十章 それぞれの生活
第239話 仕事 (翔)
目覚めた。
まさか普通に寝れるだなんて思わなかったぜ。起きたら全部、実は夢で、葬式中に寝落ちしてた……なんて、事になるのを少しは期待したんだがな。
隣のベットでは…リルが寝ている。
ああ、夢じゃねーんだな、やっぱり。
突然、こんな異世界に来て…1日目で奴隷の女の子、それもケモミミの子を抱えるとかどこのラノベだっつー話だが、現実だ。これは全て俺に起こってる現実なんだ。
俺は…俺の生活もままならないまま、女の子を一人養いながら生きていかなきゃなんねー。
しかしそれがこうして宿に泊まれてるのは本当、運が良かったんだよな。いきなりこの世界で…7万円くらいのお金を手に入れられたのは。
もうそれも1万円……1000ベルもないがな。
あの時は頭がいっぱいいっぱいだからなんも考えてなかったが、途中で、人の良い御者と奴隷商だとはいえ理解のある人に出会えた事も運が良かった。
「んぅぁぁ……あれ…えっと……」
どうやら、リルが起きたみたいだ。そういや俺は、寝巻きを買うのを忘れたから、仕方なく動きやすそうな服で寝てもらったが……。
それにしても、冷静に考えるとこの世界の服、露出度高すぎじゃね?
………まあ、目のやり場に困るってほどでもない……か?
「おはよう」
「おっ……!? おはようございます、御主人様! 主人より起きるのが遅い私めを、どうかお許しくださいっ!」
「口調がおかしい事になってるぞ」
「あっ……あれ? ごめん、御主人」
俺はこの部屋に備え付けられている時計を見た。
今は朝7時29分か。昨日、この宿の主人から聞いた話じゃ、外に朝ご飯を置いてくれてるんだっけか?
俺は部屋の戸を開け、足元を見ると、きちんと二人分の食事が用意してあった。ミネストローネみたいな赤いスープと、パン一切れに、薄くスライスされたチーズだ。
「朝飯……食べれるか? リル」
「た…試してみる…。しかし、なんで私の分が?」
「昨日、頼んでおいたんだよ」
俺はリルの分の朝食を差し出した。
それをおずおずと受けとるリル。
「ほら」
「う、うん」
リルはスプーンでスープを一口飲んだ。まあ、スープは大丈夫だろうな。次はパンとチーズだ。
本当なら……摂食障害の治療に炭水化物をとらせるのなら、小麦は良くないらしいんだが………ここは我慢してもらうしかない。
「うっ……うぇっ…」
「だ、大丈夫かっ!?」
リルが吐きそうになり、慌てて桶を差し出し、背中を撫でてやる。なお、やましい気持ちはない。
リルは、吐かずにそのまま飲み込んだ。
「はぁ…はぁ…ふぅ…」
「無理しなくて良いんだぜ? そういう病気なんだから」
「いや…私、御主人にここまでしてもらって……。何としても、これを治したいんだよ。そう思ったんだ」
「……そうか」
その後、リルは何度も吐きそうになりながらも、それを止め、朝食を食べきった。少し時間はかかったが。
俺も一緒に食べた。これも大事なことだ。
で、食べ終わったら就活だ。
女の子一人と俺の生活がままなる分の収入を得なければならない。
悪いが、リルにはお留守番してもらわないとな。
つーか、1週間は寝て休んでほしい。
「リル、一つ大事な話がある」
「な、なんだい?」
「実は…俺は仕事がねー。甲斐性が無い、情けない話だが……今のままじゃ、リルを養っていくことはおろか、俺の生活もままならん」
「っ…!? な、なら私を追い出すなり……身売りするなり……。と言っても私はお金にならないと思う…。邪魔な奴隷は不良品として役所にだね………」
どうしてすぐにそんな事を言うんだ…。
そう言うことは望んで無いと、何回言えばわかるのか。しかし、俺の今の言い分じゃ、そう思われても仕方ないか。
「というか、そもそも、御主人は冒険者じゃ無かったのかい? 私は馬車の中から見ていたんだ、御主人が大勢のゴブリンを1発の魔法で薙ぎ払うところを」
「冒険者……?」
「まさか、冒険者を知らないのかな?」
俺はその後、リルから冒険者の話を割と詳しくされた。
この世界で冒険者を知らないのは、日本でサラリーマンを知らないのに値するってことはわかった。
それも、だいたいのヤツ…奴隷すらなれる、何でも屋みたいな職業だと。
なら、これだ。
俺は冒険者になるしか無い。幸い、俺が昨日、街を駆けずり回っていた時に、冒険者ギルドというのは見つけている。
冒険者……やはり、ラノベやゲームの話っぽいが、俺はこのシステムにすがるしか無いようだ。
それに、この職業ならば……二人を、叶君と桜ちゃんを見つける可能性もぐんと高まる。
「____というわけだよ」
「分かった、じゃあ早速、冒険者登録してくるわ。リルはここで待っていてくれ、体調が良くなるまで寝てるんだぞ? 1週間くらい」
「ち、ちょっと待って。それじゃあ本当に私は役立たずじゃないか! ……一緒に冒険者になるよ」
役に立ちたい欲求か…。しかし、変に動かれるよりも本当に安静にしてもらっていた方が良いんだ。
「……いや、1週間は安静にしてろよ」
「で、でも…私は1日でも御主人の役にっ…!」
「なら、5日は休んで…」
「いや、3日、3日は休む。だから、そのあとは……私に仕事を、御主人を手伝わせてくれ! 性処理でも無い、雑用でもないのは……御主人に申し訳ないんだ。申し訳なさで押し潰されそうなんだよ……」
確かに、自分だけのうのうと過ごし、働く人を見ているのは気分が良いものじゃないだろうな。それもそういう立場なら。しかし、3日…。
状況次第だな、全ては。
「わかった。3日な。だけど、本当に安静にしてろよ?」
「うん……」
「じゃあ、行ってくるからな」
「行ってらっしゃい、御主人……」
俺は宿を出て、昨日見かけたその、ギルドへと向かった。宿からその場所はそう遠くなかった。
俺はそのギルドの戸を開け、中に入る。
そこは、酒場と冒険者ギルドを兼ねた、剣やら杖やらを持った人達が大勢いる、いかにもファンタジーの世界だった。
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