Scene1
「あっ!」
何気なく見ていたタブレットのネットニュースでその名前を見つけ、宮前進は思わず声を上げた。
本当に小さな記事をタップすると、見覚えのある顔が現れた。幸せそうに、研究者だという男の隣で笑っている。
谷月明日美。それが彼女の名前だった。
進は彼女を知っているが彼女は進を知らない。
「へぇ……結婚したんだ」
呟きながらも、進の中で初めて彼女を見た瞬間の映像が広がっていく。
進が明日美を見たのは八年前、まだ高校生の頃のことだった。大学進学をさっさと決め、三学期が完全に暇になった進に、同じ施設で育った舞谷杏菜が小劇場の舞台チケットをくれたのだ。
本当は彼氏と行くはずだった、という杏菜の愚痴を聞きつつ訪れた高円寺の小さな劇場で、進は明日美と出会った。
いや、明日美を見た。
大劇場の芝居と違って独特に少々斜めに世界を切り取った物語に最初は、全くついて行けなかった。隣で夢中で舞台を見ていた杏菜には悪かったが、帰りたいとさえも思っていたのだ。
でも明日美が出てきた瞬間に、舞台に不思議な色が付いた。彼女を中心に緩やかだが確かに世界が息づいた。
彼女は美人ではなく、華があるような雰囲気もない。衣裳だって至って普通だ。それにたいした役では無かった。主役や中心人物から少し外れたところに立っている役だったというのに、明日美は確かに物語の中で生きていた。
彼女が話すと場の雰囲気がほろりとほぐれたり、張り詰めたり、時に暖かくなったりした。
彼女は独特な空気感をまとっていて、その空気感が進にはまばゆかった。
その一挙手一投足に目を奪われ、存在に惹き付けられた。理解できなかった物語が、彼女を通して一本の糸に繋がっていくような気さえした。
舞台が終わった瞬間、最初はあれほど馴染めなかった舞台に惜しみない拍手を送っていた。杏菜は満面の笑みで舞台に連れてきた自分の功績を誇っていたが、その時ばかりはそれに感謝した程だ。
終演後、肌寒い道路に出ると役者たちが見に来た友人知人と楽しげに言葉を交わしていた。
なるほど大舞台に出ている芸能人と違って、小劇場の舞台は人が近いのだ。
それを実感しつつも、視線はいつの間にか明日美を探していた。
彼女はこの劇団に客演していたそうで、杏菜は彼女が好きで見に来たらしい。長い間同じ場所で育ったせいか、男女の性差はあれ、妙に好みが似ているのは、今に始まったことではない。
明日美は一人で、劇場の入り口に立っていた。ただ目立たぬようにひっそりと。
でもその姿は淡く光っているように見えた。
「明日美さんひとりだ。残念、花、持ってくればよかったなぁ……」
本気で悔しがる杏菜の声を聞き流しながら、再び明日美に目を遣る。
その時、ふと目を開けた明日美とほんの一瞬だけ目があった。
大きくは無いが明日美のその瞳は何かを訴えてくる力があった。
惹き付けられるように、劇場の入口に佇む明日美に歩み寄っていた。
目を見つめたまま、何をどう言っていいのかさっぱり分からずに佇んでいると、微かに明日美が首を傾げられて我に返った。
「何ですか?」
穏やかに尋ねられ、進は恥ずかしさに俯いたまま明日美に手を差し出し頭を下げた。
「芝居とか分かんないですけど、あなたの演技がすごかったです。花も何も持ってきてないんですが、握手してもらえますか?」
あまりに不躾だっただろうか。
迷いながら俯きじっと動きを止めていると、手がふわりと温かくなった。顔を上げると明日美が手を握り返してくれていた。何を言えばいいのか分からずただ黙り込んだ進に、明日美はあの舞台と同じように眩く微笑んでくれた。
「ありがとう。とっても励みになります」
たったそれだけのことだ。明日美も覚えていないだろう。
それ以後、進は大学に通いながら仕事を始めたため忙しくなったし、杏菜とも高校卒業後、自然と疎遠になった。月に幾度か食事に行ってはいたが、それすらも彼女が大学卒業と同時に田舎に引き込んでしまってから無くなっている。
芝居を見る事なんて以後一度もなかったが、時折思い出したようにネットで谷月明日美を検索して舞台情報をチェックしてはいた。もはや癖になっていて、今日もいつもの習い性でチェックしてみてこの記事を見つけたのだ。
明日美は決して有名な舞台役者ではなかった。役者たちの世界を氷山に例えるならば、まだ水の下にいると言ってもいいだろう。
でも彼女と結婚した人間の方が有名人だった。
演劇人ではない。最近驚くべき技術の開発に寄与したという科学者だ。これを期に、明日美はこの人物の研究施設がある、奥多摩に越すらしい。
もう役者をやめてしまうのだろうか?
