第53話 復讐 18

「アリエッタ。褒美をやろう」


 同時に。

 正反対の感情が込められた――ように表面上は聞こえる言葉が、クロードから放たれる。

 クロードは、抱き寄せていたアリエッタの身体を一度離し、そして顎を上げる。


「はい。ありがとうございます」


 そう言って、アリエッタはしゃがみ込み、


「いただきます」


 クロードの――


 それは完全敗北の証であり。

 完全服従の印。

 周囲は絶句。

 その中で、アリエッタは靴を舐め続ける。

 無表情で。

 淡々と。


「気持ち悪いんだよ」


 唐突に。

 クロードは彼女を蹴り上げる。

 引っ繰り返る、アリエッタ。

 だが。

 彼女はすぐに前傾姿勢になり、


「ありがとうございます」


 もう一度、クロードの足に擦り寄る。

 垂涎しながら、彼女はクロードに頭を下げる。


「お願いします。もう一度だけ、あなたの靴を……」


「――この通り」


 アリエッタは完全に無視し、クロードは両手を広げてカメラに視線を向ける。


「アドアニア陸軍のトップが俺の下僕だ。そういう地位の奴も下僕にしているという事実を、世界中は認識せよ」


 クロードは足元の彼女を再び蹴り倒す。今度は起き上がって来ない。それを全く気にしない様子で、彼は演説を続ける。


「俺の名はクロード・ディエル。魔王と呼ばれる存在だ。そして――」


 得意げな表情を見せず。

 不敵な笑みも見せず。

 嬉しそうではなく。

 かといって不満がありそうではなく。

 無表情で。

 無味で。

 しかし、底冷えをしそうなほどの恐怖を与える声で。

 クロードは、堂々と宣言する。



「――『ジャスティスを破壊Justice Breakerする者』だ」

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