第16話 自覚 04

    ◆




 さらに翌日。

 ジャスティスが襲来した夜から丸一日経った日。

 最近の日照りとは打って変わって、曇り空が太陽を覆い隠している。

 そのような鈍重な朝を、クロードは五体満足で迎えた。


「さて、行こうか」


 手早く朝食を済ませ、折り畳み傘を鞄に入れ、制服を整え、いつもより少し遅めに家を出る。

 玄関を出てから森を抜ける道中、誰一人として気配を感じなかった。待ち伏せされて襲われる恐れがあっただけに、少しほっとして学校へと向かう。

 いつも通りの道は、何も変わっていないかのように静けさを醸し出す。

 誰もいないその道は、いつもより広く感じた。


「……いや、ちょっと待て」


 彼は異変、いや――異様さに気が付いた。


「何で……誰とも遭わないんだ?」


 森を抜け、いつも通りの通学路を登校している。近くの小、中学校の生徒も同様の時間であるために、普段なら人で賑わっている。

 それにも関わらず――誰もいない。

 子供。

 大人。

 老若男女関わらず。

 まるで、誰もこの世からいなくなったかのように――


「……いやいや、それは有り得ないだろ」


 クロードは首を振る。

 耳を済ますと、テレビの音が微かに聞こえた。どうやら、ただ外に出ていないだけで、誰もいないということではないらしい。防災訓練でもあるのかな、なんてこと思いつつ、特に気にせずに歩みを続ける。

 そして学校に到着すると同時に、


「……どういうことだ」


 クロードは呆然とする。


 前にも。

 後ろにも。

 右にも。

 左にも。

 上にも。

 下にも。


 何処にも――人がいなかった。


 普段なら、人で溢れ返っているこの時間帯。

 にも関わらず、まるで休日のように静まり返っている校門前。


「……臨時休校?」


 そう呟いてすぐ、教室に人影があるのを眼の端で捕らえた。


「何だ、いるじゃん……」


 胸を撫で下ろして、駆け足で玄関へと向かおうと一歩踏み出した――


「……っ」


 ――と、同時に、彼は気が付く。

 どうして、誰もいないのか。

 皆、早く登校しているのか。


 どうして――


「……違う」


 その考えを否定するかのように、クロードは短く首を振る。

 だが、彼の中では答えは出てしまっていた。


「嘘だ……そんな……まさか……」


 虚ろに言葉を零しながら、彼は全速力で校庭を突っ切る。

 上靴を穿き、階段を駆け上がる。

 途中で何人か生徒を見かけた。

 でも、彼は見なかったことにした。

 眼に映ったモノは、クロードの考えを肯定するものだったから。

 肯定したくなかった。

 否定したかった。

 眼を逸らした。

 階段から転げ落ちそうになった。

 堪えた。

 止まらなかった。

 前に進んだ。


 そして――辿り着いた。


 三階。

 自分の教室。

 2―A。

 開かれた前面の扉。

 そこに駆け込み、声を掛ける。


「おはよう」

 

 ――瞬間。

 皆の行動は素早かった。

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