ふとそれを残念に思ったが、一度しか舞台を見に行かなかった進が不満に思うのも間違っている気がして苦笑する。
「進はこれに興味があるんだ。科学者の方? それとも女優の方?」
後ろから声を掛けられて、さりげなくタブレット上に表示されていたネットニュースを閉じる。
「ま、お前も年頃だし、女の方に決まってるよな」
絡んでくる言葉をあっさり無視して、肩をすくめる。
「いえ。ちょっと暇つぶしに見ていただけですよ」
適当に誤魔化すと声の主を振り返った。少々癖の強い天然パーマの頭をした四十代の冴えない中年男が、しまりのない顔で笑っている。彼は谷崎(やざき)徹(とおる)。進の書類上の上司である。
「暇つぶしにしては熱心じゃんか?」
「普通です。ところで谷崎さん、頼んで置いた書類はできてます? 今度、警視庁に提出する奴ですけど」
淡々と告げると、谷崎は慌てて自分のデスクに戻っていく。
「いま、今やってる」
「お願いしますよ、所長決裁なんですから」
進はため息混じりに再びタブレットに目を落とし、専門のパスワードを入力して許可証を持った人間しか入れないサイトにアクセスした。
情報の見出しを斜め読みしながら、冷えてしまったコーヒーをすする。谷崎を微かに窺うと、面倒くさそうに自分のデスクに置かれた端末から書類を書き込んでいる。ようやくちゃんと仕事をしてくれる気になったようだ。
春の風が舞う外を眺めようとガラス窓に目を遣ると、多少古くなってきたこの事務所の看板が目に入った。
『谷崎探偵事務所』それがこの職場の正式名称で、進はそこに所属する探偵である。
名前だけは立派だが所員たった四人探偵は三人という超零細探偵事務所で、大手には全く敵わない。
この事務所に所属する探偵三人の内一人は、運だけで探偵資格を得た、全くの駄目所長の矢崎徹。それから警察OBで、このマンションに住み、死んだ谷崎の父親の昔なじみだという、男やもめの秋塚弘敏、御年六十五歳。最後に大学卒業後、一発で資格試験を通った進の三人だ。
事務員代わりに谷崎の妻、亜都子がいる。谷崎と亜都子の間には幼稚園児の双子がいて、この子たちも事務所に入り浸っている。今日はいないから買い物にでも行っているのだろう。
調度品だって、金がかかっていない事が一目で分かる代物ばかり。所長デスク含め、全部で四つの事務机は、法人用リサイクルショップで買い集めた物だし、古びたソファーは、近所の理容室が閉店するときに譲って貰った物だ。
申し訳程度に置かれている鍵付きの書棚もリサイクル品で、中身は半分も埋まっていない。最近は書類を必要とする事項が少なくなっているから、この程度の本棚で十分なのである。
それでも暇で仕方ないというわけでもない。
探偵事務所と名が付いているだけで最近はかなり忙しく、駆け込みも増えている。人々にとって探偵事務所は現在、法律事務所と並んでかなり身近な物と化しているのだ。
人口の減少、少子高齢化の影響で激減した警察官を民間の探偵業で補うようになってから、もう十六年になる。
法の執行以前は警察関係の仕事に携わることなど無く、得てして恐喝や脅迫等の犯罪の温床と化していた探偵業種だったのだが、法の整備により劇的に変わった。民事事件に介入できるようになると、雨後の竹の子のごとく探偵事務所が増えたのだ。
だが政府も、探偵業が増えるに任せていたわけではない。探偵を名乗るのは完全免許制なのだ。
警察を定年まで勤め上げた人物には無条件で与えられるこの資格だが、普通に習得するとなると、司法試験並の難関を突破せねばならない。そのためか、今のところ許可証のある探偵が社会に溢れたことはない。
完全登録制度となった探偵業は、少々特殊な位置づけにある。殺人や強盗など、今まで警察が第一級犯罪として取り締まってきたものは、今もまだ探偵が手を出していい分野ではない。大規模な詐欺、ネットワーク犯罪、団体規制法がらみももちろん不可だ。
だが今まで警察が民事不介入としてきたものは、ほぼ全て探偵業者に委ねられたといっても過言ではないだろう。
ストーカー、家庭内暴力、児童虐待やいじめ、器物損壊、交通事故調査など、上げてみればきりがないのだが、警察が動くまでもない小さな事件ほぼ全てが、探偵に託されているのである。
大手探偵事務所は、ほぼ専門分野に分かれていた。人間関係専門、交通事故調査専門、子供関係専門、などである。大抵の人たちはそのような大手に駆け込むことになっている。
探偵事務所の件数が増えるに従って、探偵業協同組合が設立されたり、その他諸々の組織も立ち上がって、この業種も立派に世間に認知された存在に至っている。
