第195話 ミカの誕生日 前編

 

 私達はこの1ヶ月とちょっと、すごく忙しかった。

 ろくにカルアちゃんと遊べる時間なんてなかったし、それどころかアリムと仕事以外で一緒に居られる時間もかなり少なかった。

 ディープキスやその他諸々なんて、パレード2日前のあの日以来1回もしてない。

 でも、やっと最近落ち着いてきて、今日、私とアリムは仕事が入ってないんだ。

 なんてったって今日は…私の2回目の13歳の誕生日。

 正確に言うと、17歳の誕生日。


 まさか、去年の私は17歳の誕生日を異世界でおくるだなんて思ってもみなかったと思うの。

 誰だってそうでしょ?


 帰れるタイミングもあったんだけど…私はどうしても有夢と一緒に居たかった。だからこんな形になっちゃったけど。



 私は目が覚めた。

 ベッドの上にあるアナログの時計を見ると、今は8時らしい。隣にすでにアリムは居ない。

 

 台所からソーセージか、目玉焼きかはわからないけれど、何かを焼いている音が聞こえる。

 私はベッドから降りて台所へと向かった。


 そこには、目玉焼きを焼いているアリム……ではなく、有夢が居た。

 これまでに見たこともないような、カッコよくて男らしい服装もしている。

 正直、この世界に来てから初めて、容姿で有夢をカッコいいと思ったかもしれない。

 地球では外に出かける時にわりと今のと近い格好をしてたような気はするけど。…ふふ、やっぱり前も今もカッコいいや。



「あ、おはよう、美花」



 有夢はわたしにそう言った。

 何故だろう、カタカナのミカ…じゃなくて漢字で美花と呼ばれてるような気がする。



「おはよ、有夢」



 なんだか、何時もアリムに言ってる台詞なのに新鮮な感じ…なんでだろう?



「今日も美花は可愛いね」



 有夢は唐突に、ご飯を器に盛りつけながらそう言った。

 …唐突にそういうこと言われると、焦るし照れる。



「あ…ありがと。その…有夢もその格好…かっこいいね」

「ん? そうかな、日本に居た時の外着と同じような感じにしたんだけど」



 やっぱりそうか。でもなんで今日はこんな格好を…?

 何時もだったらかわいい服を着てるんだけど。

 私の誕生日だからかな? えへへ。


 有夢は机にご飯を並べ、椅子に座った。



「ほら、朝ごはん食べよ」

「う、うんっ!」



 有夢に促されるまま、私も椅子に座る。

 …朝ごはんもいつもと違う。

 目玉焼きは3つ。味噌汁は豚汁。サラダもローストビーフ入り。ご飯のお供は海苔や納豆じゃなくて…イクラ。

 焼き鮭のかわりに鯛の切り身。なにこれ豪華。


 私はまず、豚汁を飲んでみる。

 普段、アリムが作る豚汁と変わらない、伝説的な味だ。



「今日…朝ごはん豪華だね」

「美花の誕生日だからねー! 今日1日、美花を目一杯お祝いするね」

「ありがとう、有夢っ!」



 嬉しい。

 そうそう、有夢は誕生日サプライズとかはやらないの。曰く、折角の誕生日なのに焦らしてどうする、驚かせたいとかただの自己満足だよね云々。

 ドラマで、夜まで誕生日のお祝いされずに落ち込む主人公の姿を観て、そんな感じなこと言ってた気がする。



「えへへ」

「どうしたの? 美花」

「いやぁ…私、幸せだなぁっ…て」



 私は心の底よりそう言った。

 だって本当に幸せなんだもの。



「そっか、俺もだよ。でも今日はもっともっと幸せになってもらいたいな。今までは幼馴染として、時には好きな異性として美花を祝ってきた。……今回は彼氏として祝うからさ」

「……わかった、期待してる」



 有夢ったら、自分でハードルを上げすぎなんじゃないかな? でも期待しておこう。


 それにしても、彼氏ってワードが耳に残る。

 そうか、そうだよね、何回も確認してるし、告白も数ヶ月前にしたけど、正直言ってそんなに、キスやその他諸々をする時くらいしか実感が湧かないから。

 私は、有夢の彼女? ガールフレンド? とにかくそれなんだよね。これで何度目の再確認がわかんないけど。

 えへへへへ。

 


