第264話 カルアちゃんの訪問 5日目 後半

「…なんだか未体験な味がしますね」



 サーモンのお寿司を食べたカルアちゃんはそう言った。

 未体験なのは当たり前だろう、この世界にはお寿司なんてないし、お米もないし、醤油やワサビもないんだから。


 カルアちゃんを始めとして、みんな食べてみた。

 お姫様であるカルアちゃんが1番最初に正体不明の食べ物を口にするのはなんかおかしい気がするけど、この際気にしないことにするよ。



「生のお魚の下のこの白いのは、なんかもちもちしてるね」

「そうですね…なんなんですかね、これ?」

「食パンの白い部分に、ほんの少しだけ食感が似ているような気がするな」



 俺とミカは顔を見合わせる。

 ミカも俺と同じ考えのようだ。

 このまま意味不明な物としといた方が良いと。



「ほんと、わかんないなぁ…これ。とりあえずお寿司だって名前しか…」

「うん、だよね。おこ…この白いのもなんなんだろう。なんかツブツブしてるし」



 お寿司はマグロ、サーモン、イカと一人に三巻配膳されていた。

 結局みんな、全部食べてしまったようだ。

 顔を伺う限り、美味しいから…とかでなく、単に好奇心で食べきったみたいだね。



「…はあ。このお料理のことはもっとよく知りたいのですが…。調査などはまた後日するとして、早く次のお料理食べましょう!」

「ああ、そうだな」

「じゃあ早速クジを引きましょう、カルア姫様!」



 また後日…するのか…?

 まあ良いや。新しい料理でお寿司のことなんて忘れてもらえたら良いんだけど。


 クジを引いた結果、今度はミュリさんが料理を出す番となった。

  

 ミュリさんがスイッチを押すと、みんなの元に、また何故かステーキが配膳された。



「ん…? またステーキが食べたかったのか?」

「あ、ああはい、まあそんなところです。はい!」

「へぇ…ミュリさんて以外とガッツリしたものが好きなんですね」

「え、ええ。アッサリのもガッツリしたのも好きですよ!」



 なんだかミュリさんの様子がおかしい。

 俺は気になって、このステーキを鑑定してみることにした。

 その結果、この肉はDランクの牛の魔物…トミウシーの肉であるということがわかった。

 トミウシーの肉は、身長なら身長と、足の長さなら足の長さと、成長させたい箇所をつよく思い浮かべながら食べると、そこがよく成長するようになるという、金のバラ並みに不思議な物だ。


 ……つまりミュリさん……。



「あれ、アリムちゃん。手が止まってますよ? いらないのですか? いらないのなら私に分けてもらえると…」



 …必死だね。

 俺も要らないわけじゃ無いんだけど…いつでもダークマターで作り出せばいいし、今は渡してあげても良いかも。

 ちなみに効果があるかどうかは個人差があります。



「あ、ああ。はい、どうぞ」

「ありがとうございます!」



 嬉しそうに俺の分のステーキを持っていくミュリさん。

 なんだか見てるこっちが悲しくなってくるよ。

 これはもう、なるべく早く頼まれた物を作らなきゃいけないかもしれない。



_____

____

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「はあ、たくさん食べましたね」

「ふふ、我は満足だ」



 夕食込み、デザートやスイーツ含むおよそ50品。

 俺達は食べるに食べまくった。太ったり、虫歯になったりする心配が無いからって少したべすぎたかもしれないね。


 

「もうこんな時間なんですね…時間が経つの早いです」

「そうだね! もうそろそろお風呂入んなきゃ…。ところでアリムちゃん、本当にこれだけ食べても太らないのよね? ね?」



 リロさんは俺に迫っ、てそう訊いてきた。

 俺が作ったアイテムなのだし、そんなことはあり得ない。



「大丈夫ですよ」

「そう、なら良かった」

「ねえ、アリムちゃん。その…食べ物を食べ時、それが特殊な食材だったら…その効果って反映されますかね?」



 ミュリさんが期待するような顔でそう訊いてきた。

 この人が出した食べ物、あれから全部トミウシーがどこかに入ってたんだよね。

 ……もしこれがミュリさんじゃなくてリロさんに効果があったらどうなるんだろうって考えたのは内緒。



「あー、多分、大丈夫だと思いますよ、それは」

「そうっ…! そうなんですね! そうなんですか!」



 まあトミウシーは普通のDランクの肉より高いし、かと言って城内の料理ではまず出ないだろうからね。

 それに、他人には胸を大きくしたいからトミウシーの肉を出してくれなんて言えないだろうしさ。



「あー、そんなにあの牛肉が良かったんですかね? なんなら、薬ができたらそれと一緒にあの魔物の肉の干し肉をプレゼントしますけど…」

「ほ、本当ですかっ! ありがとうございます、アリムちゃん!」



 すごい喜びようだ。

 前までこんなに胸に執着してなかったのに、どうしたことやら。


 この後、俺達はお風呂に入って眠った。

 カルアちゃんは俺達と一緒に寝ることになり、ミカはいつものように俺の腕にしがみついてきた。

 カルアちゃんも。

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