テレビやネットで探偵社のCMもよく見るし、探偵社二十四時なんていう番組だってある。
当然、認知度が高くなっていくのは大手ばかりだ。そのせいか零細探偵事務所である谷崎探偵事務所に来る仕事は、昔ながらの浮気調査であったり、いたずらをする人を見つけて懲らしめることだったり、物が壊された犯人を捜すことであったりと、便利屋的な部分が強い。
大きな仕事がこない割にこの事務所が成り立っているのは、事務所のあるこの場所が谷崎が父親から相続したマンションの一室であり、この事務所がマンションの管理人を兼ねているからだ。
だが便利屋仕事であっても、物が壊されたことの捜査は立派な器物破損という犯罪である。そのため警察の肩代わりとしての仕事をした場合は、東京都ならば警視庁に届け出る義務がある。
進が谷崎にせっついている書類はそれだ。
「のどかだなぁ……」
進は渋い顔をして書類を睨む谷崎越しに、窓の外に再び目を戻した。
「のどかだねえ……」
秋塚ものほほんと茶をすすりながら呟く。
現在、事務所に立て込んだ仕事もなく、谷崎以外の探偵二人は春の陽気に当てられて、ぼんやりと時を過ごしていた。
強い南風が吹く二〇三六年三月の半ば、そろそろ桜の便りが届きそうだなと進はのんびりと考えた。今年のお花見はどこに行こうかなどと他愛ないことを考えていたのである。
そんなうららかな陽気に包まれたこの日、事件は始まった。
ことの始まりは買い物に出かけていた亜都子が、道に迷った五十代から六十代の依頼人男性を伴って帰ってきたことだった。
客にソファーを勧めた亜都子に睨まれて、所長の谷崎がいそいそとお茶の支度を始めた。
一番の権力者は、実は谷崎では無く妻の亜都子である。
谷崎が戻ってきてお茶を置いたものの、男は黙ったままだった。
こういう時に人に安心感を与えられるのは、ベテラン秋塚だった。彼は四十年という長い時間を、交番勤務で過ごしてきた人間裁きの達人であり、進の尊敬する人物だ。
すがるような谷崎の目に促されて、秋塚はよいしょっとかけ声を掛けて立ち上がった。見た目はロマンスグレーの髪にダブルスーツという男っぷりのいい秋塚も、腰痛はいかんともしがたいらしい。
だが依頼人の前ではそんなことをおくびにも出さず、秋塚は親しげな笑みを浮かべながら依頼人の元へと歩み寄った。
「探偵の秋塚弘敏です。交番のお巡りさんをしておりました。どんな事情か知りませんが、堅くならずにくつろいでください。お茶を冷めないうちにどうぞ。お話はそれからで構いませんよ」
きっちりとなでつけた髪を軽く掻きながら、秋塚が男に穏やかにお茶を勧め、流れるように自然な動作でソファーの向かいに座る。
「人にはまず一息つくという時間が大切です。落ち着いたらお話を聞かせて貰いましょう」
目が合った秋塚に軽く目配せされて頷く。秋塚が大して役に立たない谷崎ではなく、進の方を呼ぶのはいつものことだ。タブレットと冷めたコーヒーを手にして必要以上に身体が沈む古いソファーに座りタブレットを立ち上げる。
お茶くみ係と化した谷崎は、渋々とキッチンからコーヒーポットを手にやってきて、進のカップに継ぎ足してくれた。亜都子は子供たちと一緒に、扉の向こうにある自宅に消えている。一人暮らしの進や秋塚の分も夕食を作ってくれるから、本当にありがたい。
進は目の前に座る男を、じっくり観察した。男の視線は何かを探るように部屋の中をさ迷っていて、こちらの視線には全く気がついていないようだ。いや、辺りに気を配る余裕すらないのかもしれない。
伝説の名探偵シャーロック・ホームズではないから、観察したところで進が読み取れることなど少ない。分かることといえば、見るからにやつれた頬にはそり残しの髭がまばらに生えていて所々が長くなっていることと、黒ずんでしまった目の下が黒く濃い隈になっているから眠れていないだろうということぐらいだ。
それ以外男に特徴と言える物はなかった。背広はくたびれているが異常な様子もなく、しわの刻まれたシャツはアイロンを当てていないことが明白だ。
つまりこの男には髭やシャツに気を遣ってくれるような同居人はいないし、身なりに構っていられるような余裕もないということだろう。隣にいる秋塚も男やもめだが、彼はかなり身なりに気を配っていて、自らのダンディズムを貫いているため身ぎれいだ。
秋塚に倣って黙っていると、依頼人はそこに答えがあるかのようにじっと見つめていた湯飲みを、微かに震える手で口に運んだ。
こちらを窺う視線、微かな気配に振り返る動作。彼は明らかに何かに怯えている。
