第143話 勇者

 

 え……今なんて言ったんだ? この人は。



「な、なんておっしゃいました?」

「勇者になってもらいたいと私は言ったのだ」



 勇者…勇者!? 俺が? 

 いや、確かに、基本はなんでもするって考えではあったけどさ…。



「ボクが……勇者ですか?」

「そうだ。その強さと正義感を見込んで頼みたい、というよりアリムにしかできない」



 俺は過去にトズマホで調べている。勇者が前に現れたのは300年前。どこかの騎士がなったらしい。

 『勇者の剣』を鞘から抜けられれば勇者とさて正式に神から認められたことになる。

 その300年前の勇者は様々なダンジョンや、秘宝を手に入れるための試練をかいくぐり『勇者の剣』を含む、伝説級の武具フル装備でメフィストファレスが言っていた、『悪魔神 サマイエイル』を、勇者の剣に封印したのだとか…。

 そのあと行方不明になったらしいけど。

 でも文献に残っている勇者と言われる存在は全員男で、さらに歳も18歳以上らしいんだけど…なんで俺なの?

 どれにも当てはまらないじゃない?

 


「強いとか、正義感で勇者になれるんですか? それにボク、女ですし、まだ12歳ですし……」

「性別と年齢は関係無いと思うぞ。それにアリムは『勇者の剣』を抜けるではないか。今から勇者を探す時間はない。頼む…お願いだ。勇者になってくれぬか?」



 は? 俺が勇者の剣を抜ける? んなわけ……。

 あるじゃねぇか、そりゃそうだよな。勇者の剣、俺が作ったんだもんな。

 作った人間はそりゃ抜けるわな。


 メフィストファレスも能力がチートなだけでそこまで俺にとっては強くなかった。

 実はもともと悪魔達を殲滅するつもりで行動してたしね。

 大幹部の一人があの程度なら、悪魔神も余裕だろう。

 というか、悪魔神が現れたら勇者の剣を1000本くらいダークマターで作って飛ばせばいい。

 

 なんだ、楽勝じゃん。勇者になるのも悪くはない。



「わかりました! やり……あれ?」

「ん…どうした? アリムよ」



 いけねぇ、思わずOKしかかってしまった。

 確か悪魔神の身体の媒体って、この国の王家の血筋の人間の死体を箱として、悪魔神を入れ込んで復活するって、勇者の伝記と一緒に書いてあった気がする。

 現に、悪魔達はカルアちゃんを誘拐し、その騒動の間に王様の奥さん……王妃様の死体を盗んでいる。


 つまり、俺にカルアちゃんのお母さんの死体を傷つけろと……?



「ですが王様…それって、王妃様のご遺体を…その…ボクが傷つけるってことなんじゃ? おそらく…悪魔達は王妃様のご遺体を使ってるでしょう。いいんですか? あんなに大事に保管して……」



 王様はその言葉を聞き、フッと少し笑った。

 確かに少し笑ったが、どこか哀愁が漂っている。



「何を言っている、アリム。生きている人間が犠牲になるよりはマシだろう? それにアリムは相手を傷つけずに倒す術を持っているはずだ」



 そうだ、俺は剣のエンチャント等で敵を傷つけず倒すことができる。

 そっか、国王様はそれを見込んでもいるのか、俺に。

 ならば…了承しよう。



「わかりました、やりましょう。悪魔神の封印と言わず、王妃様から悪魔神の魂を抜き取り、そのまま葬り去ってみせます」

「ふむ、その意気だ、本当に頼む。礼はこの戦争が終わり次第いくらでもしよう。本当に感謝している」



 礼……ね。俺はもうお金も物も、勇者になるんだから地位もいらないんだけどなぁ……。

 できればこんなことにならずに、ミカとカルアちゃん達と…平和に暮らせればそれで良いんだけどね。中々そうも行かない…か。


 そんなこと考えている時、王様が、さらに俺にこえをかける。



「だからだ、勇者になったことを民に知らせるため明日の早朝、城の高台でアリムが作った剣を抜いてくれぬか?」



 人前で剣を? 

 マジで?

 なんでそんなことしなきゃいけないんだろう。

 別に目立つのはそこまで嫌いじゃないんだけどさ。

 


「え? どうしてです」

「うむ、それはアリムが勇者だと民衆に知らしめるためだな。大勢の前でやれば、仮にアリムが本当の勇者でなかったとしても、世間はアリムを勇者だと認めるだろう?」



 あぁ、そういうことか。

 俺を勇者としてみんなの記憶に認識させるためね。

 じゃあ王様の言う通りに、明日、みんなの前で剣を抜こう。



「そういうことなら、了解しました」

「うむ」



 王様は髭を撫でながら首をゆっくり縦に振った。

 すると急に国王様の顔が急変、妙にニヤニヤした顔つきになった。

 なんだか、昨日のカルアちゃんを思い出す。



「ところでアリムよ」

「なんですか?」

「これは聞くだけだが………ウチに嫁ぎに来ないか?」

「…………え?」



 ちょ、何を言い出すんですかね? いや本当に。



「ふふ、実はテュールには婚約相手がまだ決まってなくてな、歳もお前と7つしか変わらぬし…次期王としてはだな、しっかりとした嫁が欲しいと……無理にとは言わんがな?」


 チラチラと国王様は目配せをしてくる。


 テュールさんか、テュールさんねぇ…確かにイケメンなんだけどねぇ……そうかー。婚約相手が決まってないのかー。

 でも残念、俺はほぼ決まってるようなもんだけどな! 断らないと。



「ボク…なんでボクですか? まだ知り合って2ヶ月も経ってないじゃないですか…それにボクはまだ12歳で……」

「そうか? お前の街での評判は知っとるか? 

頭が良く、容姿端麗、手先が器用で、そして強い。兵士の中にはお前を熱狂的に応援してる者も少なからずいる。というか多い」

「え……えへへ、そうですか?」


 

 まじか、俺の評価そんなんなのか。容姿端麗だってさ。なんか照れるなぁ。

 でも…。



「ごめんなさい。ボク……好きな人居るので」

「そうか……すまなかったな。ところでその幸運な相手はだれだ? いやさなら話さなくても_____」

「ミカです」



 王様の顔がひどく驚いた表情に変わった。



「ミカ…ミカは女子だろう!?」

「でも好きなんです。結婚したいくらい」

「そ……そうか。なら仕方ないな………フッ…はっはっはっはっはっ」



 いきなり笑い出すとは…。

 それに、目前で堂々と同性が好きだと宣言した時のカルアちゃんと同じような反応。

 カルアちゃん、性格はお父さんに似たのかも。



「少し、アリムが硬くなってるのをほぐそうとして、半分冗談をいったのだがな、思いもよらぬ返答が返ってきおったわ…フハハ」



 そうか、おれの緊張をほぐそうとしてくれたのか。半分冗談って、半分本当だったんだな。



「ははは、はー。アリムよ。この戦、絶対勝つぞ!」

「はい」

「そして、ミカと愛し合うといい」

「……はい」


 

 くそ、真面目になったと思ったらすぐさま唐突にからかってくるなんて。

 やっぱり、この人の下ならこの戦争もうまく行く気がする。



「よし、ならばワシの要件はこれ以上だ」

「失礼しました」

「うむ。明日………頼むぞ……勇者になってくれ。礼はお前が断ってもする。必ずな」

「えっと…まぁ、はい」



 おれは王様に一礼してこの場を去った。

 医務室に眠っているミカの様子を見に行ってから、カルアちゃんの部屋に戻ろう。

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