第271話 野宿の見張り (翔)

 何か俺の手に暖かいものが触れている。

 なんだこれは……? 丁度、人の体温そのものみたいな…。

 おぼろげな意識の中、俺はそれを握り返してみる。

 すると、それも握り返してきた。

 ということは手か、これは手だな。

 

 俺がそう気づいた頃に、今度は耳元で女の子の声が聞こえ始めた。



「__きてよ、__人」



 ちょっと何言ってるかわかんない。

 そう考えていたら、俺の身体が左右に揺れだした。



「おーきーてーよーごーしゅじーん」



 なんだ、リルが俺を起こそうとしていたのか。

 それにしても、眠そうな声だな。

 俺が寝ろと言わなかったらどうなってたことやら。


 とりあえず、上半身だけ起こした。



「おはよう、リル」

「御主人…おは…あぁぁ…おはよ…」

「お疲れ様。おやすみ、リル」

「うゅ…御主人…おやすみなさい…」



 リルは自分の寝袋へ入っていった。

 念のため時間を確認してみたところ、寝た時間よりきちんと5時間経っていた。

 相当眠かったのだろう、目を離していた間に、リルは寝息を立てて眠ってしまっていた。


 俺はまず、水で顔を洗い、口をゆすぐ。

 これでだいたい目は覚める。


 それなりに目が覚めた俺は、ふと、リルが作った広場を見渡してみる。

 明かりは焚き火しかないが、十分、全体を照らせている。


 広場の3ぶんの1のスペースに木屑などが転がっていた。きっとリルは木細工をずっとやってたんだろうな。

 まあ5時間は暇だしな。

 完成品はすでにマジックバックにしまったのか、どこにも見当たらなかったが、一つ、作りかけのもので面白いものを見つけた。


 それは、裏に『御主人』と彫られた顔だけの木人形。

 なんかお茶目なことしてやがる。相当暇だったんだなやっぱり。


 さて、俺はどうするか。

 筋トレでもするか? いや、大量の汗はなるべく掻きたくない。

 じゃあ道具の手入れか? いや、みたところそれはリルがやったようだ。

 なら、リルの寝顔を見つめ……って、俺は何を考えているんだ。有夢と美花じゃあるまいし…。


 ここで一旦俺は、魔物が周囲に居ないか警戒する為に探知をしてみた。

 確かに魔物は大量に居るがこちらに向かってくるヤツはいない。眠っているのも居るみたいだ。この前、リルに教えてもらった隠密が効いてるのかもな。


 それにしても暇だ。暇すぎてヤバい。

 もういっそリルが寝ている間に、大探知でなく普通の探知で見える範囲内に居る魔物を根絶やしにするか?

 とりあえずリルも探知に映るわけだし、常に展開していれば遠出しても、リルに何かが近づいた時にすぐに駆けつけられるし、俺もリルが居るからこの広場に帰ってこれる。

 決まりだ。魔物を狩ろう。


 俺は手にMPで灯すランプを持ち、探知範囲内に居る魔物を片っ端から倒し続けた。


 結果、睡眠中のノートフォーガのほか、夜行性なのか昼間には見なかった魔物が2種類ほど狩れた。


 一方は鹿。それもかなり大きい鹿だった。

 俺と同じ火のエミッションを使ってきたから、多分、Cランクだと思う。3匹見つけた。


 もう一方は角がない巨大な牛で、氷の魔法を撃ってきた。大きさ的にエミッションではなかった気がするが……帰れたら調べてみよう。

 つーか、魔核の色がCやDランクの魔核じゃなかったからな……。もしかしたらBランクだったかも。だとしたら帰ったら一気にBランクの冒険者になれる!

 これは2匹。


 あとは寝てたり起きたりのノートフォーガが4匹。


 しかし、これだけ移動して、これだけ戦闘して、これだけ狩っても、夜はまだ明けないわけで。

 リルを起こすまでまだ4時間はあった。


 ノートフォーガを全部、鹿を2匹、牛を1匹だけ解体しても3時間、残った。

 

 全身から血の臭いがする為、もう一度身体を拭き。

 そのあとは残りの2時間半は最近入手したスキルの採取と鑑定を使い、食べられる植物を探してみた。


 薬草は大量に見つかった。

 また、運良く葉っぱの香味料も2種類見つかった。日本では見たことない葉っぱだったが、この世界では食用なんだろう。

 食べられそうな野草は一切見つからなかったがな。


 さらに採取と鑑定も成長した。

 一石何鳥なんだろうな、これは。


 一通り満足いくまで集め終わってやっと2時間。

 そろそろ朝御飯を作ろうと思う。


 使うのは鳥(頭)ガラ。具は肉。

 鍋は持ってきているから、とりがらスープを作ろうと思う。



____

___

__



 スープが完成した。

 葉っぱも沢山入れたから、うまく臭みなども取れて美味しそうだ。

 スープができる間も暇だったから、その間は仕方なく本を読んだんだぜ。


 そろそろ、リルを起こそうと、俺はリルの肩を揺すぶり声をかけて起こした。



「うッ……うーん…」

「おはよう、リル」

「おはよう御主人。えーっと…もう5時間経ったのかい?」

「ああ。寝なかったらきつかったろ?」

「…きつかった」

「だろ。ほら顔洗って朝飯食うぞ」

「ふぁぁ…うん。食べる…」

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