しばらくすると、男は今にも消え入りそうな声で笹井和志と名乗った。言葉が続かない男に、それでも秋塚は小さく頷いて続きを待つ。進や谷崎ならすぐに依頼を聞きたくなるところだが、秋塚は絶対にそうしない。とにかく待ち、相手から言葉を引き出そうとする。
事務所の中をせわしなく見渡し、怯えたように探偵たちを見渡した笹井の目は、訴えるように秋塚に戻る。でも秋塚は穏やかな微笑みを浮かべてみているだけだ。
やがて相手から問いかけてもらえないことを理解した笹井がおずおずと口を開く。
「娘が自殺しました。巻き添えで妻と息子と義母も死にました」
「……それは……お気の毒に」
沈痛な面持ちで、人生相談の神との異名を持つ秋塚が相づちを打つ。それに安心したのか、笹井はすがるように秋塚に打ち明けた。
「私にはもう身内は誰も残っておりません。ですから私の全財産を差し出してもいいから、原因を見つけて欲しいのです」
重苦しく真摯な依頼だった。秋塚も小さく息をつき、同情心に満ちた表情のまま聞き返した。
「心当たりはありますか?」
「いえ……」
「病気、ストーカー、失恋、いじめ、セクハラ、パワハラなど自殺の原因は様々ですが、主に人間関係をです。娘さんの異変について気がついたことはありませんか?」
一般的に自殺の原因調査と言うことになると、この辺りが打倒だ。だが笹井は頷かず、代わりに妙なことを言い出した。
「元々娘は病死ですし、その頃の人間関係は良好でした。ですが自殺した娘には人間関係がありませんでしたので、こじれる可能性は万に一つもありません」
「はあ……」
曖昧な相づちを打った秋塚にも気がつかず、笹井はじっと自分の膝を見ている。そこには握ったり閉じたりとせわしない動きをする手があった。
まるでそこに何かが書かれているかのように顔を上げず、笹井は言葉を続ける。
「私たちはそれはもう、娘を大切にしていたので、自殺するわけなど無いのです。せっかく授かった奇跡なのに、再び亡くすなんて」
聞けば聞くほど妙だった。元々の娘と自殺した娘が違うらしい。だが笹井は明らかに一人の娘のことを語っているのだ。
「失礼ですが、娘さんは何人いらっしゃいますか?」
徐々に興奮しつつある笹井に、困惑した顔で秋塚は頭を掻く。
「一人です。娘は二年前と、一月前、二回死んでいるのです」
「は……?」
滅多なことでは驚かない秋塚が、言葉を失っている。聞き役に徹していた進でさえ、タブレットに走らせた指が滑り、関係ない所にアクセスしてしまう。不意に大きな音で、今話題のアイドルの音が飛びだし、慌ててメモ機能に戻した。
だがそのミスが功を奏し、笹井の緊張がほぐれてゆく。ただでさえも落ちている肩を更に落として、笹井はしわの寄った背広のポケットから、ジッパー付きの袋に入った、黒いプラスチックの塊を取り出した。
「これが、娘です」
震える手で笹井が滑らせたそれを、秋塚が受け取った。その手元を覗き込む。
長方形の箱形をした黒いプラスチック片は横長で、長い方で十五センチほど、短い方で七センチほどだった。壊れた部分から、箱の中にぎっしりと詰められた金色と緑の物が覗いている。この箱の片側に複雑な金色の突起が無数に出ていて、接続できるようになっているようだ。
どこかで見たことに気がつき、進はタブレットに素早く指を滑らせて検索し、表示された画像を秋塚に差し出す。
「これヒューマノイドの人工知能用の記憶回路だと思います」
「それはヒューマノイドを動かす部分ってことかい?」
「ええ。これがないと動かないのは確かですね」
秋塚は年相応に機械類が苦手である。進だってこの間ヒューマノイドの特集をテレビで見ていなければ分からなかった。
「でもこれは市販の物とずいぶん違います。かなり大きいや」
現在市販されているヒューマノイドは、職種により大まかに四タイプに分けられている。
肉体労働用ワークノイド
家庭用ホームノイド
介護・医療用メディカルノイド
そしてサービス業・性愛玩用セクノイド
すべてタイプごとに基本の行動パターンがあり、それにそって等しく動作する。
他にブレイン・インター・フェイスを利用した遠隔操作型ロボットもあるが、こちらは端末の向こうに人間がいるためヒューマノイドと定義されていない。
これらヒューマノイドは一昔前のパソコンのように、好みにカスタマイズできる。各社基本のオペレーションシステムは変えられないが、好みで様々なアプリケーションを購入してインストールするシステムだ。
その度にヒューマノイドが成長していく。
その上、ヒューマノイドには環境によって様々な経験を蓄積していく記憶回路が別に組み込まれている。まっさらで送り込まれたヒューマノイドが、起動した場所に合わせて成長していくのだ。むろんクラウド上にバックアップを取り、本体を交換するごとにデータを移植することは可能だ。
