第93話 海戦 18
クロードのからの反応は無かった。
当然だ。
クロードから返事が出来ないのだから。
それでもクロードならば、唐突に現れてあっという間に相手を圧倒して制圧してこの場を収めてくれるかもしれない――そう思ってしまった。
だが、現実は非情だ。
そんな空想上の出来事は起きない。
クロードが一瞬で現れることなんて、出来やしないのだから。
(……無理ですよね)
コズエはそこで諦めの息を吐く。
クロードが自分の願いを聞き入れたとしても、海岸に姿を見せていない今、この戦いまでに海上のこの二人の所まで行くのは不可能だろう。
であれば、どうすれば兄を救えるか。
両手を縛られ、コズエは動けない。
ならば、やるとしたら一つだけ。
やれることは一つだけ。
「……」
コズエはじっと集中する。
集中先は、ブラッドの頭の中。
ブラッドの頭の中の状態をカズマに伝えること。
カズマに勝ってもらうことしか、最早カズマが生きるすべはない。
「行くぞ!」
その時、ジャスティスが動くのを感じた。
目の前のモニタにいる相手ジャスティス――カズマのジャスティスが迫ってくる。
お互いが交錯する。
ガキィイイン!
ブラッドのジャスティスが右手で持った短めの剣で横から払い、それをカズマが受け止めていた。
――だが。
「甘い!」
直後、カズマのジャスティスが距離を取らされる。
その理由は、ブラッドの左手からの攻撃だった。
短剣。
ブラッドは――二刀流だった。
「ほう。受けたか。流石だな」
ブラッドが感心した声を上げる。
その声にはまだ余裕がある。
――反面。
(何で!?)
コズエは焦燥していた。
(何でこの人――何も考えていないのに攻撃できるのですか!?)
先程の左手の短剣の攻撃について、思考が全く読めなかった。
いや、読めなかったわけではない。
ブラッドは、本能のままに剣を振るっているのだ。
今までの経験に培われた実動作。
「ほら次だ!」
距離を詰め、再び短剣を振りかざす。
カズマのジャスティスは防御するが、しかし四方八方から来るような乱打に対応できず、徐々に押され始めた。
その間、ブラッドの思考に歪みは無かった。
ずっと思考は一つ。
相手を倒す、というところだけ。
「ほらほらほら!」
休みなく攻撃を続けるブラッド。
その間、目を見張るような操縦さばきをしている。
通常の人では絶対に追いつけない程の速度。
それを本能で行っている。
だから強い。
(やはりこのままではお兄ちゃんは……)
コズエは焦る。
相手の思考を読み取って伝えることも出来ない。
ただ兄がなぶられるのを見ているしかない。
(どうしよう……どうしよう……どうしよう……)
考えることを諦めない。
ずっと考える。
手首が縛られている状況。
そこから抜け出すことさえできれば、相手の操縦を妨害できる。
ずっとは出来なくとも、少しでも妨害できれば、そこに勝機は見いだせるだろう。
意識を少し逸らせられれば――
(……そうだ! これはどうです?)
コズエは息を思い切り吸う。
そして――
「――あのジャスティスはクロードではないです!」
大声で叫んだ。
しかも、相手が動揺する内容で。
両手が塞がれていても出来るのは、口での攻撃だ。
だが――
「さあさあさあ!」
全く口撃は効いていなかった。
ブラッドは目の前の戦いに集中していて、コズエの言葉などに耳を貸していなかった。それは思考を読み取っても同じだった。
「そんな……」
コズエの目は絶望に浸っていた。
自分が出来ることが、あっさりと不発に終わってしまった。
他に何が出来るというのだろうか?
だが、今は動けない。
自分では何もできない。
何か仕込んでいればよかった。
口に針でも仕込んでいたら、飛ばして相手の手にダメージを負わせられたのに。実際含んでいても出来ないのだが。
(どちらにしろ、そんなのはボディチェックかなんかで見つかっていたでしょうね。何も仕込めなかったのが現状です。後付け論ですが、何も持っていなかったから、ここまで来られたのでしょう)
結果論。
だが、良い結果ではない。
かなり歯痒い状態だ。
目の前にいるのに、何も出来ない。
何も出来ずに、カズマがやられそうになるのを見ているだけ。
(……悔しい)
コズエは涙を流す。頭を振ってその涙を飛ばしてやろうかと一瞬思ったが、大した妨害にならないだろう。手を滑らせるとかいう操縦桿ではないのだから。
ただの後悔の涙である。
だから尚更悔しかった。
両手さえ縛られていなかったら。
何かできないのか。
何か。
(何かないですか……クロードさん……)
クロードの名を出した――その時だった。
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