第95話 海戦 20


    ◆





「くっ……」


 カズマは苦戦していた。

 ブラッドのジャスティスと対峙している。

 あのジャスティスの中にはコズエがいる。

 もう手を伸ばせば届く距離にいる。

 だが、相手は強い。

 まるで歯が立たない。

 二刀流を捌いて防御するだけで手いっぱいだった。

 もしこれがライトウだったら、捌いた上で攻撃に転じ得ただろう。

 もしこれがアレインだったら、回避した上で相手の意表を突く手を本能で実施しているだろう。

 もしこれがミューズならば、相手の情報を吸い上げて適切な動きをしているだろう。

 だが、自分には何もない。

 少し、相手を薙ぎ倒しただけで強い気になっていた。


 ――しかし。

 彼は決して諦めない。


 諦めればコズエの命がない。

 自分の命などどうでもいい。


 コズエ。

 可愛い妹。


 施設が襲撃される前から、色々と不幸な環境であったカズマがこれまで生きて来れたのは、コズエが傍にいたからだ。

 コズエが――兄と呼んでくれたからだった。


 だから諦める訳にはいかない。

 今まではすぐに諦めていた。

 どうせ才能には勝てない。

 その思考が全てを支配していた。


「――そんな考えは捨て去れ!」


 吐き出す様に考えを口に出す。


「コズエを助ける為に全神経を集中させろ!」


 鼓舞する。

 逃げ出さない。

 集中しろ。

 集中しろ。


「コズエ……コズエェエエエエエエエエエエエエ!」

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