プライベートな内容が含まれる記憶回路は、使用者が自分で操作する必要がある。これを抜いてしまえば、ヒューマノイドは出荷時の状態に初期化される。だからヒューマノイドの身体を変えても、データは移植することが可能だ。
とはいえヒューマノイドを持つのはまだ少数の富裕層家庭で、持っていたとしても、アプリの更新と記憶回路の取り外し以外に触れる人はほとんどいない。ヒューマノイドの中身はブラックボックスで、テレビを見ても分解する人がいないように、中を知ろうとする人は少ない。
機械系に弱い進にはそれぐらいの知識しかないが、この記憶回路を持っている笹井が言っていることが分かってきた。
「つまりあなたは娘さんの死後、ヒューマノイドを娘として可愛がっていて、それが暴走事故を起こした。そういうことですね?」
同じ結論に達した秋塚の言葉に頷く。それしか考えられない。ヒューマノイドに何らかの不都合があって、大事故に陥った。これが笹井の語る事件なのだろう。
だが笹井は首を振る。
「いえ。娘は自殺したのです」
「ですから、ヒューマノイドでしょう?」
相手を見つめながらたたみ掛けた秋塚に、笹井は一瞬身を引き、唇を噛みしめてから頷く。
「はい、ヒューマノイドでした」
「でしたら、機械専門の探偵事務所に赴いては? 業者への賠償請求専門のいくつかの探偵事務所を紹介できますよ。我々ではヒューマノイド暴走事故のメカニズムなど調べようがありませんから」
秋塚の当然の結論に、進はタブレットのメモ機能を閉じて探偵業者専門ページにアクセスしようとした。
秋塚の言うように、これ以上この事務所で関われることはない。
「それは困るんです。無理なんです!」
俯いたまま笹井が絞り出すように呻いた。秋塚はテーブルの上に手を組み、笹井に向かってほんのわずかに身を乗り出した。
「何が無理なんです?」
「そんな事務所に行ったら、私は犯罪者になるかもしれません」
深刻な笹井に、秋塚は声を潜めた。
「犯罪者?」
「はい。ヒューマノイドは、娘の記憶をもっていたんです」
進は耳を疑った。そんな技術はまだないはずだ。
ヒューマノイドの記憶は、電子回路に経験を記録することに他ならない。そこに蓄積されるのは、そのヒューマノイドが作られてからの経験であり、あくまでもデータに過ぎない。そこに人間の記憶が入ることなどあり得ない。
そもそもヒューマノイドに実在の人物の記憶を持たせる行為は、禁じられていたはずだ。
倫理面からの問題点も多々あるが、宗教が重要性を持たない日本で一番恐れられているのは、法的手続きの問題だった。
ヒューマノイドに記憶を移植し、永遠に生き続ける人物を扱う法律が定められていない。
脳死を死とした法律とは逆に、脳だけが生きている場合、それを死とするのか。
死とした場合、遺産は現状の法律通り処理されるのか、それとも本人が引き続き財産を持ち続けることができるのか。
そんな些細な事であっても、記憶を持つヒューマノイドの存在は、法的矛盾に満ちている。
「そんな馬鹿なことが……」
疑いの目を向ける秋塚に、笹井は反論する。
「本当です。一緒に暮らしていたが、あれは娘でした。幼い頃のことも、成長してからのことも、全てよく覚えていたんです」
身を乗り出し、血走った目で秋塚を見据えながら、笹井は唾を飛ばす勢いで言葉を吐き出す。
「多少の違和感は仕方ありません。でも死んだ娘がそこにいてくれる事が、どれだけ家族の慰めになったか。娘を取り戻すためだったら、私はいくらでも払う、どうなろうと払いますよ!」
「だから犯罪にも手を出した?」
冷静な秋塚の言葉で我に返ったのか、笹井はソファーに座り込んで頭を抱えた。
「ですから、大手にはいけないのです」
「この事務所なら、違法を見逃すと?」
真摯に言葉に重みを持たせた秋塚に、笹井はみるみる青ざめた。
「そういうわけでは……」
「では何故この事務所に? ここなら違法を見逃して、あなたの手助けをすると?」
「違います! 私はただ、同じ立場の人を探して欲しいだけなんです。違法所持を責められて本来の願いを叶えられないのではと思うと、大手には行けなかった。あなたたちを軽んじたわけじゃ無い!」
必死で言いつのる笹井の言葉に嘘はなさそうだった。秋塚もそう感じたのか、静かに頷くと、笹井に話を続けるようにと促す。
「その方たちを辿って、家族の自殺に巻き込まれるないように、事情説明をして欲しいんです。これを見てください」
笹井が取り出したのは、家庭用パウチ袋だった。その中に幾度も見直したのか、しわが寄ってしまったらしい小さな新聞の切り抜きが入っている。時代はデジタルに移行しても、未だに新聞を紙媒体で取る人は少なくない。
