第19話 ライバル登場 初対策 1

 その間にもカマイタチに見える刃はどんどん幻悟に近づいてくる。

「俺の目前には風を分散させる大いなる壁が現れる。壁の強度はダイヤモンドより上だろう」

 カマイタチが幻悟の身体を全体的に傷つけたはずだった。それは周囲の切れた木の量やレンガ造りの壁等が倒壊しているという事実がどんな説明よりも物語っている。


 しかし、幻悟は無傷だ。間一髪で幻悟の前に物質不明の壁が現れたからである。その壁がどんな材質で出来ているのかも一切不明だ。幻悟の全身を覆う盾のようになっている壁が、玉野の創造している言霊で出来た渦巻いている風の束をすべて分散させていると玉野は知る。


 すると、彼は大きく目が見開かんばかりになる。

「今のは一体どうなっているんだ!? どうしたら今のようになるんだ」 

 幻悟は、玉野がうろたえているのを制して自分の≪言葉力≫の説明をしだす。

「玉野君。見ての通りの力だよ、俺が持っている力はね。俺はコレを言葉力と呼んでいる」

 うろたえていた玉野が、気を取り直して幻悟に訊いてくる。


「お前はその力を悪用しようとしたことはあるかい?」

 幻悟は玉野の問いを即座に否定する。

「いやっ、子どもの時から自分の考えに誓約をかけたからね。そんな考えをするのは重大な罪というようにして、二度とそんな考えを浮かべられないようにした」

 幻悟がこんな答えを返すと、玉野はわざとらしく大げさに驚いている様子に見えた。本当に驚いているのかもしれないが、演技しているようにも見えるので真偽は定かではない。


「へぇーっ、お前の力はそんな行為も出来るんだ」

 玉野は感心しているような素振りを見せながら、言葉を続けた。

「琴葉幻悟! お前には悪いが言霊と言葉力、どちらが上か確かめさせてもらう。首を洗って待っていろ!!」

 幻悟は玉野が去って姿が見えなくなった後で、自分の心境を態度で表わしてからお手上げポーズで一人つぶやく。

「やれやれ、飛んだ人物に好かれたもんだ。まっ、そうなったからにはこっちもそれなりの準備を進めないとな。そんなことは後回しにして、今は二人を待たせているから急いで行くとしよう」


 幻悟は一旦今の出来事を忘れて、成人と道也が待っている場所まで行くことにした。玉野の使用する言霊に対する対策を考えながら。

「おっ、成。幻がやっときたみたいだぞ」

「本当かい? ミッチー。うん、たしかにそこの通りを歩いているね」

 幻悟が考え事をしながら歩いていると、成人と道也の声が聞こえてくる。いつの間にか待ち合わせ場所付近まで来ていたのだ。幻悟はそれに少しだけ驚いた。


しかし、幻悟は平静を装って上手くごまかした。

「やぁ、せいじんにミッチー。遅くなって悪かったね。早速だけど昔話に花を咲かせようか」

 幻悟の声かけによって、それからというもの、幻悟・成人・道也の三人は小学校時代の失敗談や感動したことの話から始まった。



 そして幼き頃にあったあの事件までの話を笑いあったり、時には考えあったりしながら時間も忘れて幻悟達三人組は思い出しあう。話が終わりに近づいた時に幻悟に向かって成人と道也が今日の事を質問してきた。

「幻悟君、玉野君とはどんな用事で話をしてきたんだい?」

 幻悟は彼ら二人に真実を答えるかどうか迷ったが、対策を考えてくれる人数を増やすために事の詳細を伝えることにする。


「せいじん、ミッチー。俺、あいつに対決を申し込まれちゃった」

「どういうことだい? 何で玉野君は幻悟君に対決を挑んできたりしたの?」

 今、幻悟に質問したのは成人だ。そんな成人に幻悟は説明を続ける。

「短くまとめれば玉野……………………、彼は言霊使いだったんだ。俺が言霊と異なる部分のある言葉力を使えるからどっちが上か勝負をしろと言ってきたんだと思う」

 幻悟は成人と道也に推測を交えながら自分の考えを伝える。そして幻悟は彼ら二人にアドバイスなどを求めてみる。


「具体的には何をしてほしいんだ、幻?」

 道也の疑問はもっともだ。幻悟はその疑問を解消すべく、彼ら二人にしてほしいことを簡潔に述べる。

「君たちは俺の言葉力というものを信じたんだ、今さら言霊なんて信じないなんてことはないはずだよな。成人と道也にも玉野君と戦わずにすむ方法を一緒に考えてほしいんだよ」

