第21話 別離 03

「不老不死……」

「故に彼女は魔女である、というように結論づけられる訳ですね」


 パン、と話が終わりと言うように、彼女は一つ手を叩く。しかし、その言葉にジェラスは引っ掛かりを感じた。


「あの……アリエッタ様はそう仰いますけれど……」

「どうか致しましたか?」

「アリエッタ様はそこまで魔女について知っておられるのに……どうして、私が、魔女の息子が魔法を使った、ということに関して、最も想定していなかった答えだったのですか?」

「よく覚えていましたね。ジェラス大佐」


 彼女は微笑む。


「その答えは簡単です。私はこの文献、及び非科学的なことは


「え? でも、この文献は……」

「こんなもの信用できるはずもないでしょう。先程までのは、そう仮定した場合での話であって、適当な言い分を見繕っただけですよ。だから、大半が本当に戯言です」


 肩を竦めるアリエッタ。


「そもそも、文献に記されている『ユーナ・アルベロア』が、この国にいた『ユーナ・アルベロア』と同じとは限らないじゃないですか。たまたま同じ姓名、もしくは、彼女の一族は代々、長女にユーナと名付けるしきたりになっていた、などと考える方が、まだ不老不死よりは有り得るでしょう。まあ、文献ではない方の彼女の性が変わっている、などの矛盾ははらんでいますが、まだ現実的です。大体、魔女が地下資源よりも重要だなんて、馬鹿げた話でしょう」

「そ、それはそうですが……」


 煮え切らない態度のジェラス。


「まだ引っ掛かる所がありますか?」

「いえ……理屈では納得しておりますが……何と言いますか……勘と言いますか……」

「勘、ですか……」


 顎に手を当て、唸るアリエッタ。すると彼女は一つ頷いて、


「……そうですね。では、確かめに行きましょう」


「はい? 魔女が文献の通りの人物であるかをですか? それはどうやって……」

「いいえ。魔女かどうかを確かめるのではありません」


 そもそも、と彼女は人差し指を立てる。


「どうしてこの議論に発展したのでしょうか?」

「それは……魔女の息子が魔法を使ったのではないか、と私が言ったからです」

「ジェラス大佐は、どうしてそう言ったのですか?」

「ジャスティスが破壊された理由が判らなかったからです」

「そう、そこです」


 彼女は人差し指を額に当てる。


「ジャスティスの破壊手段が判明すれば、このような不毛な議論はせずに済むでしょう。実際に聞けばいいのです。あちらも、私が来ることを待っているはずです」

「危険です。私が行きます」

「いいえ。敢えて行きましょう」

「いいえ、いけません」


 乗り気満々のアリエッタに、ジェラスは釘を刺す。


「自らの立場をお忘れではありませんか?」

「立場? 元帥が行ってはいけないのですか?」

「いいえ。あなたはこの国に本来は『』に来る予定だったのですよ」

「ああ、そういえばそうでしたね」

「ですから、アリエッタ様の姿を見られて驚く方も必ずやいるのです」

「まあ、そうかもしれませんね」


 眼を閉じて頷くアリエッタに、ジェラスはほっと胸を撫で下ろす。


「ですから、ここは私にお任せを」


「ではのですね。分かりました」


「……」

「では早速用意をいたします。準備ができ次第、連絡を差し上げます。申し訳ありませんが、数分待っていてください。では」


 ジェラスが絶句している間に、アリエッタは拙速に立ち上がって退室して行った。


 残されたジェラスは、何処で訊かれているか分からないために文句も呟けず、ただ、溜息をつくばかりだった。

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