第2話 覚醒
終わりを知らせるチャイムが鳴り、教室全体が一気に騒がしくなった。
帰り支度を始める真面目そうな男子。ひとりの席に集まっておしゃべりに花を咲かせる数人の女子生徒。黒板に寄って行ってホームルーム中に書かれた文字を消し始める日直の二人。
それぞれがそれぞれで放課後を楽しんでいる中、微動だにせず机にうつ伏せている男子がひとり。――窓際の最後尾、左手から西日が差し込む席に座る彼は、自分の腕を枕にして穏やかな寝息を立てている。
ざわめき騒がしい教室内で、彼の周囲だけが異質なほど静かだった。誰も彼のそばに近づこうとせず、誰も彼を起こそうとしない。真っ黒な髪を夕日にきらめかせて、彼は未だすやすやと眠る。
と、そこにひとりの男子がクラスの出入り口からひょこりと顔を出した。染められ傷んだ金髪を揺らし、その人は手近にいた女子に声をかける。
「よっ。なあ
「……
女子が指差したほうに目をむければ、未だすやすやと寝ている男子――
金髪の彼はそれを認めると、女子に一言お礼を口にし、教室に入る。他クラスの人物が入ってきたためか、周囲の視線が一瞬金髪の彼に集まるが、その人を認めるとすぐに視線は散っていった。どうやら彼がここにくるのはよくあることらしい。
迷いない足取りで
「ほら、
「ん、んー……」
ようやく顔を上げた君尋は、未だ寝ぼけ
「そーですよ、
もう一度寝直そうとする
そこでようやっと、
「……カエルみたい」
「首、首しまってんだっつの!」
未だネクタイを掴む
――一瞬、教室のざわめきが静かになった。
かと思えば、またなにごともなかったように生徒たちは会話を再開する。君尋はほんの少しだけ困ったようにまゆを寄せたが、それすらも彼の鋭い目つきに拍車をかけ威圧感を増すだけだった。
「ほんっとキミちゃんてば、損な顔立ちしてんのね。入学して一ヶ月経つっしょ。ダチくらいできないもんなの?」
「できないもんみたいだな。ご覧のとおりだよ」
「なるほど。爆睡しても起こしてもらえないとか、そーとーね、それ」
ふわふわと柔らかそうな金髪を揺らし、着崩した制服の胸元を掴みながら、
机の中から筆記具や教科書類を抜き出してかばんの中に詰め込みながら、不意に「夢を見たんだ」と、
「ずっといたい、いたいって繰り返してる夢」
「なにそれ、どっか怪我でもしたの」
「……さあ。分からないけど」
「ふぅん、変な夢見たのね」
それきり二人は口を閉ざした。
教室に残っている生徒ももうだいぶ減っていて、放課後特有のざわめきも少なくなっている。それでもどこかのクラスにはまだ人がいるようで、遠くから誰かの笑い声が響いてきた。
すべての中身を移し終え、
「あ、おい!」呼び止める勢いそのまま、
「
「かばんは生きてないだろ、討ち取ったってなんだ!」
驚きが未だ抜け切らない
廊下にはまだ
「…………」
なんとも言えない気持ちになり、
出てきそうになったため息を飲み込んでから、ぐるりと周囲を見回し
少し離れたところの、黄色い塗料が塗られた階段そばにある柱の影から、たんぽぽのような金髪がふわふわと覗いているのを見つけた。
「おい
凄みを利かせて呼びかけると、廊下で楽しそうにしていた女子生徒らが逃げるように自分の教室へ引っ込んでいった。それを見た
と、柱の影からひょこっと
「俺のかばん返せよ」
「えー、どーしよっか〜な〜ぁ」
彼はそのまま二人分の荷物を背負い直すと、
「捕まえてみやがれってんだー!」
声はどんどん降りていく。途中、先生が「走るな
ひとり残された
校門付近でにやにや笑いながら待っているであろう友人になんと文句を言ってやろうかと思考を巡らしながら、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます