第15話 自覚 03
しかし、何時間経っても、誰一人として来訪者はいなかった。四六時中気を張っていた訳ではないので断定はできないが、襲撃などの大幅なアクションは夜になっても起こされなかった。
そして、再び月が昇り始めた頃になって、クロードはある結論に至った。
「何もなかった――そういう扱いにするってことか」
夕飯として作成したハンバーグの最後の一切れを口にしながら、彼はそう言葉を落とす。
(ルード軍は、ジャスティスが帰ろうが帰らまいが関係なく、こちらを視察するつもりはなかったのだろう。その帰還の是非で判断できるから)
頭を
「あー、阿呆だな俺は。死体の回収なんかする訳がないのに。むしろ、これ以上の汚点を重ねないために、こちらに来るはずなんてない」
となると、ルード軍が市民の反感を買うことが確実ではなくなる。
まだ露見していないから。
この事件が露見していないということは、つまり、誤魔化せるということ。
ここでルード軍がクロードの家に出張ってきたら、誤魔化さずに晒すこととなる。
(ま、俺に直接交渉するという手段の方を選ばなかったということは……殺すつもりなんだろうな)
当然、この惨状を知っているクロードは、本来ならルード軍に文句を言うはずであろう。
さすれば、わざわざ向かわずに呼び寄せることができるのだ。
そこで殺せば、露見はしない。
殺しても問題ない。
彼が文句を言いに行けば、反逆罪でも無理矢理付けられるから。
「あっちもこっちも誘い待ち……そりゃ来る訳ないな」
立ち上がり、食器を水に浸しながらクロードは呟く。
「こうなったら文句を敢えて言いにいかない。普通の生活をしながら、この惨状を広めるだけ広めてやる」
洗い物をしながらクロードは強い決意を込めた声で、こう放った。
「よし。明日は学校に行こう」
いつも通りの生活をする。
それが相手にとって一番嫌な選択肢。
何食わぬ顔をして、何事もなかったように振る舞う。
ルード軍は手を出せないし、恐怖感も与えられる。
そうすれば、流石にあちらからアクションがあるだろう。
和解交渉に持ち込んでくるのならば、それでよし。
殺すつもりならば――
「……その時に考えよう」
その言葉と共にちょうど最後の食器を洗い終わる。
そこでクロードは再び考えるのを止め、寝床へと向かった。
だが、クロードは気が付くべきであった。
今日一日、誰一人としてクロードの家に来ていないことに。
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