震える手でテーブルに六つの切り抜きを並べ終えた笹井に促されて、秋塚が手に取った。進も身近にあった一枚を手にした。
活字に目を走らせて言葉を失った。そこに並べられたのは、ヒューマノイドの暴走事故の記事だったのだ。隣の記事に手を伸ばし紙面に目を走らせても、すべてが同じような内容だ。
記事全ての共通するのは、地方紙であり扱いがあまりに小さいことだろうか。
唯一大きい記事に、笹井の名があった。
人間が巻き込まれたため大きく扱われてはいるが、ヒューマノイドの安全性に関する記者の見解が載っている以外、報道の中身は大して変わらない。
切り抜き全てが判を押したように、ヒューマノイドの記録回路の故障による事故と結論づけている。
事故を起こしたヒューマノイドは全てホームノイドかセクノイドを改造した物で、メーカーに責任はないとある。この二つのタイプは性質上、改造する人が非常に多く、機械の誤作動による事故は昨今珍しくない。
結局ヒューマノイドは警察に調べられることもなく、内々に処理されているようだ。
いくら人の姿をしていたとしても、ヒューマノイドは高級家電に過ぎず、個人の所有物でしかないのである。それを改造すれば、事故が起こっても全て持ち主の責任だ。
それにどの事故も家庭内で起きており、警察に通報したのは、騒ぎの物音を聞きつけた隣人で、家族が通報した例は一つも無い。
現に警察によって調査されたのは、笹井が娘と呼ぶ一体のみで、結論として警察は整備不良だと発表したらしい。おそらく電子頭脳の回路を、警察が来る前に笹井自身が市販の物と取り替えたのだろう。
そうでなければここに、笹井が娘と呼ぶヒューマノイドの電子頭脳回路が存在するはずないからだ。
「警察でも原因は不明でした。おそらく私がとっさに隠した記憶回路が鍵になるでしょうが、これは娘ですから手渡せません。娘をこれ以上傷つけたくありませんから」
壊れた記憶回路を愛おしげに、でも苦痛を堪えるように撫でながら笹井が呟く。
「どのようなカスタマイズを?」
「セクノイドをカスタマイズし、人間と遜色ない人工皮膚を貼りました。顔は娘とうり二つです。あれはとてもよく出来ていて、人間じゃないとは思えなかった」
顔を覆う笹井に、進は言葉も無い。研究施設に置かれた精密なヒューマノイドを除けば、セクノイドが最も人間に近いと言われている。
性的用途のために、透明感を持った人間と遜色ない柔らかな肌をしていて、触れれば体温を感じられるように出来ているそうだ。声帯も機械の合成音ではなく人間に近い。
時折廃棄されたセクノイドが人間の遺体と間違って通報されることもあり、警察や探偵には、見慣れた存在だ。
しかも所有者は恐ろしく人間に近いカスタマイズに凝る人が多いタイプなのである。そのほぼ人間であるヒューマノイドが娘の顔をして笑っていたのだから、暴走をされたらたまらないだろう。
「娘さんの顔をしたヒューマノイドの暴走でご家族が命を落とされたとなると、さぞお辛かったでしょうね」
相手を慮るように優しく微笑んで肩を叩いた秋塚を、笹井は顔を上げて睨み付けた。
「娘は暴走したのではなく、自殺したんです!」
興奮気味び笹井はそう断言した。その根拠が分からない。
「あなたは自殺である証拠を持っておいでのようだが、それを示してもらえませんか?」
ゆるりとした手つきで切り抜きを元の場所に戻した秋塚に、苛立ったように笹井は先ほど切り抜きを出した袋の口を開け、中身を全てテーブルの上にばらまく。
それはあちこちに赤茶色の染みができた紙と、幾枚もの写真だった。
「これで信じてもらえますか」
言いながら笹井はその紙に拳を叩き付ける。挑みかかるように睨み付けてきた笹井の手の下から、秋塚はそっと紙を引き出した。
身を寄せて覗き込んだ進は息を飲んだ。
『これは私じゃない。私じゃない私はいらない』
「もしかしてこれは……」
静かな中に微かな驚きをにじませて、秋塚は笹井を見つめ返す。
「娘の遺書です」
「ヒューマノイドなのに……遺書?」
黙っているつもりだったのに、つい疑問が滑り出した。
「はい。新聞に載っていた人たちにも連絡を取ったら、皆事故ではなく自殺だと言いました。全員が、似た遺書を残していました」
「では他の件も……自殺?」
「だから最初から言っているでしょう! 自殺だって!」
そういうと笹井は五枚の写真を苛立たしげに叩く。そこには全て、同じような言葉が記されている。
『私じゃない私は、いらない』
どういう意味だ? ヒューマノイドは何故この言葉を残した?