「美花、美花? まだ、なんのおもてなしもしてないのに凄く嬉しそうだね」

「そりゃあ…まぁ、有夢が祝ってくれるって言ってるんだもん。嬉しい」

「そうか、うん。まだ特になにもしてないけど、喜んで貰えて俺も嬉しい。……あ、でもご飯冷めちゃうし、食べちゃおうよ」

「あっ、そ、そうね!」



 幸せだの嬉しいだの言っててご飯を食べるのを忘れてた。

 幸い、まだ全然ご飯は冷めてなかった。

 食べることに集中し、あっという間に食べ終わった。



「ごちそうさま! じゃあ私、着替えようかな」

「あ、じゃあ今、服を新しく作るから待ってて」

「うん…? わかった」



 有夢はダークマターにより、私の新しい服を作り出した。

 それはどことなく、私が普段、日本にいた時に外に出る時に着てた服の中でも私の1番のお気に入りの組み合わせと似ていた。



「それ、前に私がお気に入りだったヤツに似てるね」

「うん、これ着てる美花は凄く可愛くて…さ。最近、詳しく思い出したんだ」

「そうなんだ」


   

 私は有夢の目の前で、寝巻きを脱いで着替える。



「わわっ!? ちょっ…」

「ん? どうかした?」

「なんで俺の前で着替えるのさ…俺は今、アリムじゃないんだよ? スキルの力を消してるからわかると思うけど…俺は今、男で…」

「まぁまぁ、気にしない気にしない」

「…うん」



 こんなにカッコいい格好してても、やっぱり中身は変わらない。本当に、あの日は一体なんだったのかしら?



「私……有夢なら何されても、大抵のことは嬉しいんだけどなぁ? 私をお祝いするってことは、私にとって嬉しいことをしてくれるわけで…」

「あ、ぁあ、うん。そうだよ! でも、とりあえずは服着よう」

「……ちぇー」

 


 私は渋々、服を着た。

 おうおう、この後何にもしないんだったら私はいじけるぞ、と、考えてたんだけど。

 有夢は私を抱きしめた。



「……嬉しい?」

「もちろん」

「本当は……夜にチューとかするつもりだったんだけど…まあ、今日は美花を喜ばせるって決めたし。美花が望むのなら」



 そのまま、有夢は私にキスをした。私が望むならだって……えへへへへへ。


 しばらくして、私の唇に重なっていた唇が離れる。



「嬉しいっ」

「えへへ、そうか、よかった」



 なんだか、有夢の顔が赤く火照ってる。

 やっぱりウブだよね有夢って。

 有夢は抱きつくのもやめ、私の目をじっと見ながらこう言った。



「じゃあ、最初のおもてなしをしよう、ついてきて」



 有夢はこの部屋の戸を開け、屋敷内へと出た。

 私も一緒に出る。

 そしてそのまま有夢が行く方向についていくと、一つの両開きドアの前に辿り着いた。



「ここは…?」

「ここはね…コレだよ」



 有夢が両開きのドアを開けると、その中は映画館みたいなところだった。

 大きな画面にたっくさんの席。



「映画館…?」

「そう、映画館だよ」

「でも、この世界に映画なんて…」

「ところがどっこい、ダークマターでつくれたの。日本の映画がね。よくわかんないけど…見たことないヤツまで作れた」

「へぇ」



 元々万能なだと思ってダークマターだけど、さらに異世界を超えて物を作ることもできるんだ。すごいね。



「でさ…美花は恋愛モノが好きだから…」

「恋愛モノだけじゃなくて、なんでもいけるよ?」

「でも、1番好きなのはそれでしょう?」

「えへ、まぁね」

「それに、恋人と二人で観るんだから恋愛モノの方が良いじゃん」

「うむ、確かに」

「ま、いいや。とりあえず席に着いて」



 私と有夢はど真ん中の1番前の席に二人で座った。

 


「じゃあ、観ようか」

「何観るの?」

「うーんとね、『僕が贈る』ってヤツだったっけ。美花は漫画、持ってたよね。」

「えっ…!? うん…だけど、それの映画って…確かまだ先だったと…」

「えっ、未来の物を作っちゃったかな?」

「んー、でもまぁ、気にすること無いんじゃない?」

「そうだね」



 有夢は指をパチンとカッコよく鳴らすと、映画館特有のブーーーって音が鳴り響いた。

 それと同時に見覚えがある会社のロゴが現れた。

 私の手に有夢の手が絡む。

 恋愛モノの映画で自分から手を繋ぐなんて、有夢の割に、気が利いてる。


 私と有夢はその映画を手を繋いだまま観ていた。

 内容はざっくり説明すると、主人公 (爽やか系イケメン)が、ひょんなことからクラスの地味女子に恋しちゃう話。


 しばらく、楽しく観てたんだけど…。

 その映画がキスがあるであろうシーンに突入した。

 思わず、私は有夢の方を見た。有夢も同じ気持ちなのが、私の方を見た。

 私は目でやってほしいことを訴える。


 それを有夢は察したのか、目でチロチロと映画の方の進行状況を見ながら、私の顔に顔を近づけてくる。

 