 幻悟の頼みを聞いた成人と道也は、少しの間だけ二人で話をしているようになったかと思ったら、その頼みを快く引き受けてくれた。


「そんなことならお安い御用だよ。ねっ、ミッチー」

 成人に話を振られた道也もすぐに肯定する。

「そうそう、幻悟がそんな下手したてに出る必要なんてないんだぜ。俺たちは大切な友達同士じゃないか」

 幻悟は彼ら二人ともが頼みを引き受けてくれたことに感謝しつつ、具体的な話へと話題を変える。

「それでどうしようか? 二人とも?」


 幻悟の問いに、まず成人からの意見が出る。

「言霊について調べようよ。確か幻悟君がお世話になっている研究所の中にそんな本を見た覚えがあるよ」

 幻悟と道也が成人も交えて、さっきの意見を論議しあう。そうかと思えば、彼ら三人とも同意見で成人の意見を簡単に受け入れる。そして即座に実行しようとする。

「その考え、良いと思うよ。俺は文句なんかないな」

「そうだな、幻。俺達三人の考えが一致した時に失敗した経験はないし」


 どうやら意見があっさり決まったのにはそれなりの理由があったからのようである。それから彼ら仲良し三人組は幻悟がお世話になっている『能力開発研究所』へと歩を進めていく。



 幻悟・成人・道也の三人は能力開発研究所の付近まで来ていた。昔から変わらず、この研究所には清潔感が漂っている。書物などの一般解釈(テレビ・マンガの世界)を見ると、研究所なんてものはあんまりいい環境にあるとは言い難がたい場所が多いので、幻悟としてはここの研究所のスタッフの皆に助けてもらっていることもそうだが、この研究所についての不満もないので大満足だ。

「ただいま、奈津希さん。友達連れてきたんだ、所長か三田さんいる?」


 幻悟は見るからに活発そうな沢本奈津希研究員に、当座美奈子所長やノッポ三田主任(愛称)が不在かどうか尋ねる。すると、沢本研究員は幻悟達にこんな返事をしてくれた。

「ちょっと二人は研究材料の買い出しに行っているわよ。一時間前以上前あたりに出かけたからそろそろ帰ってくるんじゃないかしら」

 幻悟の質問に最後まで答えた沢本研究員は、この時に成人と道也の存在に気づいて挨拶をする。

「あら? 成人君、久しぶりね。もう一人の子はもしかしたら道也君かしら?」

 成人は軽く沢本研究員にお辞儀だけする。道也は少しビックリしたので、何で自分の名前がわかったかのかを沢本研究員に尋ねてみた。


「どうしてそう思ったんですか?」

「それはいたって簡単よ。幻悟君の昔からの知り合いの中から名前をカマかけてみただけなんだけどね」

 沢本研究員が話を終わらせたかと思うと、台所の方へ去っていく。何かを用意してくれているような音がするので、予想的にはお茶かジュースとオヤツでも用意してくれているのであろう。

「はい、どうぞ。所長達が帰ってくるまではゆっくりしていましょ。幻悟君はいつもこれ(紅茶)だけど、成人君と道也君は飲み物を自由に選んでね」


 幻悟達三人がそんなに急ぐ必要もないことに気付き、沢本研究員の好意に甘えることにした。幻悟は紅茶を、成人も砂糖を多めに入れた紅茶をもらい、そして道也はコーヒーを頂く。そうこうしている内に、噂の人物達が帰ってきた。


「ただいま。あら? 幻悟。めずらしいわね。お客のお友達が二人も来ているの?」

 買い物帰りの当座美奈子所長はほんの少しだけ意外そうにしていた。沢本研究員に買い出しに出かけていると聞いた通り、機械の部品から何に使うのかよくわからない物まで買ってきているようだ。

「おかえり、美奈子さん。ノッポの三田さんは一緒じゃなかったの?」

「あら、幻悟。彼になんか用事でもあるの? 今すぐにでも戻ってくるわよ」

 噂をすれば何とやらで見た研究主任が帰ってきたようである。当座美奈子所長に荷物を持たされている量が多いせいか、足どりがふらふらしていた。

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