先ほどから所長の椅子に座ってこちらを窺っている谷崎を見ると、彼もまた呆然とこちらを眺めているだけだった。現在の常識では考えられないことなのだ。
人間に逆らうことなどできず、表面上は心あるように振る舞うホームノイドであっても、心など存在しない。ただプログラムのまま彼らは動作を続けているに過ぎないのだ。
その動作の中に自殺などが存在するわけがない。
でもここに遺書が存在する。しかも六枚もだ。
確かにこのヒューマノイドには『死にたい』という『意識』があった。そして笹井はそのヒューマノイドには、娘の記憶があったという。
進は改めて粉々になった電子頭脳回路を見つめた。この小さな中に、人間一人分の記憶が入っていた。
だがヒューマノイドがその人物として生きていたなんて、あり得るのだろうか?
「理由を聞こうにも、壊れた頭脳回路では、娘は永遠の眠り姫です。他の五体も全て頭部を破壊して死んだそうです」
「なるほど。あそこまで壊れてしまえば、起動できないでしょうね」
秋塚と笹井の会話を耳に入れながらも、進はタブレットを操った。記憶を写し取り、ヒューマノイドに移植する。そんな情報がどこかに転がっているだろうか。
もちろんSFの話ではない、現実の話だ。素早く幾度も検索を繰り返すと、ある噂話に行き当たる。
記憶を電子頭脳回路にバックアップすることで、脳の機能障害を救える時代が来るかもしれないという噂だ。現在その研究をしている研究所がいくつか存在し、そのうちの一つは、完成に限りなく近づいているというのである。
例として挙げられた研究所の名前一覧を辿っていた指が止まる。見覚えのある名前だった。進は先ほど退屈しのぎに眺めていた記事を慌てて呼び出す。舞台女優谷月明日美の結婚相手が画面上に現れた。
福嶋脳科学研究所・所長 福嶋隆。
妙な偶然だ。
軽く顎をつまみつつ、進は画面を見つめた。
朗らかに笑う明日美の横で、三十代とおぼしき背の高いスーツ姿の男が笑っている。これが福嶋隆らしい。
この人物に話を聞くことができれば、笹井が言うことが本当に可能かを知ることができるだろう。依頼を受けるにしろ断るにしろ、ヒューマノイドに人間の記憶を移植するその研究には興味がある。
考えながらタブレットを軽く指で叩いていると、突然目の前の笹井がソファーから降りて床に座り込んだ。そして深々と床に手を突いて頭を下げる。
「ちょっと、笹井さん、何を……」
焦って立ち上がった秋塚に向かって、笹井はその姿のまま叫んだ。
「お願いです! 私と同じように、大切な人を亡くして、再生させた人を探してください。その人達に何か妙な兆候はないのか、作った人間から何かを説明されていないのかを問いたいんです」
「笹井さん、顔を上げてください」
「引き受けて貰うまでは上げません。私たち家族は娘が生き返ると聞いたことで舞い上がり、ろくに説明も聞いていなかった。私のせいで娘が死んだなら、娘を殺したのは私だ。違うなら、何が娘を殺したのか、どうして娘は家族を巻き込んで自殺しなければならなかったのか、それを知りたいんです!」
あまりに悲痛で真摯な態度に、秋塚は困り果てたように頭を掻き、谷崎を見てから、こちらに視線を向けてきた。言葉など出るわけも無く、進も困惑して首を振る。
例え引き受けたとしても、秋塚も進も機械には疎すぎてヒューマノイドがらみの依頼を受けるのは不可能なのだ。かといって専門家がいるような探偵社が違法なヒューマノイドに絡んだ事件を引き受けるわけなど無い。
何しろ大手探偵社は信用第一だ。
「探偵事務所はあちこちにあるのに、何でうちなんです? 事件の記事を見ても、あなたの自宅からこの探偵事務所は近くない」
テーブルに置かれたままの笹井の記事を手に、秋塚がため息をついた。先ほどの記事に記された事件現場は、ここから乗り換えも含めて一時間以上かかる計算だ。たまたま通りかかって尋ねるような場所ではない。
「この事務所を紹介してくれた人がいたんです」
顔を上げぬままの笹井に、進は秋塚と顔を見合わせた。
「うちは有名でも何でも無いのに?」
「はい。ネット上であちこちにヒューマノイドの情報を求めていた時、元研究者の方が手伝ってくれていて、その方がここなら断らないだろうと……」
こんな有名でも何でも無い弱小事務所を紹介した人物に、心当たりなどあるはずも無い。ヒューマノイドに関する依頼など一つも引き受けたことは無く、ますます困惑が深まるばかりだ。
「どんな風に紹介されたんです?」
尋ねた秋塚に、笹井は微かに顔を上げた。
「谷崎探偵事務所の宮前進を頼ってみろと……」
不意を突かれて進は言葉に詰まった。
「……僕……?」
「彼ならきっと、家族を目の前で失う辛さを知っているからと」
