンは実は恋話好きであり、ニヤニヤしている。

 彼女はあわよくばサクラから城内見学中にカナタとの馴れ初め等を聞こうと考えている。


 一方、カナタはキリアンなら任せても良いと考えそれを了承し、自分はクルーセルとこの2日間の成果を見せるために手合わせをする事になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る