信長さん

はいむまいむ

序章

天正十年六月二日 京都 本能寺


「やっぱ、死ぬのかな、俺」

寝込みを襲われた。本当に、寝ていたのに何なんだよ。

敵にいま包囲されていて、なんかもうすごい剣幕で攻め込もうとしてるよ。最悪だよ。俺、悪いことした・・・まぁ、してきたけれども、こんな風に死ぬとは思ってなかったよ。

やだよ、もう少しさ、いい感じで死にたかったよ。理想としてはさ、天下統一してさ、織田幕府作ってさ、いろいろな南蛮文化とか取り入れてさ、こうなんだろう、今までの日本とは違う景色を見ながら死にたかったわけさ。

それが、今俺は、敵に包囲されながら、死ぬのを待っているわけじゃないか。もう最悪だよ。こんなの期待してないし、待ってもなかったよ。それにさ、包囲してるやつってさ、光秀じゃん。みっつーじゃん。なんなの、みっつーそんなに俺のこと嫌ってたの? 知らなかったよ。ストレスが一気に爆発するタイプなのかな? うわー、まじないわ。何なんだよあいつ。三日月持ってきたときは超いいやつじゃん、最高じゃん、って思ったのにさ。こういうのって、ものすごい裏切りだよ。

ったくよ、どうしようかな。このまま、みっつーに殺されるのも嫌だし・・・そうだ! 火放と! やっぱし今まで散々派手にやってきたんだから、最後ぐらい派手に散ろうかな。うん、やっぱし俺ぐらいの人間だとそれぐらいの心意気がないとね。

よし、善は急げだ。さっさと火を放と! 早く燃やしちゃってね、みんな。



――

ちょっとずつ、苦しくなってきた。あいつら近づけねーでやんの。

でも、こんな風に苦しんで死ぬなんてつらいんだな・・・。延暦寺の奴等も苦しかったのか。ちょっとだけ、反省してみよう。死ぬんだしこれぐらいの反省は・・・? はっ!?


ちょ、ちょっ待てよ。服燃えてんじゃん、あっ、あち、あっつん!あち。


やばい、あっ、あっ。あばばばばぁ・・・・・


※※※※

平成二十七年一月二日  秋葉原米宮第七ビル地下三階 地下秘密基地アイカフェ 秋葉原店

「みんなーっ!今日は来てくれてありがとー」

『おーっ!!!!!!』

周りから漂ってくる汗のにおいが、昔の記憶を思い出させてくる。昔はこの臭いともう一つの臭いが混じり合って、俺を興奮させてくれたが、今はこの汗のにおいだけでも最高になれる。一週間バイトを頑張った俺に、天から与えしご褒美だよこれは。勿論、俺は匂いフェチじゃない。一番の興奮はこの、俺が推しているアイドルたちのライブを見ていることだ。

この子たちはまだ日の目を帯びていない、いわゆる地下アイドルというアイドルたちだ。俺はどうもテレビに堂々と出て、つまらない話をしているアイドルを好きになれない。人気があるのは百も承知の話だけれども、「テレビに出ている私ってカワイイ!」とか「みんなが私の事を見ている!」みたいなことを思っているという事を、考えるだけ殺意がわいてくる。

アイドルなんだから歌を頑張っていればいいのに、無駄にバラエティに出てみたり、無駄にドラマに出てみたりもう・・・君たちは芸人か女優なのか? 違うだろ? 君たちは、歌を歌うために、踊るためにアイドルの道を進んできたんだ。アイドルの道の最後にあるのが芸人と女優ならば、芸能界のほとんどがアイドルということになってしまうだろ。訳が分からないよ。

とにもかくにも、僕はこの子たちがデビューした時から応援してきている、古参のファンなのだ。だからこそ、ファンはもちろん、アイドルの子たちとか関係者とも面識が生まれてきてしまった。今の時代アイドルというものは決して遠いものではない。今の時代だからできるアイドルというものを俺はしっかりと堪能したいと思う。


「今日はこれで終わりだけれども、またみんな見に来てね~!」

『うぉぉぉぉーーっ!!!!』


どうやら今日の宴もこれで終わりらしい。さて、家路につくとするか。


家路につくか・・・。今の時代にかまえている家というのは、昔に比べたらずいぶんと小さくなってしまったが、とてつもなく便利になった。寒ければ暖房をつければいいし、暑ければ冷房をつければいい。それに、食べ物を腐らせる心配もないし、なにしろ布団が快適だ。町は治安がいいし、交通機関は便利だし、最高だよ。はぁ・・・。


「ノブさん。ノブさん」

後ろから俺を呼ぶ声が聞こえる。向いてみると、そこには外国人がいた。

「なんだ、ジョンか」

彼の名前はジョンだ。まぁ、この世界じゃ一番の親友といっても過言ではないだろう。アメリカ人で未来からやってきたらしい。詳しいことは知らないがいろいろあって三年前にこいつと知り合った。

「ノブさん、明けましておめでとう。今年もよろしくです」

「うん。よろしくな」


そうか、もう三年もたつのかここに来て。自分の体が燃えたと思って気絶して、目が覚めたらビルがバンバン建ってる世界なんだから最初はびっくりしたよ。その時は公園で寝てたし・・・。

今となってはその時の驚きが嘘みたいに、この世界に慣れ親しんでいるけれども、本当に着た時はびっくりしたんだぜ。そうだな、まずはそこから語っていこうかな。なんか今日はいろいろと思いだしたい気分なんだよ。まぁ、付き合ってくれよ。

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