何も言えずにタブレットに軽く爪を立て進は目を伏せた。力を込めた指先がすっと白くなり温度を失っていく。
その人物はどうやら進の生い立ちを知っているようだ。
進には両親はいない。
進がまだ幼い頃、喫茶店をしていた両親は強盗犯に殺されたのだ。他に身寄りが無かった進が育ったのは、東京都下の児童養護施設だった。
「お願いします。こちらに断られたら、もうどこをすがっていいのか分かりません」
床に頭をこすりつける笹井の前で立ち尽くした二人の耳に、救いの手が差し伸べられた。
「やっぱりこんなことになったか」
はじかれたように視線を向けると、探偵事務所の入り口に男が立っていた。
平日のこんな時間にパーカーの上にダウンを羽織った、明らかに勤め人とは言えないような格好をした男だ。身だしなみを整えることに興味が無いのか、髪もろくに手入れされておらず、癖が付いたまま放置されている。
「あの……」
声を掛けようとした進だったが、男に微笑まれて言葉を飲み込む。見知らぬ人物ではないとすぐに気がついたからだ。
「俺が紹介したんだ。知ってる探偵なんて一人しかいないからな」
見覚えのある顔が皮肉な笑みを浮かべた。途端に時間が巻戻ったかのように脳裏に昔の彼の姿が浮かんだ。懐かしくて変わらない表情の男に頬が緩む。
「久しぶりだな、進」
男の呼びかけに笑みがこぼれた。
「幸(ゆき)兄!」
そこにいたのは、進と同じ児童養護施設で育った小西由幸(よしゆき)だった。彼ならば進の生い立ちを知っている。
「どうしてここに?」
「笹井さんを案内してきたんだが、信じてもらえないんじゃないかって気になってな。もめてるから扉を開けてみたら案の上だ」
肩をすくめた小西は、進よりもずっと年上のはずだ。それなのにこんな表情を見ていると、昔と変わらない兄貴分で嬉しくなる。
「何でまた幸兄が笹井さんにアドバイスを?」
問いかけに小西は表情を引き締めた。今までの皮肉な表情が消え、気遣わしげな表情が浮かぶ。
「俺も元はその辺りの研究者だったから、この事件は気になる。好奇心と言ったら失礼だけど、それに近い。でも俺には探偵資格はないから、唯一知っている探偵であるお前を頼ったってわけだ」
「なるほど……」
施設にいたときの小西は、非常に頭がよかった。少々皮肉屋で冷たい印象はあっても、進はそんな小西によく懐いていたのだ。
それを覚えてくれていたから、探偵が必要になったときに頼ってくれたらしい。
そういえば研究者になったと、施設の寮母から聞いていた。
「こういっちゃなんだけど、研究者としてこの事件に興味がある。他の探偵者がこの依頼を引き受けてしまうと、情報開示を要求しても無駄だろう?」
「それってどういうこと?」
「分からない部分はバックアップする。だから笹井さんの件、引き受けてくれ。俺は興味を満たすことができ、笹井さんは目的を達することができる。一石二鳥だ」
断られるなんて思ってもいないという自信に満ちた笑顔で、小西が微笑みかけてきた。本当に昔と変わっていない。
「違法を見逃せって事?」
「いいや。でも違法改造ヒューマノイドはちまたに溢れてる。電子頭脳回路の違法は珍しいけど、たいした罪にならないさ。だとしたら全容が解明してから申請しても遅くないだろう?」
確かに、ヒューマノイドに関しては一理ある。
「秋塚さん、どうします?」
一番年下の進に決められるわけなど無く、秋塚に尋ねると秋塚は苦笑しながら谷崎を見た。
「どうしましょうかね、所長?」
進と秋塚と小西の三人に見つめられ、しかも床には笹井が土下座しているという状況に、谷崎の視線が目まぐるしく動いた。
「所長判断ですよね、確かに」
深々と頷くと、谷崎は大げさにため息をついて、癖の強い髪をかき回した。谷崎は口が悪く、怠け者で仕事ができないが、本当に困っている人がいたら放っておくことができない性格なのだ。
だからいつも最終的に依頼を受けるか否かは、谷崎に託されている。常に軽んじられている谷崎に与えられた、唯一無二の所長権限だ。
「分かったよ、許可するよ! すりゃあいいんだろ」
ふてくされたようにそういって、谷崎は契約書を放り投げてきた。年を感じさせない動きでそれを受け取った秋塚は、床に土下座したままの笹井の肩に手をかけた。
「笹井さん、契約成立です。さ、サインをどうぞ」
「あ、ありがとうございます!」
拝まんばかりの笹井をソファーに勧めた秋塚が、契約書を読み上げている。
それを横目に進は小西の隣に並んだ。
「だって。ここまで読んでたんだよね、幸兄」
「当然。谷崎探偵事務所の弱点はネット上で有名さ」
「うわあ。気をつけようっと」
大げさにおどけると、昔のように小西が笑った。
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