 映画の方の音楽が幻想的でドラマチックなものに変わった。

 それと同時に有夢は私にキスをする。


 一回、やってみたかったんだ、こういうの。

 本当の映画館でやったら、バカップルって事になるんだろうけど。


 そのシーンの15分後、映画は終わった。



「どう、良かった? 美花、キスシーンの辺りで目がウルウルってなってたけど」

「えっ…あ、うん、良かったよ……チューも」

「そ、そうだった? あれね、周りに人が居ないってわかってても恥ずかしいんだね」

「でも、凄く嬉しかった」

「そっか」



 私は唐突に有夢のほっぺたにキスをした。

 有夢の目が一瞬、驚いて見開かれる。

 


「ふふふ、つい」

「そ…そっか。うん」



 私と有夢は映画館、もとい、シアタールームから出て、部屋に戻った。



「ん? まだ10時半かぁ…」

「うーん、朝から映画はきつかったかな?」

「そうでもないよ?」

「そうなの? …で今から12時半まで何だけど…美花の好きなことをしよう! 何でも言ってね、できることはするよ。外に出てミュージカルに行くのでもいいし、初デートのお花畑に行くのでもいいし……」



 何でも…何でもかぁ…なにがいいかな?

 本当に何でもしてくれるんだよね……。

 あんなことやこんなこと……いや、まだお昼だしそれは……。

 むむむ、意外と決まらない。

 最近、外に出ずっぱりだったから、家の中がいいってことは決まってるんだけどな。


 ……じゃあ普段、有夢なら恥ずかしがってやってくれない事をしよう。



「よし…じゃあまず最初に、私をお姫様抱っこ…なんて」

「お姫様抱っこか……いいよ」



 有夢は私の腰と膝裏に手を回し、私を抱きかかえた。

 私は有夢の首に捕まる。

 有夢の腕は女の子のように…とは言い過ぎかもしれないけれど、とにかく細い。

 正直、私を持ち上げられるか不安だったけれど、大丈夫だったみたい。

 顔が近い。いい匂いがする。



「どう?」

「えへへ…すごく良いこれ…。あ、でも私、重くない?」

「美花、痩せてるじゃん…」

「まぁね、あ、そろそろいいよ」



 有夢はそっと、私をおろした。



「次は?」

「次はね…うーんとね…」



 何がいいかな…なにがいいかなっ!

 うーん…壁ドン、顎クイ、からのカッコいいセリフ!

 これでいこう、これで。



「とりあえず壁ドン」

「か…壁ドン!? わかった、やってみる」



 私は壁に背をもたれる。

 そして有夢は、私の頭から少し離れた場所に勢い良く右手を置き、グイッと顔を近づけた。

 こうしてみると、やっぱり有夢の方が私より背が高い。

 顔が近い…ドキドキするっ……。



「つ…次は…」



 有夢は顔を赤くして、壁ドンはそのままで次になにをすればいいか訊いてきた。



「そのまま…私の顎をクイッてあげて…なんかカッコいい台詞言って……そのあとはお任せで」

「お任せ……ね。わかった……」



 有夢は空いてる左手を私の顎に優しく添えて、クイッと上げた。と同時に



「美花…お前を愛している」



 一切噛んだりせずに、言ってのけた。

 そしてそのまま有夢はキスをしてくれた。

 うへぇ…やばい、溶けちゃいそう。えへへ。


 2秒間のキスが終わり、真っ赤な顔の有夢が、おそらく真っ赤であろう顔の私から壁ドンを解いた。



「うわぁ……これ、やばいね」



 有夢はそのまま右の手の甲で口をおさえ、少し顔を俯かせて照れてる。

 当の私は夢心地でボケーっとしてるの。



「…美花? よだれよだれ……」

「えっ…あっ…み…見ないで!?」

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援した人

応援すると応援コメントも書けます